5-0 トール逮捕される
無事に糸の素材を手に入れたので、無事ナナミージとクリアベルの素敵なお店が新商品を仕入れることになった。
「親方、あの店を狙うって正気ですか?あの店は領主の屋敷にある店ですよ」
「だが何でもアラクネの糸を仕入れたというじゃねぇか…滅多にお目に掛かれねぇ高級品だ。襲わねぇ手はねぇ」
「でも領主を完全に敵に回したら不味いですよ。組織の力を借りても逃げきれませんよ」
「だろうな…」
「アラクネの糸を強奪するには、警備が最も薄い場所を狙うのが定石だ。何でもマーサの店からこのビックリ店に運ばれてるっていうじゃないか?そのすきを狙えば容易いもんだ」
「成程、さすが親方!」
「今夜はりこんで、荷物が運び出されるときに襲撃を掛けるぞ。荷物には決して傷をつけるんじゃねぇ…目的はアラクネの糸で作られた編み物なんだからな」
「へい、部下どもを集めておきます」
今夜はウーバー盗賊団の腕の見せ所だ。何せあのアラクネの糸だからな。既にここから隣の国までの逃走経路は確保してある。盗んだらさっさとワッカ―へと脱出だ。
「ウーパー、炸裂弾だ」
「へい、親方」
「野郎ども、早々に略奪して撤退だ。憲兵隊が駆けつけてくる前に」
物凄い爆発音が辺りに響き渡る。そのお陰であらゆる物が吹き飛んでいった。今回狙う獲物は割れ物じゃないから、これくらいの派手さでちょうどいい。
「闇夜に紛れて、地下塹壕から外へ出るんだ。急げ、30秒で憲兵隊が来ちまうぞ。その前に、この領からおさらばだ」
トールが憲兵隊と連呼しているが、それは通称のような物で正式には治安維持部隊の事だ。普段警備と称して色街に通っているような隊長だが緊急時の対応は迅速なもので頼ることができる。
ラフな服装で現場にすぐに駆けつけてくる。あらゆる街の道に精通している。そんな治安維持部隊も30秒と掛からず現場から煙のように消えてしまったトールの後を追うのは至難の問題だ。
「盗まれたのはアラクネ製品か…そして火薬を態々使って魔力の痕跡を消している。用心深い奴だ」
「魔力痕を消したくらいで、俺の追跡から逃げきれるとは思わないことだな。この街のことで知らないことはない。荷物を運んでいたというのなら、必ず誰かが目撃している筈。目撃証言を当たるんだ。犯人グループを見つけたらすぐに通信石で連絡する事。俺はもう少し現場検証をする」
部下を探しに出させ、現場からどうやって煙のように消えたか調査を開始する。人間が消える訳がない、何か絡繰りがある筈なんだ。
「見つけたぞ、これがここから瞬時に逃げられた絡繰りだな。この街に張り巡らされている下水道から逃げらるとは…なかなか頭の回る御人です」
下水道を通ったことで、足跡や匂いが完全に消えている。これ以上の追跡は不可能か…。
「犯人は下水道を使って逃走した模様。地下道の出入り口に怪しいものを見た目撃者がいないか、聞き込みを開始しろ」
治安維持部隊全員に指示を出す。しばらくすればどこかから目撃証言が上がるはずだ。
犯人はどうやら地下道を使って街の外周近くまで行き、さらにそこから予め掘って置いた地下道を使って外壁の下を潜り抜けこの街を出たようだ。
「そして犯人は船を使ってルナウ川を移動中という訳か」
「スティッキィ隊長、これ以上の追跡は不可能ですよ。領域侵犯になりかねません」
「それがどうした?もしこういう前例を作ってしまえば、犯罪を犯す人物がまた現れる。私達がそれを未然に防ぐには、国境を越えられる前に彼らを捕縛するしかないんだ。急げ、我々も川を下るんだ。土魔法が使える者は船を作り、水魔法が使える者は全速力で船を動かせ。身体強化ができる物は、陸地から犯罪者どもを追え!生死は問わない」
