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タークスの日常  作者: @kohe75438489
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3-3 ティミィの憂慮

 私の前の御主人様には、小さな時から仕えていました。最初は快活で言いようのない位素直で努力を忘れないお方でした。時折、運動を嫌う事もありましたが概ね活発な王子だったのです。

 そんな王子が変わってしまったのはある事件で顔から腹部に掛けて火傷を負ってしまってからです。彼は以前とは考えられない程冷酷で他人の事を鑑みない性格になってしまわれたのです。あの火傷は単なる事故ではありませんでした。ある人物を庇う時に付いた傷なのです。


「あの事故が起こるまでのメラニエル王子は可愛げのある素晴らしい人間でしたね…それがどうしてあのように捻くれてしまったのでしょう?今の私には想像する事すらできません」


 メラニエルが最初に命じたのは、戦争の為の兵士を集める事でした。隣国に対して宣戦布告する気満々だったのです。徴兵の為に王子が治めていた領地の税金は大幅に引き上げられることになりました。ある国に対する報復運動だったというのは理解できます。けれどそれは自らの国民をも犠牲にして為すべきことなのでしょうか…今の私にも理解できません。

 嘗ては奴隷にも優しかったメラニエルでしたが、酷とした態度をとるようになりました。全ては戦争の為、その一点の為に性格を変えざるを得なかったのでしょうね。戦争の準備が整ったと同時に、隣国へと攻め込むことになりました。残虐無比、敵国民は鏖殺しにしていきました。


「あの頃、私がメラニエルを止めておくべきでした。そうすれば、あのような最期を迎える事なんてなかったでしょう…けれど、私はあの頃は未だ信じていたかった、メラニエルの善性を。何時か改心すると私はその可能性を捨てきれなかった…」


 敵国が陥落するのは時間の問題でした。王都は包囲され食料供給が断たれた為、これ以上継続して戦うのは無理だったからです。他の国からの援軍が来ない限り、メラニエルの勝ちは決定したのです。そして何事もなく一月が過ぎ、王都は白旗を上げました。

 白旗を上げた敵国民に対しても、メラニエル王子は非情であり続けました。ありとあらゆる都民を、一般市民毎大虐殺したのです。戦争とはいえ、市民丸ごと倒すなんて通常では考えられません。それ程隣国に対する憎しみが強かったという訳です。


「あの時点でメラニエルの憎しみが消え去ると思いました。だから私は王子が大虐殺をするのにも反対しませんでした。王子が優しい昔の姿に戻ってくれるのなら、それでいいと考えていたのです。ですがそれは間違いだったのでしょう。あの時止めるべきでした…」


 メラニエル王子が占領することになった隣国では様々な差別的統治体制が取られることになりました。圧制によって治安を維持するのにも限界がありました。確かに何年かは強引な政治によって表面的平穏は保たれていましたが、クーデターが起こることは充分予測できることでした。

 メラニエル王子は私が小さい時から育て上げた逸材です。魔力も十分大きく育ち、数多くの魔法を使いこなし英知にも富んでいます。王子は最後まで諦めませんでした。親衛隊が裏切ろうとも、警備隊が牙を剥こうとも、市民が団結して襲い掛かって来ても徹底抗戦の構えを見せました。数多くの人達が粛清されました。けれど最後には力尽きてしまい、王子は公開処刑されることになったのです。

 処刑される日の前日、私は牢屋に忍び込んだのです。そこで、最後を迎えてどう感じているのかどうしても聞いておきたかった。改心しているかも知れない、反省しているかも知れないと。もしそうなら、私の全生命をかけて助け出していたことでしょう。ですが、そうはならなかった…。ならなかったのです。


「あの時、王子はどう言ったのか鮮明に覚えています…。『後悔していない』。そう、言ったのです…。ほんとは後悔していたけれど嘘を付いたのか、それとも心の奥底から後悔していなかったのか…今でもその答えは導き出せません。私が人形だからでしょうか…」


