21、彼女と出会ってから(キース)
話題の孤児院を見にいこうと言ったのはルートン領地の隣の領地のマーラスだった。
学園へ入る前に領地を遊学する王太子殿下に付き従い、俺もルートン領地へ行った。
彼女に出会った時に興奮と感動と、よく分からない喜びに身体が震えた。
子供たちへの振る舞いは女神のようで、私より1つしか違わないとは思えない。金色に輝く髪、コバルトブルーの瞳。
結婚してほしい。彼女以外に考えられない。
それからはお忍びで彼女を見にいく日々。
友人たちや殿下には散々窘められた。
ストーカーだと。
モーアのデザイナーとしても活躍している彼女。
下着店の前でウロウロしていた時は流石に宰相をしている親父に叱られた。
彼女自身の知識や考え方は飛び抜けていて、どこからの発想かわからない。ドキドキする。
デビュタントで、いよいよ私も声をかけよう。
親の紹介なしに、成人になっていない女性に声をかけることは周知のタブー。
やっと見つめるだけでなく、近くで声を聞ける。興奮してくる。
なのに、
「まずは私が。いくらお前が惚れた女でも、お前は跡取りだからな」
ニヤニヤと意地の悪そうな父上の発言に全身の力が抜けた。
でも、社交界では結局父も少しの会話だけだった。しかも親と。
うちの親父が久しぶりの社交界出席となり、慌ただしく過ぎてしまったのだ。
俺自身も次期宰相の嫁ポストを狙った令嬢たちに取り囲まれて見動きとれなかった。親父が珍しくきたせいで、色めき立ってたんだ。
それなのに、
「いや、王妃様がモーアにデザインの発注をされてな。その時に話したぞ。なかなか利発そうな娘だな。平民であっても男爵になれるくらいの器量持ちだ」
親父はエリーナ様と話したんだ。
その晩は悲しくて泣いた。
学園でも王太子殿下が先に話している。
単純に興味だけだ。
俺は遊ばれてる。
でも、紹介してもらったので可とする。さすが殿下だ。
*****
いきなり告白したのは悪いと思ったけど、止まらなかったんだ。すまない。
直接会って、初めて話して、エリーナ、君をもっと好きになってしまった。
ただ、あのお茶会から
殿下から逃げられるぞ、と忠告を受けて。
殿下の想い人、ルナタル様より、可哀想な人を見るように慰められて、
我慢することにしたんだ。
エリーナと薔薇色の学園生活か始まるはずだったのに、遠くでこっそり眺めるばかり。
彼女は目が合うとはにかみ微笑んでくれる。
あまり視界に入ると気持ち悪がられるって言われたから隠密行動も得意になってしまった。
*****
領地に行くと聞いて、作戦を立てた。
周りから囲んでしまおう。
親父と約束して、休暇の前半だけ、自由をもぎ取った。
ついでに、婚約の許可も。
そのために学園から帰ってからの親父の仕事の手伝いが一気に増えた。
やっとの思いで乗り切り、彼女に会いにルートンへ。
毎日想いを伝えた。
彼女の周りにもはっきりと。
気持ちが伝わっているか不安だったが、
拒絶ではなく、恥ずかしがっているだけだとメイドのマーサさんに教えていただき、ちょっと踏み込んでみた。
手に触れただけなのに、我慢できなくて。せめて自分の想いを遺したい気持ちで手の甲に唇を寄せた。
拒絶されたかと思った。
「…また学園で。ごきげんよう」
そのまま立ち去る彼女。
……ま・た・が・く・え・ん・で?
湧き上がる歓喜。ガッツポーズ!
護衛が残念な目をしている。
戻って彼女とのデートプランを考えねば。
*****
王都へ戻るとエリーナが悪いイメージで語られてた。
男漁りが激しいとか、殿下と俺に媚び売ってるとか。
…媚び、売ってほしい。
んで、ルナタル嬢に叱られた。
「しっかりしなさいよ。周りが見えていて?あなたの好きはその程度なの?彼女、ターゲットにされたわよ」
*****
分かっていた。何か起こるかもしれないと。
そうだ。浮かれてたんだ。諫言も耳に入ってたのに、彼女といる今の幸せをとった。
私はエリーナが助けを求めることを望んでたんだろう。
私を求めてくれると。
浮かれていた。
まさか誘拐とは。
貴族令嬢を狙ったら、足がつく。
隠密行動で知り合った隠密のプロに金を使って聞き出す。
「あぁ、お前の想い人な。可哀想にな。サラマンマケト伯爵の令嬢がつい二日前にゴロツキ頼んでたぜ」
ゴロツキの特徴を聞き出す。
――俺の取り巻きでない。
――殿下の婚約者候補だ。
おそらくエリーナがルナタル嬢と懇意にしていたことでルナタル嬢から寝返った令嬢がいる。
――アイラス侯爵令嬢。
調べるうちに、俺の取り巻き令嬢の1人ハーモル侯爵令嬢もピックアップされた。
布の盗人を依頼したのはアイラス侯爵令嬢、
誘拐もどきで街に放って置こうとしたのはサラマンマケト伯爵令嬢、
ハーモル侯爵令嬢はその様子を見て、ライバルが1人減るならと協力したらしい。
処分は親父に任せて急ぎ山小屋へ向かう。
間に合ってくれ。
急げ!キース!