国境を越えてしまえばそれ以上追跡することはできない。この領地から逃げる為には険しい場所を通らなけらばならない。それが例え国境であってもだ。つまり、この川を下るにしてもそれなりの時間が掛かる。
「隊長、今国境警備に連絡して厳重に封鎖してもらいました」
「今日警備しているのは何処の隊だ?」
「リルスの隊であります」
「それならば、何とか持ち堪えられそうだな」
巨大な水棲の魔獣達を倒し船を進ませる。雷魔法を習得している物が優先的に魚群を倒していく。
「圧倒的ですね。この調子ならすぐに追いつけるでしょう」
「雷魔法何て言う物を教えて下さった次期領主様に感謝しなきゃな」
盗賊の船は、国境直前で大破させられていた。リルス隊長の部隊がこちらに合図を送って来ている。
「無事、国境を越えられる前に撃破できてよかった。で、犯人は何処だ?」
「すまない、逃げられた。だが、連中の足は潰した。何処か近くに潜んでいる筈だ。この辺りの国境は厳重に封鎖している。誰も超えた気配はない。後は任せてもいいだろうか」
「よし、近場を捜索だ。荷物は確保できたか?」
「いや、既に移し替えた後だった。空だよ」
「そうか、…ここは頼んだ。盗賊の方は任せてもらおう」
この付近はよく戦争が起こる為、『死の道』と呼ばれている。スケルトンやレイスといった魔獣達が辺りを徘徊している。戦争の時に散っていった無惨な兵士の怨霊だといわれている。そのほかにも注意すべき魔獣が沢山いて、この場所を通り抜けるのは至難の技だろう。国境を通る通路を封鎖してしまえば、彼らに逃げ道はない。見つけるのも時間の問題だ。
川を離れた跡を追うのは、それほど難しいことではなかった。魔獣から逃げながら足跡まで消しきることは容易ではない。
「見つけたぞ。観念することだな」
「確かに、ここは洞窟で行き止まりのように見えるが、ここにこうして来たのは偶然だとでも?それに部下の姿が見当たらないのはどうしてだと思う?ここからすでに逃げ出した後だとは思わないか?」
「はったりだな…きっと近くに隠れているだけだろう。そう言いくるめて警戒を緩めここから逃げ出すつもりだろう。この洞窟の入り口は治安維持部隊で塞がれたままだ。そしてしばらくその警備が解かれることはない」
「それは助かる…部下が逃げられる時間を稼げるという物だ…」
「(はったり、それとも強がりか?それとも本当にこことは違う出口が既に用意されているとでもいうのか…?この国境に。もしそうだとするのなら大問題だ)分からないことは考えても仕方ない、貴様を倒してこの洞窟を調べればわかることだ」
スティッキィの曲線的な攻撃を難なく弾いていくトール。野蛮なルールなき戦いに相当慣れているからこそできる芸当だと言える。
「ここで負けるわけにはいかない…絶対に負けられない」
「それは叶わない…なぜそれ程、拘るんだ?所詮盗賊仲間だろう」
「盗賊には盗賊の、家族愛や友情という物があるんだ。嘗めて貰っちゃ困る」
結局、トールは捕らえられることになった。だが、彼の部下に繋がる情報は全く得ることはできずに国外へとまんまと逃げられたようだ。
「全く大した奴だ…部下を逃がすために、自らが囮となるなんてな…普通なら部下の誰かを捨て駒にして自分だけは逃げ出そうとするものだが、盗賊とはいえ気骨のある奴だ。それで何か喋ったか?」
「いえ、全く反応しません。不気味なくらいタフな野郎です」
「拷問慣れもしてるのか…勿体ねぇ…何とかしてうちの部署に引き込みたい人材だ」
「そう言う事なら、相談してみてはどうでしょう。数多くの奇跡を起こしてきた方に」
どういう訳か、これから僕の店の物を強奪した相手と面会させられることになってしまった。




