4-1 豪華客船出航
早めに船着き場に着いた僕は、足を海にバシャバシャして船から積載物が運び出されていく様を観察していた。そんな風に時間を潰していると隣に座りかけて話しかけられる。
「そんなところで、何しているんだい?できれば、そのバシャバシャはやめてもらいたいんだが」
「早めればいいの?」
「違う違う、これから釣りをするから静かにしてほしいんだ。ここは釣りスポットなんだぜ。今日はあんまり人はいないけどな」
「分かった。静かにしてる。何が釣れるの?」
「見てれば分かると言いたいところだが…そうだなかなりの大物も釣れるぜ、まぁ腕次第だ。大抵は糸を食い千切られて逃げられてしまうんだがな」
僕は暫く釣りをしている様子を眺めていた。確かにマアジやスズキの様な魚は釣れるみたい。
僕も隣のおじさんの真似をして魔法障壁で釣り竿とウキを作り、魔法糸の先にポッシェの魔石から作った食料を括り付けて海に投下してみる。魔法障壁で作った針と糸なので手に取るように魚の位置が分かる。
「食らいついた!【雷撃】で止め!よし、あとは引き上げるだけだ!」
「飲み込みが早いな、坊主…かなりの大物か?」
僕が最初に引き上げたのは7m級のチョウザメの様だ。物凄く攻撃的で本来ならこんな近海で釣り上げることはできないのだが、餌に旨味を覚えたチョウザメが食いついてきたらしい。
「初物でそんな大物を釣り上げるなんてな!人は見かけによらないものだな。その釣り運を少しでもいいから分けてもらいたいものだぜ!」
「チョウさん、こいつはあんたが釣り上げたのかい?すげぇ、大物だ!過去最大級なんじゃないか、ここで釣り上げられた」
「いいや、釣り上げたのはここにいる御仁だ。とんだビギナーラックもあったものだぜ!」
「そいつは、すげぇや。あんた何者だ?」
「僕は今ここで初めて釣りをしたただの旅の物ですが…あの山の向こうで領主の息子やってます」
「あんた、大人になったらうちの釣りギルドに入らないか?優遇するぜ!是非来てくれよ。息子にも言っておくから、もしギルドに入りたいって思ったら考えてくれねぇか?」
「マクマーカスからマーカスギルドに誘われる何て付いてるな!この辺りでは一番の大手なんだぜ。息子のマッケンチーもなかなかのやり手だ」
「僕は旅の途中ですから。僕の領地に帰って、一段落落ち着いてから考えてもいいですか?それに、僕が大人になるまで覚えていてくれます?」
「あっはっは、冗談が巧いねぇ…。忘れられるわけないだろう?7m級の魚を釣った人物何て過去誰もいないんだから!魚拓を取らせてもらってもいいかな?」
「僕もうすぐ出航の豪華客船を待ってるんですけど」
「なに、そう時間はかからねぇ。ちょちょいと墨をこういう風に塗って紙に型取らせるだけだからな。はい、終了だ。これは記念に、ギルド入り口から目立つところに飾らせてもらうぜ。ここにサイン貰えないかな」
「その位ならいいですけど」
僕は魚拓の横にTarcussとサインする。しきりに無防備な肩を叩かれた所為で少し肩が痛い。
僕は魚を肩に担ぎ、豪華客船乗り場に向かう事にした。既に船は停泊しており続々と乗船客が船の中に入っていく。その波に任されるように僕も入り口でチケットを渡して船の甲板に出る。キーナは既に乗船しているのだろうな…。僕は僕で船旅を楽しむことにしようか。
船べりに腰掛けて、まったりと寛ぎ人の流れを眺めていると出航時間が来るのはあっという間だった。
数多くの見送り客が手を振り、別れを惜しんでいる。僕の気持ちは既にマッキィのことは完全に忘れ次の街へと旅立っていたが。
汽笛と共に船はゆっくりと沖へと出た。
「あの、済みません。調理室がどこにあるか知りませんか?」
「あの済みません、その区域は従業員のみの地区になっており、お通しするわけにはいきません。どういった御用ですか?」
