4-0 シナッシーで宿泊
次の日、僕は焼き魚をご馳走になってから港町カワッシーに向かう事になった。
「いってらっしゃい!できるだけ早く帰ってくるのよ!」
「達者でな」
二人に見送られながら、僕は飛ぶように森の中を移動していく。このくらいの森なら魔の森よりも移動が容易い。マッキィも僕に遅れることなくついてくる。森の移動に掛けてはどうやらプロフェッショナルの様だ。
下流に行けば行く程、川幅が広くなり港町に近づいていく。この調子なら日が暮れるまでに着いても可笑しくない。
「相当山歩きには慣れている様だけど…街まで行ったことはあるの?」
「うん、何度かその手前までは行ったことあるよ。でも両親は追われているみたいで街には入りたがらないの」
「何かの罪を犯したとか…詳しくは聞いてない?」
「うーん、余り気にならなかったから…そんなこと知らなくてもやっていけたし」
「重い罪なのかなぁ…?街に入らないなんて…。顔が似てるから、娘だと気付かれないといいけど」
「親族にまで罪は及ばないでしょ…?ほらもう見えてきた、あれがカワッシーですよ」
街の前には数多くのキャラバンが立ち並び交易を行っている。入市税を取られることになく、街の外で彼らは商人の取引をして利益を出しまたどこかの街へと旅立つのだ。僕もその多くの取引に目を引かれ、数多くの商品を手に取って確かめる。
「何か買いたいものでもあるの?早く街の中に入って宿をとりましょう」
「ここまでは来たことあるんだっけ…?そうしようか」
外で買う事は諦めて、街へ入る。潮の匂いがする。宿屋は人づてに聞くとすぐに見つかった。この辺りは旅行客が多く、宿屋も結構の数があるとか。
「『風のシナッシー』へようこそ。何泊お泊りのご予定ですか?」
「とりあえず3泊お願いしようかな…金貨で足りるかな」
「はい、ではこちら部屋の鍵になっております。階段を上がって右突き当りから左に二番目の部屋です」
僕は部屋の鍵で客室の扉を開けて、ベッドに飛びこむ。
「それにしても不思議な人形だね。この宿屋のマスコットなのかな?妙に愛でたくなる」
「受付にも同じ人形が置かれていた…きっとこの宿屋のイメージキャラだよっ」
机の上にメモ帳と共に置かれている人形を指でつつく。持って帰ってもいいのだろうか?それとも備え付けの備品なのだろうか?
「そうだな、取り敢えずタークスが船に乗れるまでは面倒を見るよ」
「ありがと…何処をどう行けば、僕にはさっぱり分からないんだ…できれば自領に戻れるまで付いてきてもらいたい位だよ」
「立派な案内人を付けましょ…。あの山を回り込めばいいだけの話よ」
僕は然程つかれていなかったけど、マッキィは相当疲れていたらしく軽く夜食を摂った後すぐに眠りについた。
僕はロビーに戻り、椅子に座ってジュースを飲みつつ疲れを癒す。
「どうかしたんですか?部屋には戻らないんですか?」
「どうも、女性と二人っきりっていうのが気不味くって…出てきた。貴方は?」
「私は丁度、浴場で風呂上がりです。朝までここにいるつもりなんですか?」
「そのつもりだけど…?」
「良ければ私の部屋と交換しませんか?」
「いや、迷惑を掛けそうだからやめておくよ…君はどうしてこの港町へ?」
「船で別の街へ逃げ出しに来たんです。今は出航する船を待っている最中なんです」
「僕もできれば連れて行ってくれないかなー。僕は何処でもいいんだ、あの山を回り込めれば」
「チケットが必要ですよ?当然、船客として乗り込むのですからそれなりの金額になりますよ」
「金貨7枚で足りるかな?」
「それだけなら一般船室に乗り込むのがやっとですよ?何とか、私が話を付けてみましょう。客の一人くらい捻じ込むのは訳ありません。通常なら、チケットを手に入れるのも大変なんですよ」
「どうしてそこまで、親切にしてくれるんです?えっと」
