37、旅行
あっという間に準備が整い、表向き結婚前の準備としてキース様のタウンハウスへ引っ越して早三日、王太子殿下が遊びにきました。
「王太子殿下、婚約おめでとうございます。お陰様で今期売上の最高記録を更新いたしました」
「ああ、キースが君に会えなくてかなりやきもきしてたよ。指輪のせいだ!って私へのアタリも強く、売上の広告費用を取りたくなったくらいだよ。忙しかったようだね。その勢いで結婚するとは思ってなかったけれど。結婚おめでとう」
内密ですが、王族他、関係者にはお伝えしてます。謀反の意志はありませんよーというアピールですね。
「それで、結婚プレゼントだが、二人で過ごせる旅行はどうかな?」
「それは視察でしょうか?」
「なぁに、ちょっと他国で二人羽根を伸ばして帰ってくるだけだよ。エリーナ嬢にはご褒美みたいなものだ」
…視察、否定しない。
「学園は休学か?」
キース様が確認です。
「いや、もうすぐ長期休暇だろう?それで行ってきてほしい。長くなりそうならちょうど行政科だし。実務レポートの提出であとから成績処理してもらう」
「西か?東か?南は落ち着いてるし」
「西だ。連邦政府への民衆の暴動が計画されてるらしい。原因の特定ができないということで、調査、できれば交渉の余地を確認してくれと内々からの達しだ」
暴動が起こる?それって危険なのではないですか?
「…エリーナは連れて行きたくない。危険だ」
「あくまで計画だ。心配なのはわかるが、男一人だと現地に馴染むのも時間もかかるし警戒されるだろ。それに二人を推したのは宰相閣下だ」
「…表向きはモーアのデザイナーが直々に支店を調査しようと視察へ。もちろん、支店をそのまま出してもいいと許可はもらった。平民向けも展開する段階で何かしらひっかかるはずだと宰相閣下が話してたぞ。エリーナ嬢の店はあっちでも有名になってきたからな。婚約者のお前は心配で一緒についていく。というスタンスだ。一部の民衆の暴動の計画内容までは把握できないかもしれないが、潜入した情報をこっちへ伝えてもらい、交渉の糸口を掴む。お前の隠密行動の実力はエリーナ嬢へのストーカー振りで公認済みだよ」
「…連絡手段を後で教えてくれ」
私達に反論の余地はなさそうです。というか、不穏な言葉が並んでた気がします。私へのストーカー?隠密?先を聞くのが恐ろしいので触れないでおきます。
かわいいと言う意味のモーアは西の言葉ですし、西の連邦国は婚約破棄などの流行の最先端のイメージはあります。暴動が起こるかもしれないと聞いて不安はありますが、最新の流行にも惹かれます。
「エリーナ嬢にはキースの長期休暇が始まる前までに馬に乗れるようにしておいてほしい」
「長期休暇か。正直ギリギリだな」
「わかってる。だからだ」
私を見ながらギリギリとか言わないでください。失礼です。
*****
「一人で乗るのは最悪の場合です。基本はキース様と乗っていただきます。国内は馬車で行きますが、スピードを考えて国境から先は二人乗りです。帰りは状況次第になります。まずはとにかく馬に慣れてくださいね」
今回教えてくださるのは一緒に向かう護衛のラクナさん。実は特殊任務担当の騎士さんらしいです。旅行へいく直前でもいいのですが、殿下が私の状況を鑑みて先に顔会わせしてくださいました。後ろに立たれるのはまだ怖いですが、頑張りたいと思います。
「乗ったことは?」
「ございません」
「ですよね」
まずは自分で乗るための練習を地上で繰り返します。初乗りはキース様と一緒にと言われてます。実際も帰りにそうなりますしね。
練習のあとはモーアの打ち合わせ、午後からはモーアのデザインをいくつか描き、西の公用語を復習します。簡単な言葉は分かっておきたいですからね。そろそろキース様が学園から戻るころです。タウンハウスから乗馬練習場へ向かいます。
「じゃ、行こうか?」
栗毛の馬はサックという名前で、キース様と私が乗っても安心な馬力のある馬だそうです。膝裏を抱えられ、ふわっと乗せられました。急に視界が高くなってクラっとしました。不安になって身体が強張ったところを後ろから抱きとめられました。
「大丈夫…怖がらないで。ゆっくり進むよ」
耳元で囁かれてドキドキしました。私、火照ってうなじが、赤くなってる気がします。思った以上に近いんですね。ゆっくり進むたびに揺れてキース様に密着します。姿勢を正して集中です。エリーナ。邪なことは考えないで。
「エリーナ。馬の揺れに合わせないと疲れちゃうよ。緊張しないで」
呼吸を整え、前を向きます。いつもと違う視界で、歩いているようで新鮮です。
「慣れたら今度は後ろに乗ってスピードをあげていくからね」
「はい」
乗馬練習場についてからは一周して、次は自分で乗ってみます。地上で練習した通りに乗れましたので、キース様に手綱を引いてもらって進みます。
「長期休暇までに間に合うでしょうか」
「ギリギリだね」
…ですよね。