「うーん。実はでっかい魚を朝思いがけず釣り上げてしまったので調理してもらいたいんだけど」
「それは本当ですか?どのくらいの大きさです?」
「7m級なんですけど」
「それは、凄い!特別にご案内しましょう。私の後ろについてきてください。今日の夕食は豪勢なものになりますよ」
船の中の階段を2階降りスッタフだけが使える通路を通り調理場にまで澱みなく到着する。一流のスタッフだという事は間違いがなさそうだ。臨機応変な対処もできることから、高い地位にいる人なのかもしれない。
「ここです。料理長、飛び入りの素材を持ってきました。7m級の魚です。何処か、食材を出せる場所はありませんか?」
「本当か?それじゃあ、食糧庫になら充分広さがある。そこで出してみてくれ。隣の部屋だ」
「コークスタットさんはこんな顔をしていますが船一番の料理人なんですよ。彼に任せておけば大丈夫です」
僕は言われた儘に隣の部屋へ行きチョウザメを通路に置く。
「大物だ!しかもこの鮮度。直ぐに調理に取り掛からないと!おいお前ら、手の空いてるやつは全員解体を手伝え!!今夜の料理の目玉になるぞ」
料理人たちは手際よく解体を始めた。それからの厨房は大忙しの様だったので邪魔にならないように出ていく事にした。
「後は任せましたよ?夜食は期待しておきます」
「任せな!一番いいところを届けてやるよ!」
「ね、いい料理人でしょう?」
「…そうですね。貴方もただの従業員ではないんでしょう?何者なんですか?」
「失礼しました。私、ここの船の総支配人を任されております、キエサ・タナイマーと申します。どうかお見知りおきを。また何か船のことでお困りでしたらお申し付けくださいませ」
そう言って、彼は跡形もなく姿を消してしまった。相当の手練れだと言える。彼がいればどんな揉め事が起きても安心できるな。僕は夜食まで遂にすることが無くなったので、一般に開放されている遊技場で時間を潰すことにした。
大人たちが賭け事に興じる場所、それがこの豪華客船の遊技場であり目玉施設の一つでもあるらしい。その中でも一番賑わっている場所があった。僕はその場所で何が行われているか気になったので観客の一番後ろでぴょんぴょんする。
高く飛びあがることで、漸く群衆の中の様子が見えてきた。二人の人間が戦っている様だ。網の中にいるのでデスマッチだろうか?異様な盛り上がりの理由は、賭けている物が大きい所為だろう。
僕は賭けるべき大金を持ち合わせていないので、そっとその場所から離れひっそりと隅の方に置かれている椅子で行われているカードゲームに興じることにした。最低掛け金は銀貨1枚。1枚ずつ賭けて行けばそれなりに長い時間遊べそうだ。ディーラーには嫌われてしまいそうだが。
「お客様、なかなかお強いですね。そろそろ勝負に出られてはどうでしょう?」
「その手には乗らない。僕はのらりくらりと銀貨一枚を賭けて楽しむだけさ」
「流石ですね、軽い挑発にも応じてくれないようですね」
僕の手持ちは金貨7枚から殆ど動いていない。勝ったり負けたりを繰り返すのがこのゲームの醍醐味であり売りでもある。プレイヤー同士の結託が見られることだってある。今回の勝負は引き分けと言った所だろう。
夜食の時間が近いので、レストランに向かい皆と同じように食事を楽しむことにした。高級待遇の客が沢山集まり食事を楽しんでいる。レストランには僕らみたいな一般客は入れない様だ。外で簡易食料を買って食べることになる。残念だが、チョウザメは食べられないみたいだ。期待が外れたかな…。
僕は一人寂しく甲板で夜風に当たることになった。
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