5-3 火竜との戦い
「僕はタークス。碧翡翠の次期領主。全力で戦わせてもらうよ」
「いいね、そう言うの。僕はグノックス。遥か太古から生きている竜の一人。矮小な人間よ、僕に傷をつけることができたのなら、僕の鱗を授けよう」
僕は自身の魔力を高める。どうやら相手は僕の出方を伺っている様だ。最初の攻撃まで待っていてくれるらしい。それなら好都合。最大攻撃を最初に打ち込んで終りにしてやる。
「行くよ!【炎爛風嵐重撃】」
風と炎の魔力を込めた最大の一撃がグノッソスに襲い掛かる。爆炎と共に煙に包まれるグノッソス。恐らくこの程度では傷はつかないだろう。相手の懐に入って、近接距離から攻撃を加えない限りダメージを与えられそうにない気がするんだ。
「なかなかの攻撃だ。だが、その程度では僕の防御を破ることはできない。次は僕が攻撃する番だね。一撃で終わらせないでね?【灼熱】」
僕は何ない炎攻撃によって吹き飛ばされる。だが、避けることはできた。直撃していたらと思うとぞっとする強力な攻撃だ。
「次は君の番だけど、どうやら既に魔力を使い切って攻撃できる様子じゃないみたいだね?どうする?ここで全てを諦めてしまうかい?」
「このターン僕は魔力回復薬を使わせてもらう。次は決めて見せる」
「そう来なくちゃ、面白くない。直ぐに終わってしまう戦闘何て何ら楽しくないからね。さっきの攻撃は避けることができたけど次の攻撃はどうかな?」
グノッソスは連続で【灼熱】攻撃をけしかけてくる。彼にとって【灼熱】は呼吸と同じような物。何度でも放つことができる牽制魔法にすぎない様だ。僕はそれを躱すしか防ぐ手段はない。辺りを転げまわりながら天井岩、地形を利用しながら躱していく。だがどうしても避けられない軌道で【灼熱】が迫ってくる。所謂、詰みって奴か。
「だがこんな所で諦める程、僕は柔じゃない。『鉄の盾』」
僕はポッシェに収納しておいた鉄の塊を出して【灼熱】を防ぐ。鉄の融解温度である1583℃を越えない限り、盾にすることができる。今回は溶けなかったが、次からはどうなるか分からない。
「見事、良く防ぎ切ったな。最後のは収納道具から鉄を取り出して防いだようだね?」
「次は僕の攻撃のターンだ!最初の攻撃が全く効果がなかった以上、これ以上僕は遠距離攻撃をすることはない。【炎刀】で連続攻撃だ」
「火竜に対して、炎攻撃で挑むとはその心意気は良し。だが、そのような攻撃が僕に効果があるとは思わないことだね」
固いものを切りつけた感触が腕に伝わる。相手は全くの無傷、その皮膚に傷跡はない。
「君の攻撃は軽すぎる。僕にダメージを与えたいのなら、もっと質量のある物質で素早い攻撃を加えなければいけないよ?」
「どうして敵に塩を送る様なことをするんだ?」
「このままでは次の僕の一撃で沈んでしまうでしょう?敵に生きる希望を与えて楽しむ、それが戦いを引き延ばすコツなのさ。希望があれば人間は戦える、そう言う生き物なのでしょう?」
どうやら過去の人との交流で人間という物の本質を理解している様だ。このままでは相手の掌の上か…。何か打開策を思いつかない限り僕には勝ち目はなさそうだ。
「貴殿は、この洞窟に入ってから常に捨て身の様だが、貴殿を待っている人物の事を考えるんだ!そのような姿勢ではいけない。自らの命は大切にするんだ!どうやって生き延びるのか、それを考えるんだ。貴殿を倒すのはそこにいる屑竜ではない。私であることを忘れないことだ」
「ふーん、本人を目の前に言ってくれるじゃない…君を倒した後は彼女と戦うことになるだろうけど、その辺りのこと分かっている?」
「貴様は、全く分かっていない。人間の底力という物を。その所為で、貴様は打ち破られることになるのだ」
