4-4 ガラス入手完了
無事スーツを手に入れることができた僕は、硝子を手に入れに地下三階へと向かう。店員さんに呼び掛けてガラスの位置を聞きたくなるほど売店は広く様々な物が売られている。金貨7枚で手に入れることはできるのだろうか?値札をそっと見る限り、問題なさそうだが…辺りの雰囲気が物凄く不安にさせる。
15分くらい探し回り、硝子のカップらしきものが売られている地区を発見する。どれも船の中で揺れても手から滑り落ちても割れないようなギミックがしてある様だ。といっても魔法でもなんでもなく、緩衝材に包まれた箱に入っているだけだが…。もしカップそのものに割れない付与魔術を安価に施すことができれば、産業革命が起きてしまうかもしれない。今度、作れないか挑戦させてみようかな、何処かで腕のいい職人が見つかれば。僕はポッシェからメモ帳を取り出し、ガラス職人と書き込む。
必要な量の硝子さえあれば問題ないので、量が多くて一番安いものを選ぶ。意匠が凝っていて芸術性を持たせているものを除外して探していく。若干青みがかかったカップは何の彫刻もなされてはいなかったがどの他のカップよりも高い価格だったので、首を傾げざるを得なかった。
「どうやらこのカップが一番コスパがいいみたい。物凄く実用的でかっこいい作りなのに一番安いだなんて信じられない…1つの面にカップを16個使うとして12面必要だから192個。6個ずつ箱に入っているので32箱か」
店中を歩き回り、店員がいないか探し出す。店にはドレスを着た人物ばかりで物凄く近づき難い。レジの近くで小物アクセサリーの商品点検をしている姉さんに話しかける。
「あ、あの…済みません。カップを32箱分欲しいのですが、在庫ありませんか?」
「カップですね。在庫を見ますので…」
お姉さんは15分かけて探したガラス売り場に瞬時に到着し例のカップの場所まで連れて行ってくれる。
「こちらの在庫は5箱しかありませんね」
「じゃあ、こっちのピンク色の奴は在庫どのくらいありますか?」
「こちらは結構ありますよ。4箱ありますね」
「この緑のグラスと赤のグラス、それから紫色のグラスはどの位ありますか」
「5箱4箱、6箱残ってますよ」
「この透明なグラスはあとどれ位あります?」
「それなら12箱在庫がありますよ」
「じゃあ、全部ください…レジまで運んでくれますか?」
金額は凡そ平均して銀貨20枚それが36箱なので7金貨20銀貨。所持金をすべて吐き出すことになりそうだ。
レジに運ばれたグラスの箱36箱が全て積み上げられる。
「金貨6枚と銀貨98枚になります」
「(金貨7枚で足りた!?)じゃあこれで。ありがと、お姉さん」
カップとグラスの箱をすべてポッシェに収納して自室に戻る。もう昼が過ぎ夕方になり始めているが、簡単な工作をして水槽を作る時間はありそうだ。
キエサさんに紹介してもらった狭い小さな部屋に戻り、体を魔法障壁で固定する。ガラスを800℃まで熱して魔法障壁の中で軟化させていく。仮にも火魔法は僕の得意魔法だ。この程度の作業は何でもない。一枚のグラスを頑丈な板状に再加工していく。後は板を繋ぎ合わせてガラスの箱が完成だ。
「ふぁぁ、疲れた。文字で書くと二三行の作業でも、実際やるとなると物凄い集中力が必要となるし、何より暑いよ…。でもこれで、チーズとムニエルの家ができたかな…。海水を汲んできて実際住めるか確かめてみるかなぁ」
覚束ない足取りで甲板へと向かう。夕日が差し込み、2階のオープンカフェでは豪華なディナーパーティが繰り広げられていた。僕達は入れない区域だ。その一階層下の甲板で船の縁に立ち、魔法障壁をうまく使い海水を汲み上げる。
「これで問題ない筈…。どうかな…。元気に泳ぎ回ってくれると嬉しいんだけど」
どうやら、チーズもムニエルも気に入ってくれたみたいだ。水の操作はあまり得意ではないけれど、魔法障壁を維持しておくだけなら毎日やっていることだ。
「夜釣りでもしようかな。折角海に来たのだし…目が妙に冴えちゃって今日は眠れそうにないや」
甲板に出て、夜景を眺める。最初の入り江からずいぶん遠くに流されて来たらしいが、あと数日は船の旅が続きそうだ。
