3-4 回転岩、世に憚る
朝起きてレーズンロールを食べて、今日も僕は『海への道』へ挑戦する。
早々に『深き森』を抜けて『突起岩場』に到達し予定通りに【魔力感知】を使い岩魔獣を倒していく。
「【風撃】一撃で撃破できるなんて…昨日苦戦したのが嘘の様だ」
急所さえ分かれば何でもない相手だった。山を登れば登る程その体躯は大きく頑丈になったが、急所が分かればどれほど大きくとも何ら変わらない相手だった。
中腹に差し掛かり、魔獣達は小さく固くそして早く動くようになった。アルマジロの群れに見えるが、見かけ以上に彼らは狂暴だ。
攻撃を当てるには集中力が必要だが、それを除けば倒すのには容易な相手だ。襲ってくる数が増えたので、的確に判断して撃破しなければ連続してダメージを受けてしまう事になる。
そうして暫く進んで行くと、アルマジロのように縦回りして攻めて来るのではなくその場所を殆ど動かず横回りしているだけの魔獣がちらほらと見られるようになった。
「何だあの魔獣…?どうしてあんな無害そうな魔獣が生息できているんだ?確かに横から近づけば回転されて痛そうだが…縦から近づけば何らダメージを受けないぞ…こいつ、生き残る気あるのか?」
軽く摘み上げても未だ横回転を繰り返している。確かに魔法障壁を展開していなければ指が擦れ皮膚が削ぎ落ちていただろうが、対策済みであればこうして楽に捕獲できる。
「何だか面白い奴だな…何匹か持ち帰ろう何か頑丈な鉄の棒のようなものは無いかな…あれば串刺しにして持って帰りたいんだけど…」
辺りを見渡しても、石や岩ばかりだ。自分で作るしかなさそうだ。【風撃】で一直線上の溝を作り【炎撃】で鉱物を溶かして魔法障壁で囲った溝へと流し込んでいく。温度は凡そ千度に達している鉱物が溝に流れ込み外気によって徐々に冷やされていく。近くに立っているだけで物凄く熱く燃やされないために全身を魔法障壁で覆う必要があったが、暫くして赤茶色の棒状の何かができた。銅や石英が多く混ざった金属の棒が出来上がった。
「鉄があればもう少し固いものができるんだけど…この辺りは玄武岩や安山岩、それに銅が混じっているだけだし、どうしようも直ぐにはできそうにないかな…。この金属棒に魔法障壁を纏わせてこの回転石を串刺しにしていくか…」
中央に魔石を持っていた個体は串刺しにされた時点で動きを止めたが、そうでない回転石は未だ回り続けている。回るものだけを集めて、金属棒を腰に括り付ける。
「次来るときは…鍛冶師に鉄パイプを作ってもらってから来ることにしよう…」
アルマジロを倒しながらの作業だったので予想以上に時間を食う事になった。もう既に正午は回っている。もうそろそろ帰らなきゃならない。
卿も僕は翼を広げ大空を舞う。山の付近は上昇気流が吹き荒れ飛び立つのは容易だ。風に流される儘滑空して降りると今日も又悪魔の沼の辺りに辿り着く。前回は着地に失敗したので今回は翼をはばたかせ低空飛行したまま初心者広場に向かう。
この沼に住む悪魔の事を少し紹介しておこう。通称、沼男神出鬼没に現れては消え消えては現れる。倒しても切りがなく全く同じ姿で現れるそれは冒険者に恐怖を与えるのに十分。体内に魔石は持っておらず、どうして生きているのかその生態の全容はまだ解明されていない。魔石が体内にないのか、魔石の代わりとなるようなものが体内にあるのか、それとも魔石が無くとも活動できるのか…僕は未だ実物を見たことがないので何とも言えないが、予想では魔石の代替物が体内にあるんだと考えている。
上空から滑空して冒険者たちを眺めていると、昨日泥兎に翻弄されていたジュディスがまた泥塗れになって鮫剣を振り回している。
「漸く現れたな!待ち侘びたぞ沼地の悪魔!今日こそ成敗してくれる」
そういえば、誤解を解いてはいなかったな…それにしても僕が仮に沼の悪魔だったとしたら自らの命はもう既にこの世にないことを分かっているのだろうか?
