3-8 海、眼下に
次の日の朝、僕はさっぱりした気分で目を覚ました。全ての問題が解決した、そんな気分になったからだ。
「何かいいことでもあったの?そんな嬉しそうな顔をして?」
「うん、もう少しであの山の向こう側に行けそうなんだ。何も問題が起きなければ」
「ふうん、それって凄い事なの?私はそんな山の向こうじゃなくて、王都に行きたい」
「王都?それならいつも来る商人に連れて行ってもらえば?」
「確かにそうなんだけど。…王都まで行くのって物凄く時間掛かるのよ?観光に行く為だけに、家を離れるなんて簡単にできないところなの!」
「そうなの?」
「陸地に住んでいる魔獣達を避けながら進むと、可成り遠回りすることになります。この領地は物凄く孤立している状況だといっても過言ではありません。そんな状況でもし山を越えて街に辿り着けはそれは歴史的な偉業になること間違いなしでしょう」
「そうなの?遠いとは思ってたけど、そんなに遠いとは…それじゃ、王都になんか行けない訳だ」
「分かってくれた?あんなトンネルを海に向かって掘る位なら、王都に向かって掘って欲しいわ!」
「分かった…考えてみる」
ギルドは何時になく人で賑わっていた。あと数年後戦争が開始されるまでは、この賑わいは続くだろう。僕はギルド資金の為にアルマジロの皮をある程度の量売りに来た。
「この皮を100枚ですね。前回御取引きした値段でよろしいでしょうか?」
「うん。あまり売りすぎても値段が下がりそうだから…同じ値段なら構わないよ」
僕は白金貨一枚と引き換えにアルマジロの皮の一部を放出した。それから何時もと同じように『突起岩場』を乗り越え削岩ドリルで洞窟の続きを掘り出していく。
数日後、僕はとうとう洞窟を突き抜け向こう側に到達する。
「光だ!漸く光が見える!」
洞窟を掘り終えた僕は、何だか迫りくる陽光に感動した。それに、ここからでも広がっている海が見える。近くに港町もある様だ。
「空を飛んでいけば一瞬で着きそう…!でも、今日はもう帰った方が良さそう…これ以上探索する時間が残っていない…ここに扉を設置して、領館へ一先ず帰ろう」
正門から入り領地へと帰って来た。
「今日は空からではなく地上からの御帰還か?」
「うん、普通でいいでしょ?何か変わったことは無かった?」
「平穏なものさ…この辺りは辺境だし、不法に入ろうとする奴なんて滅多にいないし」
「これから忙しくなるかも。僕がどんどんこの領地を発展させていくからね!!」
道なりに進むと、人々の顔は明るい。新しい店ができていたりする。外街に新しく食堂ができていたようなので入ってみる。
「いらっしゃーい。お好きな席にどうぞー」
店の奥ではアイドルが踊りながら店に歌声を響かせている。それらに興味なさそうに席に座り、アボベーゲ定食を注文する。銀貨一枚でボリュームだっぷりの食事を摂ることができる。
領館へと帰り、今日はキト達に修行を付けてもらうことにした。
「私と修行するのも久しぶりの様な気がするね…じゃ、軽く手合わせでもしてみようか」
「どの位体術が使えるようになったのか、まずは私が試してやろう」
『シャシャ流近接格闘術』を学んだ二人が組手を開始する。といっても、通常なら始祖であるシャシャから学んだタークスに勝てる筈もないのだが…。ここ数カ月で彼は大きく実力を上げてきている。勝負は互角のように思えた…。
「その程度の速度じゃ、私には何時まで経っても勝てないよ!体の柔軟性は身に付いてきたみたいだね」
強靭な腕力と並外れた体力で徐々に押され始める。僕の魔力は切れてしまい、勝負は僕の負けのようだ。
「ここでは作られていない特性の魔力回復薬を飲んで、更に私と戦うのです!魔術勝負しましょう」
彼女らは体力回復薬も持っていたので、夜が来るまで永遠と戦わせられることになった。
「もう無理…これ以上は戦えそうにない…胃が重くて吐きそう」
