3-9 山を越える
次の日の朝、完全武装をした僕は牛乳とチーズを頬張るように食べた後『突起岩場』へと向かう。ここではいつも通り動作の遅いゴーレムたちが襲い掛かってくる。【魔力感知】で急所を突き次々と敵を薙ぎ倒していく。次のエリア、回転岩達が集まりアルマジロたちが襲い掛かってくる場所に作った扉に到達。
「これでもう洞窟を抜け飛び降りて滑空するだけで、海が近くにある街に到達だ!さっさと街へ行ってしまおう」
僕はアルマジロの皮で作った扉を開けて、勇み足で洞窟を通り抜ける。洞窟は強固なものに完成されており、地殻変動や攻撃がなければ数十年は壊れることはないだろう。
僕は海側の山に体を出し、翼を出して滑空する準備をする。そして僕が空に飛びあがろうとする時、足首を誰かに掴まれて転ばされる。
「こんな時に…邪魔獣が現れるなんて、付いてない…さっさと倒してしまおう」
手に魔法障壁を張り、地面の岩魔獣に【風撃】を打ち込む。【風撃】は完膚なきまでにゴーレムを破壊し跡形もなくバラバラにする。
「砂が再び集まって形を作ろうとしている…どうやら、沼悪魔と同じ性質を持つ魔獣の様だ…こんな所にボス級の魔獣がいるなんて…予想すらできなかった。でも、完全武装できていてよかった。できうる限りの抵抗はさせてもらう」
僕はあらゆる抵抗を試みた。何度攻撃して破壊しても、元に戻ってしまう。ここから逃げようとしても、完全に足を捕らえられて元の場所に戻される。
「通常なら完全に詰んでいた…でも今日はこういう時の為に試作武器を持ってきているんだ!その威力を披露させてもらおっか」
敵の攻撃の余波で砂嵐が辺りを襲う。そしてその砂が意識を持つように動きゴーレムとして空中でも復元する。正に砂の悪魔とは言いえて妙な表現だ。
僕が持ってきた武器は破壊力よりも貫通力を重視して作った槍のようなものだ。この武器で砂を掘り敵を貫通させつつも前進する。そうすれば、敵の領域を抜けられるかもしれないという目論見だ。
「突撃槍、構え~吶喊!」
ゴーレムを倒すというよりは土を高速で掘るといった感触だった。このエリアを抜けさえすれば何とかなる、その事しか僕は考えてはいなかった。
我武者羅に地中を掘り進んだが岩魔獣の攻撃が終わりを見せる事はなかった。何処まで行っても岩なのだから、それも当たり前なのかもしれない。
「どこか、岩のない場所に逃げないと…そ、そうか。岩ではない何かを足場にすれば、少なくとも足を掴まれることはない。後は空中の砂さえ何とかすれば、空から逃げられる」
そうと決まればやることは一つしかない。
「【風連撃】でどこか遠くまで飛んでいきやがれ!この隙に、空へ飛び立たせてもらう!」
ポッシェから金属辺を辺りにばら撒いて足場にして空へと飛び立つ。暫くは地中からゴーレムが手を伸ばし追って来ていたが、その程度に捕まる程遅くはない。僕は火竜の領域に入らないように注意しながら、山の上を飛行し続けた。
降下していると小さな川が流れているのに気が付いた。僕達の側は完全に『深き森』が支配しており、こんな綺麗な川は見たことがない。
「それにしても帰りはどうしよう。あの坑道が使えないとなると暫くは帰れないかもしれない」
僕は自然と川辺で羽休みして、泥塗れになった体を洗っていた。
「誰か、そこにいるの?」
「天使…?貴方そこで何をしているの?」
「君は、…ここに住んでいる人?僕は泥に塗れたから水浴びをしていたんだよ…君は?」
「そうだよ。近くの山小屋に住んでるの。水汲みに来たの。良ければ家に来ない?大したものは用意できないけど、簡単な鍋なら振舞ってあげられる」
「いいの?お腹はすいてないけど、厄介になっていいかな…暫くの間の拠点として」
「天使様は天界を追放されてきたんですか?」
「ううん、僕はそんな高尚なものじゃないよ」
「隠してるんですか?自らが天使だってことを。誰にも教えてはいけない秘密なんですね?」