このままだと埒が明かないので、僕は彼女を再び気絶させて持ち帰ることにした。
「【雷撃】!」
泥塗れになった彼女を再び門番のところまで届ける。彼ヴィクターは嘗て凄腕の冒険者で今でも鍛錬を怠ってはいない。気性のいい壮年でサングラスと無精髭が良く似合う。
「今日も連れた来たのか?」
「うん、彼女は泥地の悪魔の恐ろしさを全く分かってないよ…幾ら鮫剣を持っていても実力が伴っていないと分からせてあげて!」
「今日も牢屋に入れておけばいいのか?仕方ないな、次期領主の頼みとあっては」
「じゃ、よろしくねー」
僕の顔は門番には良く知られており、ギルド証は持っていないが顔パス状態だ。壁を乗り越えていたことがばれて、今では堂々と門から出入りするようになった。
早く泥を洗い流したくて、速足で街を滑るように駆け抜ける。魔法障壁でローラースケートを作り出し【風連撃】で加速する。舗装された道を疾風の如く駆け抜ける様は領民たちを驚かせた。タークスは最早風物詩と言ってもいい。『規格外』が定着してしまっているので、又やっているなくらいの感想で済んでいる。
「ただいま、ティミィ。今日の夕食は何かな…?」
「BBコロッケでございます。それよりも早く体を洗ってきてください」
「わかった、そうする」
僕は水浴び場にいき、水道から水を出し桶で汲み体を洗い流す。家には貯水槽があり水魔法が得意なメイドが予め溜めておいてくれている。僕は余り水魔法は得意ではないんだ。一日に必要な水を出すのがやっとといった所かな。
BBはビックボアの略で市井によく出回っている最も安く一般的な食材の一つだ。この近く魔の森の中で多数生息してあり討伐難易度はDだと言われている。だが、魔の森の攻略難易度はAランクとなる。ビッグボア以外にも多数の魔獣達が共存してあり、最もヒエラルキーの下位に値するのが大猪となる。
「今日はどこまで進めたでしょうか?」
「山の中腹辺りかな?見て見て、こんな変な魔獣を見つけたんだ…ほら今でも回ってる…」
「自然淘汰されなかったのでしょうか?確かに変異種かもしれません。部屋の装飾品にでもするつもりですか?」
「ううん、ちょっと考えがあってもう少し集めて作りたいものがあるんだ。明日は鉄の棒を調達して、それが完成したら再び回転岩を集めてくるつもり」
「日頃の鍛錬をくれぐれもお忘れなきよう」
「重りも毎日つけてるし、魔力負荷リングも毎日つけてるよ!今日も昨日の続きから読みたいんだけど」
「はい、既に準備はできております」
今日、僕が目を通すのはここ最近追加された王都からわざわざ取り寄せた新しい本だ。この街が賑わった最大の恩恵は恋愛小説を取り寄せて読める事かな…。因みに僕は読む速度が物凄く遅い。口に出して詠むように、時間をかけるのが好きなんだ。当然、情報を得るために読む時には流れるように読むことはできるけど、つまらないのでそういう事はあまりしたくない主義なんだ。
「本をゆっくり読むのはいいことですよ。読み飛ばしてしまえば何も得られないそうですから。一度見ればすべて覚えてしまう私達魔道人形にとって、何度も読んでくれるタークスのような方は神様みたいなものです」
人間にとっての神は非常に高次元な存在なのかもしれませんが、私達魔道人形の生みの親は人間なのですから魔道人形にとっての神はおそらく人間なのでしょう(タークスのような)。
私は明かりを消し、タークスをベッドへと運ぶ。数日に一度はこうして椅子の上で眠ってしまうので、こうして寝かしつけるのもかけがえのない私の業務の一つなのです。
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