34、婚約者と夜会で
領地から馬車でキース様と戻ってきました。帰りを心配したべルートがサリーを絶対に一緒に座らせるということで、なんとか落ち着いてもらい、領地を出ました。サリー。ありがとうございます。
今回、初めてキース様の婚約者としての夜会に参加します。実は夜会では黒はあまり使われていません。喪に伏している服としてのイメージが強く、好まれないとのことです。ですが、黒はキース様の髪色ですので、私は気にせずに何回かデザインを考えました。中々いいデザインができずにずっとボツになっていましたけれと、今回、やっと固まって、領地に行く前にデザインを発注できました。
足元から黒の刺繍で草花を描き、クロアゲハのような黒蝶をあしらいました。黒にキース様の瞳の色のアメジストにみえるように、少し紫で色をつけました。上はキラキラのスパンコードを散りばめて、クリーム色のふんわりとしたプリンセスドレスライン。ドレープをつけて、片方だけ肩に黒のツヤツヤした光の生地をアクセントでつけ、やっと完成です。
いざ、出陣です。迎えにきてくださったキース様のデザインにも、私の髪色の金色が刺繍されています。本日の夜会は王城で行われます。私のドレスを見て、「…俺色だね。」と一言いただきました。もっと沢山伝えてくださると思ってましたが意外です。耳を赤くして、照れてるようです。
今回は王太子は紫令嬢と踊ってます。あくまで婚約者候補ですものね。権力に挟まれる王子・・・。中間管理職のようです。
私達も、ダンスです。デビュタントを思い出します。お父様と一緒にコバルトブルーのアクセサリーで踊りました。今日はアメジストのアクセサリーセットで、相手はキース様です。あの時よりダンスは下手になってました。ステップを間違えてしまいましたけれど、そこはさすがのキース様です。しっかりフォローしてくださいました。
渾身のドレスは、促進販売としてはいまいちです。黒アピールは難しいですね。
でも、いいのです。これは私がキース様へ愛を込めたものですから。
ダンスの後は挨拶回りです。ええ、猫被り、頑張りましたよ。同じく夜会に参加されたニコバッグ仲間のカスリン様に、たまに残念な目で見られましたが、私は頑張りましたよ。
それにしても、ニコバッグは私が想定した以上に流行しているようです。便利ですものね。男性用、子供用と次々と出ているようです。もったいないことしましたね。モーアから、別の雑貨ブランドを立ち上げても良かったかもしれません。
「エリーナ。また何か思いついたのかい?」
キース様の声掛けで、今、王太子殿下への挨拶中ということに気づきました。ロイヤルガーデンで会って見慣れてしまったのか、集中が切れたみたいです。すみません。
「…君はもう少し、貴族向けの対応を練習したほうが良さそうだね。」
失礼ね!ルナタル様の気持ち、確認した恩を忘れたのかしら?まったく。私は、やればできる子なんです。猫被り、ちょっとだけ、顔に出やすいだけなんですから。王太子殿下の隣にいる紫の令嬢が馬鹿にしたようにこちらを見て、目が会った瞬間に鼻で笑われました。
「カスティナス男爵のご令嬢は夜会の常識も持ち合わせていないようですわ。黒をモチーフにするなんて、はて?今年はどなた
か亡くなられたのかしら?」
「あら、私はこの黒も素敵と思いましたけれど。」
ざわりと空気が変わります。
王妃様が直々にお声掛けです。
「キース様の色よね。黒の蝶に紫が映えて素敵です。あなたが着るには大人っぽい仕上がりね。キース様に合わせているのかしら?お互いに溺愛なのね。」
わぁ。褒められました。嬉しいです。
「お褒めに預かり光栄です。」
「息子の婚約式のときはよろしく頼みます。」
ざわつく周囲。《モーアのファン》王妃様、健在ですね。まさかここで言われるとは思いませんでした。さらに王太子殿下の状況を把握した上での発言でしょう。社交界、怖いです。
「承知いたしました。ご期待に添えますよう、誠心誠意対応いたします。」
指輪は情報統制していますのですが、王太子殿下と私が何かしているのは勘づく人もいるかもしれません。気をつけなければなりませんね。卒業式のプロポーズ大作戦。
内側の文字入れは殿下自身にしてもらいましょう。ダイヤモンド、この世界にもありました。
「…私の子供たちは人気者で、私に挨拶もこないのかな?」
宰相閣下がほがらかに声をかけます。
「家族ですから。あとからでしょう」
キース様が貴族の笑みで答えます。私をすでに迎えてるとアピールしてます。こうやってあまりに囲うから、すでに乙女ではないとか、不名誉な噂が立ってしまうとルナタル様が仰ってました。ここはきちっとしないといけないです。
「ご挨拶遅れまして申し訳ございません。先日はキース様直々に領地へお迎えいただきました。ありがとうございます。」
たぶんお仕事少し宰相閣下に投げてきたって言ってたのよね。その後、返されたらしいけれど。
「いつでも来ていいよ。…キースは君のファンが多すぎて捕まておくのに必死なんだよ。」
「…モーアのデザイナーはいつも魅力的で、私はいつも気が気でない。今日は私色の蝶を纏っていつもより私に染まりたいのかな?」
恥ずかしげもなく腰に手をかけてダンスホールへ向かいます。私、さっきから顔から火を噴いてるかもしれません。ダンスのあと、冷たいドリンクを飲んで、ぼーっとしながらデザイナーの発注を受けたご婦人もいらっしゃった気がします。たしか、タムナス伯爵のご婦人よね。これから忙しくなります。
「疲れたようだし、私達はまだ学園生だからね。そろそろ帰ろうか。」
馬車の中はキース様の膝の上で、今までにないほどのキスを繰り返されました。
「はぁ。卒業まで我慢できるかな。」
キース様、ため息とともにつぶやきました。私も不安です。
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