5-4 水龍のいる海へ
僕達は空を飛び、次の目的地である水龍がいるであろう場所の上空を飛んでいた。
「どうやって水龍の魔石を取得するつもりだ?水の中にあるのだろう?私達ではそんな深海までは泳いではいけない。到底息が持たないぞ」
「考えればそれほど難しいことではない筈だけど…分からない?」
「さっぱりだ…いくら何でも炎でここにある全ての水を蒸発させられるわけではあるまい?」
「くっ、ジュディスも冗談を言うんだね」
「じょ、冗談などでは決してない。今のは本心から言ったんだ」
「そう、そう言う事にしておこうか。ここから水龍の魔石を取るのは簡単なことだよ。僕達が水の中に潜れないというのなら、向こうからここに来てもらえばいいんだ。こうやってね!」
僕は海の中にポッシェから大量の砂糖を海の中に放り込む。
「海の動物たちは、海水に取り込んでいる物を大量に体内に取り込んで生きているんだ。どんな生物もね。だからこうして砂糖なんかを大量にぶち込むと体調に不調が出てきてもおかしくはない筈」
「そんなことして問題ないのか?他の海の生物にも影響が出かねないだろう」
「確実に出てしまうけど、それは仕方のない犠牲として諦めるしかないよ。僕の手の届く範囲に棲息していない水龍が悪いんだ。文句なら全て水龍に言うんだね…それにしても砂糖を入れた程度では出てこない様だね…こうなったら…仕方ないありとあらゆる調味料を投入してやる」
胡椒やゴマ、酢、醤油やケチャップ、味噌、ありとあらゆるものを大量に投入しだした。海なのに塩まで入れだした。この広大な海にとってはその量は微量でしかないが、局地的な見地を以てしてみればこの場所の海はもはや海水とは言えない代物になりつつあった。そうなって初めて、水龍の気配が水面まで浮上してくる。
「この海を冒涜せし者は誰じゃ?一体どんな理由があって海を汚すのじゃ。わわわは寛大じゃ。そおの理由がもし真っ当な物であれば許してやろう」
「姉が言うには、貴方達は何者ですか?ここでどうして海にごみを捨てているのか?と聞いています」
どうやら二人は姉妹のようだ。姉も妹も只物ではない。水龍が化けた存在であることは間違いがなさそうだ。しかし僕には適切な言い訳が見当たらなかった。ここは開き直るしかなさそうだ。
「僕は君たちの魔石が欲しい。だから海を汚せば君たちが現れると考えたんだ」
「何ですって!?海よりも妾が欲しいと、そう言う事をいきなりいう輩が現れるとは…いとおかし」
「姉は、しね豚野郎と仰せです。この世から消えるといいでしょう。私がその手伝いをしてあげましょうか?」
「いや、遠慮しておく…君たちのような姿をした水龍から無理矢理魔石を奪う事はやはり躊躇われる。僕達は帰ることにするよ」
「待ちなさい、それは許されません。海を汚した罰は受けてもらいます」
「待つのじゃ、レヲラ。そこの殿方は妾に気がある様子。その処罰は妾に任せてもらいたい。そうして給れ」
「仕方ありませんね、フル姉さんの頼みなら。如何するつもりですか?生温い刑罰では許されませんよ」
「お主ら、覚悟はできておるんじゃろうな?このままなら確実に我が妹がお主らを処罰するであろう。それを妾が助けて進ぜよう。この薬を一粒ずつ飲むがよいぞ。さすれば、お主たちは生き長らえるであろう」
「ここは、大人しく従うしかなさそうだ…力量が違いすぎる」
「何の変哲もない丸薬の様だが…本当に飲むのか?」
「一思いに飲んだ方がこういうのは後悔せずに済んでいいよ」
「生きる為なら仕方ない、か」
僕達は潔く丸薬を飲み、意識を失った。
「こんな二人を眠らせてどうするつもりなの、フル姉さん。いっそのことここで全てをお終いにしてしまえばよかったんじゃない」