 次の日、王子は処刑されました。大衆から罵声を受け、首を刎ね飛ばされそれでお終いです。私は主人を失い、又人形としての生活に戻りました。所有者は次の人物、王宮の物となり私は宝物庫に並べられることになります。そこには数多くの宝物が並んでいますが、私の問いかけに答えてくれるものはありませんでした。

 そういえば宝物庫には数多くの珍妙なものが置かれていましたね…。話をする剣や、鏡、宝箱なんていう物が無造作に置かれていました。王冠や盾だって話ができました。そこで私は色々なことについて会話しました。長く生きている装備品も多く聞いていると楽しかったですが、ここにいる限り使われることのない彼らは退屈でいつか使われる日を待っている様です。そういえば彼らは何時か私に使われてみたいとも言っていましたね…。そんな日が来ることはもうないでしょうが…。


「宝物庫の中は孤独でつまらない物かと予想していましたが、話し相手が沢山いて意外にも飽きませんでしたね…。不思議と長い時間が短く感じられました。宝物庫にいると精神が安定するように仕組まれていたのかもしれません」


 それから私は諸処(しょしょ)諸(もろ)々(もろ)あって侯爵家へと下賜されることになった。そして流れに流れて私はこの様な辺境の地へとやって来ることになったのでした。


「あのような悲劇を繰り返さない為にも、教(・)え(・)す(・)ぎ(・)る(・)ことだけは避けなければいけません。正直すぎた、素直すぎた、その所為で折れやすくなってしまった。清濁臥せ持つようにしなければ、今後どのような悲劇が舞い降りても強い精神で立ち直ることはできないでしょう。その為に今の私にできることはしておかなければなりません…ですが誰にも気づかれることなく、さりげなく誘導するのです」


 夜、私は犯罪者たちが集まる盗賊ギルドへと依頼をしに来ていた。盗賊ギルドでは人を試すのが流儀なのだろうか?飛んできた含み針を軽く指で掴み防御する。周りの刺さるような視線を無視してカウンターへと腰掛ける。


「ここではお客に含み針を出すのが接客なのですか?」

「何てことはない、只の挨拶さ。気分を害したようなら悪かったな。これでも飲んで、機嫌を直してくれ」

「それよりもここは盗賊ギルドで間違いありませんか?依頼したい内容があるのですが」

「どんな依頼だ?依頼内容によっちゃあ断らさせてもらう場合もあるから気を付けな!」

「私が依頼したいのは簡単なことです。ある人物を襲って欲しいのです」

「ある人物っていうのは誰のことだ?」

「領主の息子のことです。但し、殺したりはしないで頂きたいのです。できますか?」

「襲撃して欲しいのに、殺して欲しくない…誘拐か?それとも単に痛めつけたいのか?」

「どちらでもありません。素直に言いましょう、貴方達には当て馬になっていただきたいのです。謂わば、訓練の一環として奇襲に対処する方法を学ばせてあげたいのです」

「ということはあんた先生か何かかい?つまり不意打ちして逃げるだけでいいってことか?その位なら、大したことない依頼だが…」

「最善の人員で最も効果的と思われるタイミングで行って欲しいのです。できますか?出せる上限は金貨50枚という所でしょうか」

「そいつは桁が一つ違うんじゃねぇか…と言いたいところなんだがな…辺境(ここ)ならそれくらい出せば十分だろう。なんせ以前は王都で活動していたもんでね…そいつらは金だけは持ってやがる。けっ、いけ好かない奴らばっかりだったぜ。思い出しただけで反吐がでる」

「では、引き受けて下さるんですね」

「ああ、期限は何時までだ?一回襲うだけでその額なら襤褸(ぼろ)い商売だ」


 私は何も言わずに金額だけを置いて立ち去る事にしました。願わくば、彼に正しい未来があらんことを――。



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