4-5 船づくりの最中
朝食を食べると、僕はやんわりとした太陽に眠気を誘われた。実はこの船には、海を航行しているのにも関わらず、プールが用意されている。そのビーチでは、簡易に眠ることもできる(プールのビーチというのも変な表現だが)。地下一階、プール広場に行きリラクゼーションチェアーを作りサングラスを着用し(水槽を作っていた時に余りの硝子で作った)ラフな格好で眠りにつくことにした。ここでは僕の眠りを妨げるものは殆どいない。時折、プールの中を泳いでいる客の騒ぎ声が聞こえる位だ。
夕方、僕は斜めから差す太陽の光で目を覚ます。どうやら、もう昼食の時間は終わってしまったらしい。お客の殆どは夕食のことで盛り上がっている時間だ。僕はサングラスをポッシェに仕舞い、喉が渇いたので少しの水を口に含む。
「チーズ、ほら夕食の時間だぞ…粉チーズだ!。たんとお食べ。ムニエルの夕食は勿論ムニエルだぞー」
魚に疑似的に共食いをさせた後、水槽の水を入れ替えて塩を入れ浸透圧を変化させないように気を付ける。何時かこの水槽から外に出れる日が来れば、世界初の偉業になるかも。まさかねっ。
僕はサングラスを長い時間嵌めていたせいで物凄く頭が痛い事に気が付く。少し何処かのラウンジに設置されている椅子に座り休むことにした。
「夜まではもう少し時間があるけど、もう船を作り始めようかな…早めにやるべきことをやっておいたほうが落ち着けるし…」
海の向こうに小さな島がいくつか見える。別の方角には僕達が元々いた大陸が見える。この船は大陸に沿って周遊する豪華客船。つまり僕にとって非常に都合の良い船だ。
「釣れますか」
「まぁまぁですね。釣れたり釣れなかったりですよー。これから釣りですか?」
「ええ、昨日から夜釣りに嵌ってまして。誰もいないところで釣ると、直ぐ当たるんですよ」
「それは羨ましいですなぁ」
そんな何でもない話をしながら、釣り道具のセットをして糸を垂らす。昨日は晴れだったが、今日の雲行きは怪しい。今から少し雨が降り始めそうな雰囲気だ。降らないといいんだけど。
僕はシニータがやって来るまで釣りをして時間を潰すことにした。少しお腹が空いたのでポッシェからコロッケを二三とりだし千切って口に含む。それだけで何だか空腹は癒え気分満腹になった。
夕日が落ち橙色の空が紫になり黄色の光が辺りを照らすようになる頃、漸くシニータが甲板釣り場に現れた。
「では人もいなくなってきたことだし、そろそろ昨日の続きをしようか?」
「私も見物させていただいても宜しいでしょうか?」
「総支配人のキエサさん…どうしてこんな所に?」
「この船で起きることに私の知らないことは御座いません。昨日の船の組み立ての様子も遠くから見させて頂きました。お邪魔は致しませんので」
「キエサさんにはお世話になったから、近くで見物する位は構わないよ。シニータも別にいいでしょ?」
「ああ、私は釣りをするだけだからな!あとこれは今日魚を売った取り分だ。結構な額になった」
僕は投げられた何枚かの銀貨を魔法障壁の手を使って器用に受け取る。銀貨80枚か。数日の宿代位にはなりそうだ。
僕は船体部分を鉱物を使って作り始める。浸水しても問題ないようにそれぞれの区画を密閉させて作り全ての壁をアルマジロの皮で覆う。かなりの数の皮を消費したが、それでも尚アルマジロの皮は大量に残ることになった。
「それで完成ですか?素晴らしい船でございます。わたくしここまで完成された船を見たことがありません」
「そうかな…?ただ何処にも繋ぎ目のないというだけで、ごくごくありふれた何処にでもあるような船だよ」
「いいえ、違います。恐らくその船を競売に出せばかなりの値段が付くでしょう。貴方は物の価値が分かっておられない。貴方が使ったその皮は非常に貴重な物なのです。それを使って作られた船は強固なまでに密閉されています。恐らく扉を閉めてしまえば、海の上だけでなく海底を探索することも可能となるでしょう。そのことを考えれば、この豪華客船と同等、又はそれ以上の価値があることは間違いないでしょう。そんな船が完成する瞬間を間近で見ることができて感動でございます」