「いや、本当にそんなんじゃないんだ…ただ上から見ていたら、川があったから降りてみただけなんだ」
「分かってます。天界から来られたって事は誰にも言いません!」
どういっても無駄だという事は分かった。彼女を説得するのは諦めることにした。
「ただいま、母さん。お水汲んできたよー」
「ミッキィ、誰か連れてきたの?」
「うん、この辺りの川に水浴びに来ていた天使さん。少しの間この家に住みたいんだって」
「お父さんが了承してくれたら構わないわ…スープができてるわよ。少し食べる?」
山菜を煮込んだスープを頂き、僕は少し寛ぐことができた。今からでは領地に帰る時間はない。何とかして帰る方法を見つけなければ…。
「この山の向こう側から僕は来たんだ…何とかして元いたところに帰りたいんだけど」
「空を飛んでいけないの?何処か怪我をして高く飛べないとか?」
「ううん、そういう事じゃないんだ。ただ、あの山の上を飛び越えてはいけないんだ」
「そう言う事なら、港町に行って船に乗ってあの山を迂回するしかないでしょうねー」
「お母さん、船に乗ったことあるの?」
「ええ、昔はいろんなところを冒険したものよ、今はこんな山奥に引き籠ってるけどねー」
「下に見えている港町ですか?」
「港カワッシーに行くなら後で紹介状を書いてあげる。冒険していた時の友達が今でも過ごしていたら、力になってくれるはずよ」
「私も一緒に行きたい!港町」
これ以上の相談は父親を混ぜて行われることになったので、僕は無理に酷使した装備を修理することにした。槍がもう原形を留めていない。防具のあらゆるところが変形している。
日が暮れた頃、ようやくニッキィが獲物をぶら下げて帰ってくる。
「お帰り、今日は天使さんが来てるんだよ」
「君が娘が言う…天使?まぁゆっくりしていってくれ!こんな所にはめったに人が来ないもんでな…何かあったのか?」
「ええ、一日では帰れなくなって…僕の家はあの山の向こう側にあるんです」
「それで港町に行けばいいんじゃないって話をしていたのよ」
「私も一緒に行ってもいいでしょ?」
「ま、港町に行くくらいならな…俺達も一緒に行ってみるか?随分、街には行ってない」
「私達は街に入らない方がいいわ…マッキィだけなら問題ないけど。娘の事、頼めるかしら?…柔な育て方してないから、早々危険な事態は起こらないでしょうけど」
僕はその日、小屋の中で眠りにつくことになった。夜が更けて二人が眠りについた頃、僕はニッキィに起こされ実力を試されることになった。
「仮にも娘の身を一時的に預けるんだ。どれほど強いのか試させて貰おう」
「いいですよ。夜も遅いですけど、模擬戦をすることくらい他愛もないことです」
ニッキィはどちらかと言えばパワーファイターの様だ。斧を構えてはいるがどう見ても肉弾戦に持ち込むつもりでいるのがバレバレだ。相手の誘いに乗る程、僕は愚かではない。
遠距離から【風撃】で牽制しつつ相手を攪乱する。この戦いにおいて大事なことは、相手を近づかせないことだ。一撃を食らうと僕の魔法障壁毎切り裂かれてしまう…そんな予感がする。
いくら風撃繰り返しても、ニッキィに致命的なダメージを与えることはできていない。追い込まれているのは寧ろ僕の方だ。徐々に近づかれてきている。
それは一瞬のことだ。ニッキィの速度が急激に上がり、僕の魔法衝撃が割られる。やられる、そう思ったが僕は何ともなかった。
「まだまだだな!長く生きている分、経験値も大きい。その差だな!ま、合格だ。手も足も出なかったとしてもな!」
「物凄く強いですね…どうやったらそんなに強くなれるんです?」
「強く目的を持つことだ!明日は早い、もう寝ろ」
僕はニッキィに負けたのにこれっぽっちも悔しくなれなかった。
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