4-2 巨大魚釣り上がる
「どうかなさいましたか?このような所でお一人で」
「実は僕は一般客で豪華レストランには入れなかったんだ」
「それは…何という悲劇でしょう。大丈夫です、コークスタットに言った通り貴方の分の鮫料理も残しております。それにしても、お客様が高待遇のお客様ではなかったとは見抜けませんでした。私の眼力も衰えたものです」
「これでも、領主の息子だからね。服装が一流品なのは否めないから、キエサさんが衰えたわけではないと思うよ」
「そうでしょうか…?だと宜しいのですが。最近、体力の限界を感じることが多くなりましてね…引退も考えているのですよ」
豪華ラウンジで給仕車の中に料理を入れて、鮫料理を持ってきてくれた。
「『ハラス』と呼ばれる腹下の部位の刺身だそうです。最も美味だとか言われているらしいですよ」
僕はポッシェから魔石で醤油を作り出して刺身と一緒に食べる。確かに悪くない。それ程ボリュームはないが高級料理ならこういう物だろう。寧ろカロリーは既に取った後だから、量が少なくて助かった面もある。
「食後でも結構楽しめたよ。キエサは食べないの?」
「宜しいのですか?では、私もお零れに預からさせて貰う事にしましょうか」
僕とキエサは鮫料理を十分堪能しながら、乗客のキーナのことについて聞いてみることにした。
「…という訳で、キーナにはこの船に乗る為のチケットを斡旋して貰ったんだ。良ければ、もう一度会ってお礼を言っておきたいのだけれど」
「高級待遇のお客様は大抵がやんごとないお方ばかりですので、そういう要求は幾ら私でもお断りせざるを得ません。何かお届けになりたいものがあるのなら、代わりに私がキーナ様の元へ行ってまいりましょう」
「じゃあ、今から手紙を書くからそれと、これも届けてくれませんか?僕の領地の印を押したアルマジロの皮です。お守りくらいにはなるでしょうから」
「確かに、受け賜りました」
因みに僕は船に乗るのは初めてだ。与えられている船室もないので、船に備わっている椅子の上で布にくるまり一晩を明かすことになりそうだ。映画なら、キーナが船から落ちそうなところを助けて晩餐会に呼ばれのラブロマンスが始まるところだろうが…ここは映画ではなく残念ながら現実。劇的なことと言えば、魔獣が襲ってくるくらいでそれを除けば、何も起こる訳がない。災害が早々起こるようなら、こんな船が横行する訳もないしな…。勿論この理論で行けば、これから僕達の船が座礁して真っ二つに折れ沈没してしまう事もないのだろう。
「例え沈没したとしても、僕だけは空に避難できるから問題ない。明日、念の為動力炉を見に行ってみようかな…確かにここに雇われているクルーは強者ばかりだけど僕の隠密技術に見破れそうな猛者はいないだろうから」
天井を掴みながら蜘蛛のように立体的に移動する人間がいれば、現実問題として気が付く人はいないだろう。熱感知、動作感知、監視カメラなどの装置を配備していれば話は別だが、今日見て回った感触ではそのような装置はない。発明すらされていないのかもしれない。
僕はぎゅーと長い間目を瞑り、無理矢理にでも睡眠に就くことにした。
「首が物凄く痛い…寝違えたみたい…水、喉が渇いた」
購買所に向かい物凄く高値に設定された水を買う。1カップ銀貨1枚もした水を一気に飲み干す。そうして船の上をふらふらと歩いていると漸く頭が少しずつ冴えてくる。
魔法障壁を念のため全身に纏わせてから甲板に出る。動力室を見て回るにしても、キエサさんに一言相談してからの方がいいだろう。例によって魔法障壁で釣りをして時間を潰すことにした。魚が来れば、手足に何かが触ったように直ぐに分かるので、僕は目を閉じながら波の音を聞いていた。
「物凄い揺れだ。もし僕以外の客が無防備に釣りをしていたら振り落とされていることは間違いないだろう」