「戯言だね。もしそうというのなら、さあ実際この僕に傷をつけられるか試してみることだ」
「分かっている。僕には僕を待つ仲間たちがいる。僕を待っている領民の為にも…帰らなきゃ!」
僕は自らの胸の中にある魔力を最大限高める。今まで僕は自らの限界を決めて修行を繰り返してきた。でも今は、自らにあるリミッターをすべて外す。僕は帰るんだ、その為にはここで出せる物はすべて出し切る。その覚悟は党の昔にできて居る。何の意味もなくここで野垂れ死ぬわけにはいかない、死ぬなら何らかの形を残してからだ!僕はここでは死なない、そう思い込むことで僕の脳は人間の限界を超えた力を引き出し始めた。
「行くよ?」
僕の体は風となって消える。風と一体化して、相手に雷攻撃を加える【風雷連撃】に僕は目覚めた。
「その程度の攻撃では竜である僕達の鱗を貫くことはできない…よ?」
「それはどうかな?」
「な、何?どういうこと、僕が僅かではあるけれどダメージを受けている…?一体どうして」
「確かに炎竜に炎の攻撃は相性が悪く効果もなかった、だから属性を変えたまでさ」
僕の攻撃はグノッソスに小さなダメージを確かに与えた。つまり勝負は僕の勝ちだ。
「ぐっ、こうなったら僕を負かした人間毎世界の塵に変えてやる」
「どうやら負けた様ね、勝負はそこまでよ!グノッソス、元に戻りなさい。みっともないわよ、人間相手に」
「で、でもこのままだと一生の汚点に」
「あんたの人生そのものが汚点みたいなものでしょ?誰も気にしないわよ今更。それより謝りなさい。貴方明らかに自らで決めたルールを破ろうとしたでしょ」
「はい…すみませんでした」
「あ、あのもういいです。僕達はこうして生きてますので」
「そう、それならいいんだけれど。貴方達竜の鱗が欲しいんでしょう?案内するわ、付いてきなさい」
「何処へ行くんですか?鱗保管庫か何かですか?」
「いいえ、墓場よ」
「えっ?」
「鱗が欲しいんでしょう?違うの?私達は墓場に鱗を保管している訳ではないわ。必然的に残っているだけよ。持っていきなさい」
「いいのかよ、墓場の鱗は…」
「いいのよ。元はと言えばあなたが約束を破ろうをしたのが悪いわ。その謝罪も兼ねているのよ」
「うぅっ、そう言う割れるとぐうの音も出ないが。でもあれは」
「黙らっしゃい。一族の恥に比べれば安いものだわ」
「あの、いいんですか?非常に貴重なもののように見えますけど」
「竜の鱗は私達の物でも非常に高価な物なんだけれど、嘗ての竜の物の方が遥かに長生きしていたでしょうし物凄く強かったでしょう?だからその鱗の質も私達の物とは比べ物にならない物なの。けれどここに眠らせておくなんて勿体ないとは思わないかしら?誰かに使ってもらった方が、故竜も喜ぶはずよ…きっとね」
「そういう物ですか?」
「そういう物よ。貴方の腕の材料に使うんでしょう?加工して装備したら、またここに来なさい。竜の腕の制御の仕方を教えてあげるわ。きっと人間には扱えきれない代物になる筈でしょうから」
そうかもしれないし、そうではないかもしれないと彼女は後に続けた。いまだかつて竜の鱗で腕を作った人間なんていないらしい。そんな前例のない事だから、どんな厄災が訪れるかもわからないという。
「はい、分かりました。その時は僕の領地で採れた野菜で、アボベーゲサンドでも作って持ってきます」
「あらそれは楽しみね!人間界の食事って、ここでは滅多に食べられない贅沢品なのよ?分かるでしょ」
「そう言う事なら、どうぞこれを」
僕はポッシェの中から日本食を取り出して、グノックスの姉に渡す。僕達はそんな姉が食事に夢中になっている内に火竜の洞窟を去ることにしたのだった…。
(´・ω・`)




