3-5 山の頂上、溶岩蛇
次の日、いつも通りにベーコンアボガドサンドを食べた後、武器屋で鉄パイプを入手した後『深き森』の向こう側『回る岩場』へと足を運ぶ。回る岩場は冒険者も来ない場所なので、回転岩は捕獲し放題の状態だった。鉄パイプに捕らえられるだけの魔獣を鹵獲し満面のにやけ顔になる。
「今日はもう帰ろう…今から回転岩をつかった道具の設計図を書き上げて制作するんだ」
僕はグライダー状の魔法障壁を作り、山から滑空して地上を目指す。翼を使って飛び降りれば必ず悪魔の沼に到達してしまうので今日は少し気分を変えてみたかった。予想以上に飛距離は伸びず、魔の森に墜落しそうになる。
「何度も往復していた甲斐があったって事かな…咄嗟に木を掴んで潜伏するのに慣れちゃったみたい」
木にぶら下がりながら辺りを見渡す。以前は分らなかったが【魔力探知】で辺りに魔獣か冒険者がいるのが手に取るようにわかる。この森は上級冒険者にとっての登竜門であり、超級になる為には避けて通れない場所であると同時に、物凄く恐れられている場所でもある。僕は静かに森を摺り抜けることにした。
「お帰りなさいませ、本日はお早いお帰りですね。何かありましたか?」
「ううん、昨日言っていた回転岩が集まったからちょっと帰って来ただけ。紙とインクはあるかな?」
「どうぞ、羊皮紙とインクでございます。何か資料が必要ならいつでもお呼びくださいませ」
僕は早速頭の中で完成していた設計図を完璧なものに書きあげていく。数多くの試作品の図面が完成する。その中で最も使い慣れていて熟知していて作りやすい図面を手に持ち、材料を探しに行こうとする。
「もう本日は外に出ない方が宜しいでしょう。既に夜が近いですよ。それでも出かけるというのなら、夕食を済ませてからになさってください」
「わかった。先に夕食を済ますよ」
パンと一緒にボア肉のシチューと葡萄ジュースを嗜み、僕は鍛冶師の元に金属を求めに行く。そういえば僕の懐には44銀貨しかないのだが足りるだろうか…?
「今晩は、ガルドさん。44銀貨で鉄はどれくらい買えますか?」
「それじゃあ、玩具の剣位しか用意してやれないな…こっちも商売なんでな、悪いな」
「分かってます…それじゃあ余っている屑鉄はありませんか?」
「屑鉄ならいくらでも余ってるが…そんなもんじゃあ碌なもんは作れねぇぜ…いいのか」
「ええ、いいんです。44銀貨はお代として置いて行きますね!」
魔法障壁で手押し車を作り載せられるだけ載せて領館に持ち帰る。鉄を変形させて目的の物を作っていると、ティミィが後ろから話しかけてくる。
「一つ聞いても宜しいでしょうか?魔法障壁で大抵の形を作ることのできるのに、態々鉄を使って物を作る意味なんてあるんですか?」
「…?魔力で作ったものは消えてしまうだろ?物質で作っておけば、誰にでも使えるし」
「それは炯眼ですね。それは一体何に使う物なのです?」
「これは僕が前いた世界で手足のように使っていたものだよ『フォークリフト』って言うんだ」
「フォークですか?魔獣に突っ込んで行って串刺しにするような道具でしょうか?」
「断じてそんな物ではないよ、箱状の荷物を上へ運ぶ道具だよ。これにこうして『回転岩』を組み込むと、なんとスイッチ一つで足場が二階へと到達するんだ。反対側のスイッチを押すと一階へと移動する。便利でしょ?」
「階段を昇降すればいいだけの話では?金属の無駄遣いのように思えますが…。その鋏のようなものもフォークリフトに関係あるんですか?」
「これは単なる『万力』だよ。ここを捻る事で強制的に二つの金属の間に挟まれている物を強く圧迫できるんだ。軽くここを回すだけで固い物でもなんでも押しつぶすことができるんだ。少し討伐するのに無手でいるのも不恰好かなって…作ってみた。試作武器って所かな」
「残念ながら、時すでに遅しです。これ以上の制作活動は認められませんよ」
僕はティミィに従い睡眠に就くことにした。まだ起きていることはできたけど…ベッドに入り目を瞑って無理矢理、就寝する。
次の日、両手両足に『万力のようなもの』をセットして『突起岩場』へと向かう。魔法障壁を纏わせた万力の刺突だけで岩魔獣達を倒していく。
中腹、回転岩エリアに到達。アルマジロの皮膚は固く打撃では弾き飛ばす事しかできない。
「屑鉄よりも、ここの魔獣の皮膚の方が強靭だな…万力をアルマジロの皮膚で作り直したいほどだ…だけど、今日はここよりも更に上部へ向かいたい」
アルマジロの襲撃が終わる。辺りは急勾配で道という物が存在しない。地面に万力を刺しながら進む。
「うわっ、吃驚した。小さい魔獣の様だ…気が付かなかった」
この辺りを歩けるように足に吸盤を持っている蜥蜴のような魔獣だ。火蜥蜴だろうか?
