19、デート、ではありません。
「着いたよ。ようこそ、マナサルト伯爵が領地タコミナスへ」
さて、本日、キースさまの領地の視察へやってきました。
デートではありません。
距離を置かなきゃと思ってる矢先にこの打合せです。
仕事とはいえ、今はつらいです。
近くにいたら、絆されてしまいます。
ズブズブに甘やかされ、気を許してしまいそうです。
「ルートン領地での成人前の試験の権利の売買の話、他領でやるならうちはどうでしょうか?そのまま婚約してくださいませんか?」
と言われておりましたので、行くしかなかったんです。
婚約、もちろんしませんけど。
制度が馴染むように領地を見ないとね。ということで。
むむむ。納得させられてしまいます。確かに、現地で気づくこともありますし。
権利の売買に関しては慈善事業として薄利でも、可とします。
問題はどれだけマイナスのイメージをつけずに他領へ売り込むか。
ここが最初のビジネスプランです。
気合いが入ります。
*****
キース様の領地は王都から1日でいける距離にあります。
よって、状況は王都とほとんど変わりません。
特徴があるとすれば、その交通網と水の豊かさでしょうか。
我が領地と違い、整備された道路、王都土産の買い忘れや旅の必要品の買い物でで商店も賑やかです。
移動するときに通りたくなる街並みです。
孤児院の前に、領主へご挨拶です。
貴族のルールですものね。
領主の館も案内されます。
「ここが私の執務室、父からの業務も少しずつだけれど、手伝いしてる」
ほへー。
立派な執務机に、結構な資料の山。
実践的に任されているんですね。尊敬します。
同時に次期宰相と言われる姿、夜会でのキース様を思い出し、私とは住む世界が違うと、切なくなります。
客間へ移動し、制度の説明をしていきましょう。本日、私は仕事にきたんです。宰相閣下はもちろん不在で、領主代行の方がいらっしゃるんですよね、、、
宰相閣下は毎日、王城に勤務して、、、
、、、してない!
え?今日休み!?
なんでいるんですか?宰相閣下!
「いやー、カスティナス男爵令嬢?エリーナちゃんと呼んでいいかな」
しかもなんか軽いです。
デビュタントで会ったときと雰囲気が違います。
「お初にお目にかかります、カスティナス男爵家が娘、エリーナ・カスティナス・ルートンでございます」
カーテシーをしようとしましたが、止められました。
主にキース様に。
「親父今日休みって言ってた?」
いきなりぶちこむ親子の会話です。
こんな話し方するんですね。
「ないしょで休みをとった!」
赤くなったり青くなったりするキース様、どうしたのでしょう。
「奥方様もご存知です」
グレーのスーツと眼鏡が似合う執事らしき方が追加説明。
「ようこそ、我が家へ」
宰相の言葉に天を仰ぐキース様。
「…今日は領地の視察です。交通網の発達した街並みで、かなり人通りが多いように感じました。ここで、成人前の試験の実施をすると、
溢れてしまうのではないでしょうか?」
「…デートじゃない」
キース様がつぶやきます。
はい。デートではありません。
うちであれだけ集まってしまったのだもの。王都に近いですし、飽和状態になってしまうと、同じ孤児院の経営圧迫が懸念されるのではないでしょうか。
「それだけの労働力を確保できるなら、問題ないよ。水道工事含めて人材はいくらあっても足りないからね。真面目な子がほしいから、試験を受ける子は優先させたいし。王都に近いから、住むところや仕事は選ばなければあるだろうしね」
「教室は、開きますか?実はこの教室がかなり赤字経営なんです」
「なしだね。試験だけにしていく。学ぶところで経済を生ませる」
学習塾ですね。
あとはインターン制度についても質問です。
「職場体験ね。どれだけの善意で動いてくれるかってところだな。」
「動いてくれなかったんです。スタートは私財で払いました。優秀な人材を先に見つけるメリットもあったみたいで、活用してくれる人もいます。今、注目されてますけれど、あまり伸びてません。デメリットのほうがやはり大きいのでしょうか?」
「…そうだね。ゆとりのある時はいいけれど、教えるのも金がかかるからな。"時は金なり"だ。あとは、王都にスラム街があるから、孤児院から出た子はそっちで稼いでる子もいるからな」
なるほど。
領地では状況がわからないまま、自分が前世の知識を勢いのみでやっていたと気づきます。
「…エリーナ様、女神様、惚れます」
なんだか変なつぶやきが聞こえます。
「エリーナちゃんはどうやってその制度を思いついたのかな?発想も独特だけど、こんなにいい案がどんどん浮かんでくれたら、会議進みそうだよね」
すみません。前世の知識です。
「ひみつです。すみません。私、矢継ぎ早に質問してしまって。多くの質問に答えていただきありがとうございます。キース様にも領地のことで沢山ご相談させていただきました。」
「こちらこそ、息子キースが世話になったね。それで、うちに嫁にくる話だけど、、、」
「親父!ちょっと待ってくれ。この話はまた後で」
えぇ。待ってください。私、猫被りも下手ですし、貴族社会では男漁りの噂をたてられたハジキ者です。なんでも卒なくこなすキース様とは釣り合いませんよ。
話はそのまま有耶無耶になって、孤児院をみたあと王都のタウンハウスへ、帰宅しました。




