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32、ニコバッグ

「チクチク、チクチク」

 皆さん裁縫や刺繍はお手の物のようで、静かに作業していきます。


 私?もちろん得意です。前世から補修作業が当たり前でしたので。ああ、贅沢してますね。こんな高級でつややかな糸をいっぱい使えるなんて。


 最初に仕上がったのは私のファンであるカスリン様です。

 薄い紫の生地に取っ手部分にフリルを付けて、くるくる丸めたところの紐と留め具のところは薄いピンクの勾玉模様の石を加工してもらい付けました。


 思った以上の出来です。とてもかわいく仕上がってます。

 まるめた状態はピンクの石がアクセントで、拡げるとスミレの刺繍が手のひらサイズでアクセントとなります。


 私は水色の布地に取っ手部分にレースをあしらい、木のボタンで、林檎の木とリスの刺繍です。青空ピクニック。《かわいい》は別にきれい、うつくしいとセットでなくてもいいのです。小さい仔犬がかわいいという幼さのかわいさもあるのです。

「女の子らしいイメージではなかったけれど、これもかわいいのね」

 一定数の評価は得られそうです。このニコバッグは平民にも受けがよさそうで、お母さんが子供に持たせたい!と展開していけたら、面白くなりそうです。


 ルナタル様は、薄い緑に刺繍は赤いバラ、金色のボタンですね。金色。あ、金髪の王太子からの依頼、忘れてました。


 聞くなら今でしょう。


「私も黒いボタンにすれば良かったかしら。好きな人の色を自然に選んでしまうなんて、ルナタル様は王太子殿下をお慕いしていらっしゃるんですね。王太子殿下に恋を自覚したのはいつだったのですか?」

 ズバッと聞いてみます。好きなのは分かってますから。

「そうね。私、そもそも王子様に憬れはなかったのよ。私は親からわがままな王子の話ばかり聞かされていたから。確かに最初会った時はなんてわがままな王子だろうと思ってましたの。物語に出てくるワガママ王子と同じで」

 クスクス思い出し笑いで話始めるルナタル様。まさか殿下が腹黒いロイヤルスマイル前はわがまま王子とは知らなかったです。

「それから、婚約者として、一緒にレッスンをということで、真面目にやらない殿下に腹を立てて怒ってたりしたこともあったわ。ただ、歴史の先生が嫌味たっぷりの先生でね。ひと泡吹かせてやろうと二人で必死になって勉強したわ。二人で一緒に頑張ったのよ。私は殿下の努力するとこもみてるし、一緒にいたいってその時思ったのよね。たぶんその時だと思うの」

「その時は婚約者候補ではなく、婚約者だったのよね。婚約破棄事件が相次いでから、婚約者候補にしておこう、と話になって、3人選ばれたのよね」


 アリーナ様が思い出したように話します。婚約破棄の余波はこんなところにもあったんですね。

「卒業後は何らかの打診がくるとは思うけれど、もういっそのこと駄目だったらどこかへ嫁ぐ覚悟もしておかなければと思ってるわ」

「いっそのこと卒業式にお慕いしているとお伝えしてみてはどうかしら?」

 勢い良く話し始めたのは緑の髪が爽やかな茶の瞳で本が大好きなフローリア様。

「今は流行ってるみたいですの。女性からの告白」

 また新しい物語が流行りだしたようです。

「…そうね。玉砕したら殿下のいない他国へ行きますか。あなた達には会えなくなってしまうけれど」

「………。」

 シーンとなっちゃいました。

 大丈夫です。プロポーズ大作戦決行いたします!!言いたいけれど言えない。

「その前に一緒にお泊りしましょう!私、皆さんともっと仲良くなりたいです」

 空気を変えようとお泊り会を思わず企画してみました。空気を読んで皆さんの楽しい話題へと変わりました。


 *****


 楽しかった刺繍タイムも終わり、いよいよニコバッグ、提出です。すべての提出物が教壇の前に並びます。

 ころっと丸まった布に「これは何?」と周囲は興味津々です。

「あらあら、下着かしら?モーアのデザイナーさん。履き忘れてお倒れにならないようお気をつけあそばせ」

 私が倒れた時にいらした紫の令嬢が、嫌味を投げつけます。

 すかさずそれぞれのグループが応戦。

 私が言い返すこともなく、女子同士の言葉の応酬が始まりました。王太子妃にふさわしい、ふさわしくないで話がすすんでいるようです。結局は先生が来て、引き分けでした。


「ほへーって顔になってるわよ。別に参戦しなくてもいいけれど、その顔は止めなさい」


 ルナタル様に注意されました。猫被れてなくてすいません。


 さて、ニコバッグのプレゼンテーションです。

 平民への展開も含めて熱く語ってしまいました。

「・・・ニコバッグ。既存のものはカバンとして、そこに装飾した、でも完全なオリジナルなのよね。折り畳めるバッグなんて、今までになかったもの。これ、便利ね。商品化間違いなしだわ。モーアのデザイナーだから、学校側の利息割合は交渉次第となるけれど、グループ学習だし、モーア側の利益は少なめになるでしょう!間違いなく売れる!ニコバッグ!学園長に伝えてはやく利益契約書の作戦会議よ!」

「先生?」


 先生、本音、ダダ漏れです。交渉は粘りますよ。こちらもお金は大事ですから。ただニコバッグは男性向けにも活かせるので、モーアでは展開しにくいです。よろしくおねがいします。


「コホン。では、次のグループ、どうぞ。」

 先生、先生はもう商人にしか見えないです。


 *****


 授業の後、交渉が始まりました。モーアのデザイナー料はなしで、あくまで授業の一貫でグループに報酬をという契約書でした。いやいや、モーアのデザイナー関わってるのは周知の事実なんだから、せめてモーアデザイナー監修くらいは付けて、一部利益入れていただかないと。


 モーアのミクリさん、経理のユーザさんも交渉の席に呼び出しました。仲間召喚です。結局、グループへの報酬(デザイン料一回きり)、モーア監修(謝礼として、初回売上のニ割)として話がつきました。私はデザイン提供いたしませんので、妥当な契約でしょう。学園側が雑貨屋と契約して、あとは展開よろしくです。


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