僕はハーネスの様に魔法障壁を纏わせ船を掴んでいたので、揺り落されることはなかった。辺りは晴天ではあるが波は荒く僕達はこの海域に歓迎されてはいない様だ。この程度の揺れなら、まだ目を開く必要すらない。僕は相変わらず目を閉じたまま、釣りを楽しむことにした。
何匹かの魚が餌に掛かり僕のポッシェに収まった後、物凄く強い引きが僕の肩に感じられることになった。
「港で釣り上げたチョウザメよりも大物の予感がする!【雷撃】で痺れてしまえ!」
糸の先から放たれる【雷撃】は通常の魚程度なら一撃で気絶せしめる充分な威力がある。だが今回の相手は、全く効いていない様だ。寧ろ更に逃げようと暴れている。
「脳に直接【雷撃】を打ち込んだはずなのに…」
魚との勝負は、持久戦の様を呈した。断続的に放たれる雷撃に魚がやられるのが先か、暴れるように動き回る竿を維持できなくなって手放してしまうのが先か…どちらが勝っても状況的にはおかしくない。五分と五分の試合が繰り広げられることになった。
一時間後、船員の一人が僕が何時まで経っても動かないので様子を見に来た。
「そこで一体何をしているんだ?」
「今、魚と格闘中なんです。何かここにいると不都合なことでも?」
「ほぉ…余程でかい魚の様だな!それだけ竿が撓っているのにまだ釣り上げられないのか?」
「相当大きいみたいです…」
「ほう!そうなのか。釣り上げられたら見せてくれ!」
その船員を皮切りに数多くの人が僕に話しかけてくるようになった。終いには僕の隣で見物客まで出始めた。
「ここは揺れるから、隣で見物するなら確りと何かに掴まるのを忘れないで!!」
「おう、分かってるぜ。俺達は、邪魔しねぇぜ。あんたの雄姿を見に来たんだ」
「一時間以上も、魚と格闘してるんだって?それでも尚釣り上げられないなら、糸を切られて終わるにきまってる」
「どうかな?お前も魚が上がる瞬間を見たくて見に来てるんだろ?」
最初は一人だったのが二人三人と見物客が増えていき、釣りを始めて二時間が経つ頃には数多くの野次馬たちが集まり未だか未だかと魚が吊り上がるのを待ち侘びていた。2時間経って漸く、魚の全貌が見え隠れし始めた。魚の影が水面に映る旅に野次馬達が喚声を上げる。
3時間経ち、漸く魚の一部が海面に姿を見せ始めた。もう少しで釣り上げることができそうだと分かり、更に甲板には人が増えた。船に乗っている船員や漁師達も噂を聞きつけてやって来て魚を釣り上げる手伝いをしに来てくれていた。銛を魚に何人もが投げ、更に弱らせていく。
僕も【雷撃】を繰り出し、止めを刺しに行く。
「もうそろそろ、諦めてもいいんじゃないか…?」
僕が顎部を魔法障壁で貫いている以上、魚に勝ち目はない。程なくして数の暴力によって無事に甲板に打ち上げられることになった。
人々の歓声がすべてを物語っていた。
僕が釣り上げたのを見計らって、キエサさんが労いの言葉を掛けにやって来てくれた。総支配人として甲板での騒動を抑えていてくれていたらしい。
「良く釣り上げましたね。あのような大物を。この船が出来て以来の歴史的快挙として記録されることになるでしょう。益々この豪華客船も有名になる事でしょう」
「キエサさん、動力室に連れて行ってもらっても宜しいでしょうか?報酬はこのお魚という事で、頼めませんか?」
「それではまずこの魚を船内に解体して運び込む必要がありそうですね。それが終わったら連れて行ってあげましょう」
キエサさんのカトラリーが煌めき一瞬で巨大魚が解体されていく。僕はそれをポッシェに入れ食料庫へと運ばされた。観客の皆様には盛大な拍手を送られたので、頭の部分は甲板に飾るように残してきた(目玉が食べられないだろうって…?そういう事は気にしないことにした)。
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