「物凄く素早くて、通常攻撃が当たらない…」
僕は魔獣達を避けながら頂上を目指した。登れば上るほど空気が薄くなり息苦しくなる。魔力は不思議と回復できている。
「高度が上がれば、空気が薄くなって魔力を取り込める量も減るかと思ったけど…杞憂で良かった。けど…空気が薄いのに、この辺りに漂う魔力の量は寧ろ増えているかも知れない…何事もなく山を越えられるといいけど…(どうやらそういう訳にはいかないみたい)」
遠く山の頂上の方から何かの雄叫びが聞こえる。山頂には強力な魔の物が潜んでいる様だ。
「どうやら、これ以上進めば戦いになりそうだ…一旦引き返そう」
ゲームなら死亡覚悟でボスに挑むのもいいかもしれないけれど、僕の命は一つしかない。慎重を期して引き返すのが正解だ。
「でも顔だけでも拝んで帰ろうか…」
音を潜めて、ゆっくりと頂上の声の下方向へと近づく。火蜥蜴の合間を掻い潜り声の正体が見える場所まで気配を消して近づく。
「マグマの化身のような存在か?物凄く熱い」
辺りは溶岩に包まれており、溶岩の化身達は蛇の様に動き回っている。
「ここを抜けるには、あの蛇たちを相手にしなければいけない様だな…僕の魔法障壁では暑さにこれ以上耐えきれない…何か対策を考えないと」
翼を広げ地上へと帰還する。風に乗って降下すると、悪魔の沼地の上を旋回することになる。少しジュディスの事が気になったのも事実だ。
「あ、いたいたー。今日は手を振ってそのまま帰ることにしようか」
彼女は僕の後を剣を振り回しながら追ってくる。この儘沼地の外へと誘導して、領館に帰るとしよう。
「お帰りなさいませ。本日はいかがでしたか?」
「火山の上は暑くてそれ以上進めなかったよ…何とかして溶岩地帯を進む方法ってないかな」
「そうですね…幾ら魔法障壁を張っても温度までは遮断できません。ですが、既に断熱の方法は持っているでしょう?よく考えてみて下さい」
「良く分からないよ…」
「ゆっくり考えれば思いつきますよ」
僕は夕食を摂り恋愛小説の続きを読んで眠りにつくが、いくら考えてもどうすればマグマ地帯を抜けられるか予測もできないでいた。
温度を下げる魔法を何とかして使えればいいんだけど…僕の得意属性ではない。氷属性の魔法でマグマを冷やすか、闇属性の魔法で熱を奪うか、熱属性の魔法で温度を下げるか…僕には扱えない魔法ばかりだ。それなのに、覚えているだって?僕が使える魔法は魔法障壁と風魔法火魔法だけだというのに…どういう事だろう。
思考の渦に嵌ったまま、僕はいつの間にか眠りについていた。火山に風を注いでも余計に燃えるだけだし、火山に火を注いでも余計熱くなるだけだ。今日ばかりはティミィの発言を疑わずにはいられなかった…。
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