「チュッキーナよ。人に親切にしておけばそのうち自らに返ってくるっていうじゃない?そういうことよ」
「じゃあ、貴方の厚意を受け取って置きます。今は返すものは何もありませんが、そのうち別の形で返します。僕は、あの山の向こうで領主の息子をやってるんです」
「期待してるわ。明日船着き場3番搭乗口待合室10時に来てくれる?じゃあね」
この時、僕は魔法障壁で完全に身長をごまかし大人の服を着ていたので、誰も僕のことを子供だと見破れる人はいなかった。チュッキーナもその一人だ。
次の日、僕は椅子の上で目を覚ます。僕は船の見通しが付いたことを伝えて、言われたとおりに船着き場へと早めに向かう事にした。
「あ、いた。それじゃあ、早速チケットを貰いに行きましょう。船自体はもう入港しているんですよ」
僕達が乗る予定の船は、物凄く大きくて豪華な客船だった。
「もう一枚チケットを貰えるかしら?一般客用で構わないわ」
「船は既に満席でして…」
「何とかなさい!一人くらい何とかなるでしょう」
「わ、分かりました。私の権限で、一人分多く発行します。ですが、船室はありませんよ」
「乗れれば構わないわ。さ、帰りましょう」
出航は明日らしい。出航場所と時刻を覚えたので明日まで時間が空いた。
「忘れずに明日来ること。船内で又会いましょう」
キーナはそう言って去っていった。僕はマッキィを探しながら街を探索することにした。何となく商店街をぶらりと歩く。洋服屋が何店か、食料品店が何店か、お土産屋が何店か、記念石を売っている店も見つけた。お土産屋に入って、この街の記念に何か買って帰ろう。
「これは…宿屋で見つけた不思議人形!?なぜこんな所に」
「『シナッシー』とは提携しているんですよ。お客様に必要な様々な物を作らせてもらってます。等身大人形もあります。着ぐるみもありますよ」
「これ、売れているの?」
「ええ、人気商品ですよ。さすがに着ぐるみとなると街中で着るのは難しいですけど、こちらのパーカーなんかは堂々と着ることができますよ」
船の代金が浮いてしまったので、手持ちにも余裕がある。僕は着ぐるみを全種類(喜んでる、しょんぼりしている、怒ってる)二つずつ買い、姉と母にお土産としてパーカーをお揃いで何着か買って帰ることに。
「アクセサリーもどうです?幸運を呼び込むと言われているんですよ」
アクセサリーは様々なポーズのシナッシーが展示されていた。シナッシーで展示店を開けそうだ。さすがにこれは全種類買う気にはならなかった。
「これでいいか…脱力させられる表情の。あと、阿保面のと、怒り顔の二つずつ貰おうか」
「リストバンドやTシャツはどうですか?セットで買うとお買い得ですよ?」
「じゃあ、一種類ずつそれも付けて」
「毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております♪」
口車に乗せられて要らないものも買わされてしまった。押しには弱いんだよなぁ…。何だかすっかり買い物をする気分ではなくなってしまったので、『風のシナッシー』に戻り早めの就寝をとることにした。椅子では充分に寝られなかったこともあり、僕は瞬く間に眠りについた。船の中ではきっと眠ることも難しいだろうから、今の内にできるだけ眠っておこう…。
僕が眠っている間に帰って来たマッキィがシナッシー人形姿の僕に驚いて、すっ転んでしまうなんてことも気が付かずに僕は長い間眠り続けた。次僕が目を覚ましたのは、船の出航数時間前早朝の事になる。
「マッキィ、君とはここでお別れだ…あの両親だから、又会う事もあるかもしれないね…書置きをしていくよ。お元気で」
僕はシナッシーの着ぐるみを脱ぎ、パーカーを被って遅れないように船着き場へと足を運ぶのであった。
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