30、未遂の傷跡2
「エリーナ!」
キース様が焦った顔でいきなり抱きしめます。
「無事でよかった。…なんで泣いてるんだ?」
「……私はお邪魔のようですので、退席致しますわ。お大事になさってくださいませ」
あ、ルナタル様にお礼だけでもつたえなきゃ!!
「ひっく。……お待ちください!あの、助けていただき、ありがとうございます」
ルナタル様と眼が合います。
「・・・・。」
何か言おうとしてるみたいですが、ため息つかれました。そうですよね。急に倒れちゃって、迷惑かけてしまって、すみません。
「・・・・・・ああもう。見てられませんわ!!貴方、周りが見えていて?私も心配してるのよ。頼りになさい!」
・・・頼りにする?
ルナタル様は近づき、涙を拭いた私の手を握りしめます。
「…目の前で人が、倒れたのよ。心配しない訳ないじゃない」
「…しかも、わざわざ令嬢にからまれてるところを助けにいってね」
キース様がにこやかに補足します。
「貴方はもう、私の大切な友人のひとりなの。お願いだから、もう一人で苦しまないで。守るから」
「攫われた時もとても心配してくださったよ」
・・・《友人》?
私のこと、友人と思ってくださってたんですか。
あぁ。なんだかとても胸がポカポカしてきます。
心配してくれて、助けてくれて、嬉しいです。
「…っつ。あ、ありがとうございます」
ルナタル様、赤く、にやつく頬を引き締めて、
「一人での行動はできるだけ避けなさい。落ち着いたら、あとで私の友人たちを紹介しますわ」
プリプリ怒っているように照れながら保健室を退室されました。
その日はそのまま診察をうけました。先生からは、過度のストレスによる心意的負担で、休養が必要と言われました。三日ほど休むことになりそうです。そのあと休日がありますので、授業は週明けですね。
「・・・エリーナ、すまない。口さがない人たちからこれからも言われてしまう。謹慎なんて生ぬるい判断をしたことを後悔してる。でも好きなんだ。離れたくない。許してくれ」
「私も好きですよ。キース様。ただ、あなたの膝の上は恥ずかしいですわ」
「人前ではしないから安心して」
「…そういう問題ではないんです」
いつも馬車の中では隣同士で並んで座ってます。が、今日は抱きとめられたまま膝に乗せられてしまいました。倒れたあとから頭もボーッとしてますし、揺れる馬車の中でふわふわしていたので助かりました。もちろん嫌ではありません。安心できます。
「じゃ、どういうこと?嫌なの?」
「嫌ではないです。重くないですか?痺れないですか?」
「全然!毎日したいから馬車の中はいつも膝に乗せてあげよう」
恥ずかしい約束ができました。
*****
「エリーナァァア!」
バーン!とドアを開ける相変わらずのおじい様です。元気で何よりです。
私は膝の上から、そのままお姫様抱っこでベッドへ連れていかれました。私、精神的にも恥ずかしさで疲れたみたいです。諦めの境地ですね。
「スメス様、エリーナ様は休養が必要なんです。お静かにお願い致します」
キース様はベッドで横になった私の隣でおじい様へ律儀にお願いしてます。
「わかっておるわい!!エリーナ。謹慎組にも会ったと聞いておる。反省もしてなかったとか、もっと厳しい処罰にすればよかったのぅ。すまんのう。しかも、あやつの娘に目をつけられたのは厄介じゃ」
おじい様、情報早い。あやつの娘って、紫令嬢のことかしら?
「ルナタル令嬢と仲良くな。さあもう寝なさい」
そうですね。ルナタル様と友人になれました。嬉しいですね。
「姉上!!」
バーンとドアを開けて入室したのは弟のベルートです。おじい様に似ましたね。
「静かに」
キース様、ちょっと怒ってますか?連打ですものね。
「心配かけたわね。お祖母様のとこの帰り?」
しっかり幼児から少年へと変化しました。
「はい。すでに学園への入学前の準備は整って、しばらく領地入りする予定で準備してました。無事で何よりです」
「そう。長期休暇では領地へ行くわ。」
「なぜ?今すぐ領地へ帰りましょう。王都にいては治るものも治らないのではないですか?!」
誘拐されてからの弟の過保護っぷりが半端ないです。
「…領地へはまだ行かないわ。授業があるもの。お医者様も二三日休めばまた授業へ参加してもいいと言われているし。」
「でも、、、。」
「…領地のこと、よろしくね。」
ぐっと耐える顔が、ああ、大きくなったなぁと思います。
「さぁ。エリーナ。おやすみ。」
疲れているだけで眠たくないのです。が、キース様がまぶたを手のひらで温めてくださいます。少しだけ、甘えますね。おやすみなさい。
「キース様、お姉様を守るって約束したじゃないですか?何してるんですか」
「…すまない」
「こんなこと、二度とないと思いますけど、次があったら領地に引きこもらせて帰しませんから。姉は領地が好きですし、戻ってこないでしょうね」
「ナイトがふたりじゃのぅ。はっはっは」
「おじい様、静かに!起きてしまいます」




