5-2 ジュディスと空を飛ぶ
まず僕達が向かったのは火竜の鱗を得るためにアンコ山脈に着陸した。
「これ以上の高度を飛ぶことは難しいみたいだ。空気が薄すぎて、歩いたほうが早い」
「やっと着陸か…次からは私に睡眠魔法をかけてから飛んでくれないか?」
「覚えてないよそんな魔法。僕は炎と風魔法が専門だっていうのは知ってるでしょ?」
「そんな…」
世界の終りの様な絶望した表情を浮かべるジュディスを尻目に、僕は辺りを探索しだす。どうやら辺りには数多くの魔獣がいるらしい。早速はぐれ魔獣が襲い掛かって来た。
「ふん、アンコウシャトルだ。憂さ晴らしに切らせてもらう!『唸れ鮫剣』」
囲まれているようだったが、他の魔獣はダーダアンコウ。向こうから仕掛けてくることはないタイプの魔獣で、ただ佇んでいることで有名だ。可愛らしい姿なので、街の中でマスコット人形として売られていることもあるのだ。
「アンコウシャトル何かが出る地区に本当に貴殿が求めるアイテムがあるのか?」
「もう少し山を登らないと、まだ目的地は見えてこないよ。暫くの間戦闘を任せてもいいかな?辺りの探索に神経を集中させたい」
「分かった。暫くの間は休戦だ。私も武人として火竜とやらの強さには興味がある」
アンコウシャトルがズンアンコウシャトルボアになり、ダーダアンコウがダーダアンコウボアに進化した。ダーダアンコウボアもこちらから攻めない限り攻撃をされることはない。ズンアンコウシャトルボアはその提灯部分に因る打撃攻撃とシャトル部分による突き刺し攻撃でジュディスを攻めてくる。それらをすべて鮫剣で打ち払い、確実に一歩ずつ進む。
ズンアンコウシャトルボアがズンアンコウボアに変わり、ダーダアンコウボアがダーダアンコウシャトルボアに変わった。ズンアンコウボアは鋭い角を失い代わりに得た巨体で体当たりを仕掛けてくる。ダーダアンコウシャトルボアは遂にアクティブモンスターと化しその提灯部から光魔法を放って見方を回復させたり、【シャイン】の魔法で攻めてきたりする耐久力の非常に高い厄介な敵となる。
「鮫剣『顎下嚥下』」
ジュディスは鮫剣に敵を噛みつかせ、その隙に止めを水晶剣で刺す。切れ味が鋭く一般の騎士では持てない代物だ。
「他愛もない奴らだ。火竜と戦う前の腕慣らしにもならないな」
「それはどうかな…?どうやら次の個体はさらに強そうだよ」
「あいつは…ダーダズンアンコウシャトルボアじゃないか。その肉は極上で幻だとも言われている。どうしてこんな所に」
そのアンコウは今まで戦ってきた全ての性質を兼ね備えているが故の強敵といえる。線距離攻撃、近距離攻撃共に隙が無く倒すのには骨が折れるだろう。
「飲み込め『鮫剣』」
彼女は鮫剣にアンコウを食べさせその体積を減らしつつ提灯部分を切り落とす。その判断が正しかったのかは分からないが、提灯部分を切り落としたお陰で激昂状態に陥る。見境なく襲い掛かってくる。
「最早こいつはアンコウとは呼べないな。巨大オタマジャクシだ。絶剣『鮫剣竹縦割』」
彼女の鮫剣は只物ではない。業物と言われる種類のもので、神話級アイテムであり意識を持った剣でもある。戦わせれば戦わせるほど成長し、手入れも最低限度で良い便利アイテムでもある。ただ、その所有者を選ぶ。彼女は近くの武器屋で手に入れたと言っていたが、そうだとするのなら鮫剣の中に偶然本物が混じっていたとしか考えられない。
兎角、物凄い切れ味であることに間違いはない。アンコウは真っ二つに切り裂かれ、大量の肉を残してくれた。僕はそれをポッシェの中に保存して戦利品の一つとして持ち帰る。
「これは後で料理して二人で食べよう。さて、その前にどうやら火竜の巣に辿り着いたみたいだ。これからが本番だ。ここからは僕も積極的に参戦する」