「今度は小物を狙おうかな。大物は充分釣り上げたし。えいっ。入れ食いだな。餌をたらせば垂らすだけ釣れていく。魔獣が沢山いるこんな海域で釣りをできる人物なんて早々いないから、警戒心が薄いっていうのもあるんだろうな」
この船には釣りを行えるポイントが用意されていて、そこでは体を紐で固定することもできるし銛や網の用意もある。生簀だって用意されている。
僕が体を固定している地点もその近くなので、時折一般の釣り客が僕の隣に腰を下ろす。
「釣れますか?どうです」
「ええ、絶好調ですよ。でも気を付けてください。大物を釣り上げようとしても普通の竿では持っていかれますよ」
「それは楽しみですな。こんな夜なのに、徹夜ですか?」
「まぁ、目が冴えてしまって眠れないんです…そういう貴方は?」
「私はこの船の乗組員何ですが…夜勤のすることと言えば、哨戒位の物ですよ…。仕事なんてあってないような物。仕事はきついわりに、賃金も低いし真っ正直にやってられませんよ。という訳で、こうして魚を釣り上げて儲けにするのは暗黙の了解になっているんです」
「厳しい職業なんですね…。転職を考えたりはしないんですか?」
「俺なんか雇ってくれる奴いねぇよ…。馬鹿だし力仕事しか出来ねぇ」
「釣りができるじゃないですか?自分で船を持ってみたらどうです」
「そんな資金があればなぁ。今頃、漁師として潤沢に暮らしているのかもしれねぇが…」
「動力炉を買うお金もないですか?」
竿を振り再び釣り針を投げ入れ、悩み始めるシニータ(靴に名前が書いてある)。
「まぁ小さな動力炉一つくらいなら、買えなくもないが…この船に積んでいるような大型なのは無理だが、小型の奴は魔石から力を取り出して回転エネルギーを取り出すだけだからそんなに値が張る物でもないしな…。日常生活のあらゆるところで使われているのは知ってるだろ」
「じゃあ、問題は船だけですね!僕がこの船の乗っていられる数日の間に何とかできるかもしれませんよ」
「そんな資材何処にあるっていうんだ?」
「ここにあるんですよ。ほらっ。このポッシェ魔道具なんです」
「驚いたな…。そいつは物凄い高級品だ。余り人前で見せるもんじゃないぜ。殺してでも奪い取りたい奴は沢山いるだろうからな」
「うん、わかった。形とかは全て任せてもらっていいかな?夜に組み立てるからまた明日ここに来てくれる?完成したら、その船は貴方にプレゼントしますよ」
「何故俺によくしてくれるんだ?赤の他人だろう、今あったばかりの」
「一期一会、旅は道連れ世は情けっていうじゃない。それだよ」
「何だ、それは…?」
「世の中助け合いだってことだよ」
僕は余りに余った鉱物とアルマジロの皮を不断に使って船を作り上げることにした。
「まずはどんな魔獣に体当たりされても壊れない船底を作ろう。そして船の表面は全てアルマジロの皮で継ぎ目なく覆う。こうすれば、多少の衝撃で沈むことはない筈。万が一、破かれてしまえば何か別の頑丈な鱗か何かを溶接してあげる必要はあるけど。滅多なことがない限り、破かれることはない筈…明日は船本体を作るところからだね」
「お疲れさん。朝食位奢るよ。一緒に食べよう」
「うん、いいね。シニータは一日中釣りをしていたみたいだけど、結構釣れた?」
「殆ど、大物に餌を食われちまったが…まぁ十数匹は釣ったかな。調理場に持っていけば幾らかで買い取ってくれるんだ。あそこは冷凍が効くからな」
「僕の分も買い取って貰っておいてくれるかな?」
「分かった。売れた分は夜渡すから安心しな」
僕は鉱物で作ったクーラーボックス毎シニータに渡す。
船の乗務員の朝食は量こそはあれ質素なものだった。パンに魚に果物、シチューだ。忙しい人はパンにシチューを注ぎ込み果物をポケットに詰め魚をパンに挟み込んで口に詰め朝食を終える。シニータも例外ではなく着席せずに朝食を終える。
「慣れれば、一口で飲み込めるのがこの船の食事の唯一のいいところだ」
そう言っているシニータの顔は物凄く膨れていて、様にならない物だったという事を記載しておく。
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