薬の飲みすぎ。お腹が痛くなったので、今日はそのままベッドに入って眠る羽目になった。
「シャシャ、魔力を使わないで相手するなんてどういうつもり?偶には本気を出してあげたらどうなの?」
「まだまだ、私が本気を出すには子供すぎる…。戦うなら、彼がもっと成長して十分な経験を積んだ後だ」
「シャシャの【身体強化】はとんでもない効果を発するから仕方ないよ…そういうキトこそ随分手加減していたでしょ?」
「彼はこの時代では強いほうかもしれませんが、まだまだですね。何時か、私達が負ける時が来るんでしょうか?」
「私達は負けない…彼が成長するように私達も強くなるんだから、鼬ごっこね」
夜が更けた頃、三人にティミィが語り掛けてくる。
「お疲れさまでした。三人ともお強いですね…、違う時代違う場所から来ただけのことはあります。三人に折入って頼みたいことがあるんですが…」
「何でしょう」
「タークスがもしこのまま港町に辿り着いてしまったら、燃え尽きてしまう気がするのです。ごく自然に、貴方達の仕業だと気付かれないように、妨害しては頂けませんか?」
「いいんですか?そんなことをして本当に?港町に行くのは彼のここ最近の夢だったのでしょう?それを防ぐなんて心が痛みます」
「そうだ…港町位行かせてあげればいいではないか。目的を失うなら、また新しい目的を作ってやればいいだけのことだ」
「私も反対かな。折角の夢が叶うんです。それを邪魔立てなんかしたら、闘馬に蹴られてしまいますよ」
「新しい目標が直ぐにできるのなら話は別ですが、それが貴方達に用意できますか?それならば構いませんが…?」
「分かった…心苦しいけど魔獣でも連れてきて妨害してみるよ」
「ありがとう、キト。貴方なら分かってくれると信じておりました」
「タークスを鍛えたい、その気持ちは私も貴方も一緒ですから」
早速三人は外に出てどの魔獣を連れて来るか相談する。
「掘った坑道に強い土系の魔獣を設置するのはどうだろう」
「土系を坑道に入れても穴を掘って何処かに逃げてしまうよ。それより土砂崩れに見せかけて坑道を塞げば、数日は時間を稼げる」
「二人とも難しく考えすぎ。あの辺りにいる岩魔獣達を強化して坑道の出口に立たせればそれで解決だ」
「シャシャにしては珍しく頭を使ったのね?大丈夫?ショートとかしてない?」
「失礼だぞ!いくら友達でも、越えてはいけない一線というのがある」
「でもシャシャ、貴方が考えることで閃くなんて今までになかったでしょ?」
「うっ、それを言われると反論できない」
「じゃあ、朝までにササっと行って岩魔獣を作りに行こっか」
風のように飛び立ち、坑道の入り口で岩魔獣作成の儀式を開始する。無事ゴーレムを作成し終えたキト達は、きちんと洞窟を守ってくれているかテストしてから朝までに街へと帰る事に成功した。
「あの強さじゃあ、暫く倒せないでしょう…悪いことをした気がします」
「ポド、すぐに彼に他の目的を持たせる方法を提案しなかったのが悪い。早いところ、他の目的を作ってあげれば、ゴーレムは解除するよー」
「あのまま放っておけばいい。そうすれば勝つために更なる強さを手に入れるに違いない」
「それもいいかもしれないけど…(良心が疼くよ)」
三人が一番最初に思いついた案は、魔王を用意する事だ。人に甚大な被害が出るかもしれないけれど、それを討伐するという目的が必ずできる。そうすれば、彼に海を見せることができるだろう。
次に思いついたことは、人類では決して攻略不可能な迷宮に彼を挑ませる事だ。きっと何処までも挑戦してくれるに違いないだろう。
三つめは、更に到達困難な遠くの地の情報を彼に提供する事。
様々な議論がなされたが、その日の内には結論は出なかった様だ…。
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