僕はそんなに価値があるとは思わなかったが、キエサの話を聞いている内に事の重大性が分かるようになってきた。
「この儘シニータに船を渡したら、確実に盗まれたり奪われたりしてしまうよね…何かいい方法はないかな?」
「ほっほっほ、いい場面をお見せいただいたお礼にその位のお手伝いはしても宜しいでしょう。船の扉と操作盤に認証システムを取り付けるのです。貴族の方々では既に常識となっているシステムですが、このシステムを取りつけらば本人以外には確実に扱えなくなります。後はこれを船体と接続していただけますか?費用は私がすべてお持ちいたしますのでご安心を」
僕は炎魔法で装置を融解させ船体と融合させる。
「シニータさん、できたよー!!キエサさん、着港まであと何日ありますか?」
「あと四日で目的地に着きます」
「じゃ、今度は僕が乗る分の船を作ってみるよ。残りの四日で。それも観察しますか?」
「いいえ、それ程私も野暮ではありません。どうぞ夜の甲板はご自由にお使いください。その方が私達にとっても航海が安全になり、お互いに都合が宜しい様ですので(ウィンウィンの関係という奴ですので)」
僕はシニータさんに船の認証システムのパスワードを設定してもらい、彼女にしか使えないようにした。
「本当にこれを私にくれるのか?信じられねぇ…。これが私の物になるなんて」
「僕は今は碧翡翠領領主の息子、何かあれば僕のところに来てくれれば力になれるかも知れない。内陸部にある小さな辺境の領地だけどね。頭の隅にでも覚えておいてよ」
「この船は私が責任を持ってこの豪華客船の倉庫にお預かりさせて頂きましょう。シニータ様も御同行下さいませ。この船を降りるときに必要になる事ですから」
二人がこの場所を離れていった時にはもう夜明けと言える時間で、乗客たちが目を覚まし始めていた。
「今日はこれ以上、船を作る作業はできそうにないなぁ…朝食を摂って、夕方になるまで少し眠ろうかな」
僕は読書できない寂しさを耐えながら、夕方まで眠りにつく。
「ふぁ…こう何日も船の上で過ごしていると、多少揺れていても眠ることができるようになったのはいいけど…あまりよく寝付けないなぁ…。陸に上がったら、真面な宿屋を取って確りと休みたい」
僕は一度やった作業なのでそれ程手間をかけることなく船を作っていく。シニータの船よりもさらに大きく作っていく。
「今日も同じ格好だな、他の服は持ってないのか?」
「同じ服を何着も持っているだけだよ。ポッシェには幾らでも入るから。そういうシニータもそうでしょう?何着か持って洗濯しているんでしょ」
「ああ、確かにそうだが。便利で良いな、そのポッシェとやらは。私も一つ欲しいよ。何とか手に入らない物かな」
「ダンジョンにはそういうオーバーテクノロジーの産物も埋まってると聞くけど。もし本当に欲しければ危険を承知で行くしかないんじゃないかな」
「そんな無謀なことをするくらいなら、釣りをして一生を終えるさ。身の程位は分かっているつもりだ。船があるだけでも、返しきれない恩があるというのにこれ以上を求めるわけにもいかないしな」
「偶には夜勤の業務をしっかりと果したらどうなの?」
「これが仕事さ…暇で暇ですることがないことは、順調な航海が続いているという事だ」
「それはそうだけど…何だか嵐が来そうだから準備しておいた方がいいよ」
「来そうで来ない…昨日からこんな天気で本当に憂鬱にさせられる。晴れたり曇ったり。そうは言っても、準備のしようがない。ただ祈ることくらいしかできないさ。海の脅威からは逃げられない」
「海の神様って本当にいるのかな…祈ったら現れたりしてくれる?」
「さあ、どうだろうな」
朝が来るまで、僕は船を作り、彼は釣りを楽しんだ。