「そう言う訳にはいかない…贖わせなければ、それが秩序という物」
「ま、姉さんがそう言うなら従うけど。連れて帰ってどうするつもりなの」
「折角妾に告白してきた男。婚礼の儀式に挑戦してもらうのがよかろう」
「何ですって!?万が一、もし万が一挑戦に成功したら結婚しなければならないんだよ?それなのに、儀式をするつもりですか?それは罰とはいえません。私は反対です。姉さんにはもっと相応しい人がいるでしょう」
「そう言って妾には未だ婚約相手すら見つからんではないか。お主らがすべて排除しておるのは分かっておる」
「ぐっ、確かにそうですが…それとこれとは話が違います」
「いや、同じ。お主がこの提案を受けぬというのなら、妾はこの海の領域から出ていく。それでも良いのか?」
「そ、そんな。どちらを選んでも、出ていく可能性が残るではないですか。分かりました、儀式を認めるしかなさそうですね…。こんな事なら、海上に偵察に来るべきではありませんでした。他の人に任せておけば、今での姉さんと一緒に暮らせていたのに」
二人は僕達を引き連れて海の中に潜っていった。僕達は完全に気絶しているので、辛うじて生きたまま海底都市に連れてこられることができたようだ。気が付いた時は空気のある場所で、ベッドの上で眠っていた。
「ここは、何処かの寝室の様だけど…」
「おそらくここは海底都市の中だろう」
「先に目を覚ましていたの?外の様子はどうなっているの?」
「まだ分からない」
僕はひとまず落ち着くことにした。ここが海底都市だというのなら好都合だ。ここに目的のものがあるのだから。
「それにしてもよく殺されなかったものだ、正直肝が冷えた」
「僕もてっきりお終いだと…僕らはなぜ生かされているんだろう」
「さあな、だがこれだけは確かだ。これから何を要求されても文句を言える立場ではない」
「…何だか、肌寒いな。不気味なことは言わないでくれ」
「だが、事実だ。何の制裁もなくこのままここを出られるとは到底考えられそうにない」
僕は沈黙を返すしかなかった。確かにそうだ、僕は彼女らが言う贖いを受けてはいないのだから。
暫くして、僕達は姉妹の元へと案内されることになった。
「楽にしてよい。さてそなたらは、今の自らが置かれている状況を分かっておるか?」
「何となく、薄氷の上を歩いているだろうという事だけは」
「それならば話は早い、お主には儀式を受けてもらう。それが成功するにしよ、失敗するにしよ、儀式を無事終えることができればお主らはここから立ち去っても良い。よいかの?お主らが選ぶことの選択肢はない。挑戦するか、それとも生命の営みが終わる時を待つかの凡そ二通りの選択しかないよの」
「やります。まだ生きる望みがあるというのなら」
「であろうな…。連れの物は、ここで待つがよい。悪いようにはせぬ。よいな?では案内してさしあげ給れ」
僕はメイドとして雇われている一人に付随して、何かの儀式が行われるであろう場所へと誘導させられた。辺りには多くの神官たちが集まり祈りの姿勢を崩さずに膝をつき頭を下げている。
「それでは皆の者祈るのだ、これより蒼の契りの儀式を始める。儀式を受ける者は円陣の中央へと行き肩の力を抜きできうる限り静止したままでいるのだ」
僕は言われたとおり円陣の中央に行き胡坐をかいて座る。目を瞑り僕はこれから起こる何かを待ち構えることにした。
「コー トー ファイ ガー ブレイー ゲチャ アチャラシー マダッタ ミヤゲガー スデデー ノテッタ タデ」
祈りの言葉、それが悪魔の言葉の様に反復される。余りにも退屈な儀式に、眠気を抑えられなくなり僕はいつの間にか眠っていた。そして目が覚めた時には、全く別の場所へと飛ばされていた。
(´・ω・`)