火竜の顔が彫刻された洞窟、その中には入り組んだ洞窟が出来上がっており、火竜たちが大勢眠っている。
「どうも変だ、さっきから静かすぎる。それに、火竜がこんな小さな洞窟の中を往来できるはずもない」
「何か勘違いしていない?ジュディス。火竜は」
「お前ら何者だ?この洞窟に外から入る者は許さぬ。今直ぐここから立ち去れ」
洞窟の中から一人の人間の姿をした衛兵が出てきた。だが、彼は人間ではないことだけは明らかだろう。
「僕達は火竜の鱗を求めにここに来たんだ。だからここから立ち去る訳にはいかない」
「何?そういう事か。つまり我々と力試しに来たというのだな?それならば歓迎しよう。但し、この中に入れば一度己の命を捨てたものと思え。その覚悟が出来なければ、大人しく帰ることだ」
「入っていいんだって!早く入って火竜の鱗を採取しよう」
「だが、ここに入って私達は帰ることができるのか?相手は確実に私達の命を取る気だ。どうしてそんなに気軽でいられるんだ?」
「深く考えても事態が好転する訳ではないでしょ…それに…(僕は一度死んでいる。延長戦みたいな人生だ、たとえ死んでしまっても後悔はしない)」
「それに?」
「それに、僕達が負ける筈がないじゃない?さ、早く行こう」
ピクニック気分で僕は火竜の洞窟の中に入っていく。ここで生活している龍たちはみんな人化していて、人間と同じような生活を送っている者達も多い。僕達はそんな龍たちに好奇心いっぱいの視線を投げかけられた。僕達が人間であることは一目見れば分かるらしい。
「君たちかい?久しぶりに現れた人間の挑戦者というのは」
「うーんと、僕達は鱗が欲しくてやって来ただけなんだけど」
「では僕達の習慣は何も知らない様だね?では僕が君たちにそういうことを説明してあげよう。いいかな?その代わり説明が終わった後には僕と一番最初に戦ってもらうよ?」
「まぁ、それが必要なことというのならその勝負受けます。それでどうして僕達が火竜の鱗を欲していると貴方達と戦わなければならないんですか?」
「それは昔からのしきたりでね、ある時人間と接触した僕たちの祖先が、人間と鱗を掛けて決闘をしたようなんだ。当然人間と竜じゃあ地の力が違うから勝負にはならなかったんだけど、その時の戦いが面白かったらしくて人間を生かして返したんだって。そして人間は何度も何度も挑みにやって来て実力を付けていったんだ。僕たち竜は長く生きている分娯楽も少なくて、その戦いは暇つぶしの意味もあったんだろうね」
「その人間は竜に勝てたの?」
「掠り傷を与えることにある時成功したと言われているよ、そうして人間に鱗を授けた。その過去から僕達は人間に鱗を与える為には、僕たち竜に一撃を与えなければいけない決まりになっているんだよ。僕達にとって鱗はそれほどまで価値のある物じゃあないんだ。時期になれば生え変わるものだし。けれど人間にとっては価値の高いものだと知ってる。だから偶にやってくる人間が最大の娯楽な訳。分かった?」
「聞いてもいいだろうか?入り口の門にいる竜が言っていた、私達は命(が消える事)を覚悟してここに入れと。それはどういうことなのだろうか?聞いた限り、戦った人間は生きて帰ることができたようだが」
「それは説明する必要、アルカナ?僕達は元来戦闘意欲が非常に高い種族でもあるんだ。僕達は戦う事が何より好きで強いものを尊敬している。そんな僕達が弱者をどう扱おうが自由だというのは自然の摂理でしょう?」
「つまり僕達は戦闘によってその命の灯が消え去ることも十二分にあり得るって事なのか」
「ま、そう言う事だね!じゃ、戦おうか。ここでなら充分(竜に戻れるくらい)広いしどれだけ暴れても洞窟が崩れることもないから安心して掛かってきなよ!!」
(´・ω・`)




