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タークスの日常  作者: @kohe75438489
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2-9 上空に行けばSSSランク冒険者が来る

 ソーメイと僕との戦闘は、ソーメイの猛攻から始まった。右の短剣と左の片手剣の剣戟が訓練場に次々と爆発を引き起こす。タークスは全てを肘を覆った魔法障壁で打ち返す。

 タークスの足に纏った魔法障壁から風を打ち出しその勢いで回転してソーメイの後頭部に踵落としを食らわせる。


「『風蹴』」


 勝負はあっけなく一撃で片が付いた。


「ソーメイを一撃で倒すなんて、あの少年は何者だ?エルドルッサ」

「エソギルド長、知らないんですか?彼こそがこの領地を治める『黎明』リーズ様の息子であられるタークス様ですよ。毎日過酷な修行を積んでいるとかいう噂です。なんでも森の中を飛び回っている妖精をみたという目撃証言も何件か上がっており、状況から考えるとその妖精はタークス様だとしか考えられません」

「あの魔の森を飛び回るだって?どうかしているとしか思えないな。あそこは一般人は立ち入り禁止だろう?」

「どうやら警備の者の目を盗んでどこかしこを飛び回っている様です」

「じゃあ『風蹴』を何度でも連続で放てるという事だな。将来が楽しみだ」

「彼はこの領地の希望なのです。きっとより良い方向に導いてくれます」


 僕は引き換え証を持って受付へと戻り、現金に変えてもらう。


「金貨5枚と銀貨20枚になります。ご確認くださいませ」


 冒険者ではないので手数料を取られたが、結構な金額を手に入れることができた。それほど強くはない相手だったが、『深き森』の魔獣だしな…。並の冒険者なら辿り着くこともできないだろう。

 金貨を手に入れたので、DIYをする素材を探すことにした。


「すみませーん、できるだけ丈夫で長い糸を売ってくださーい」

「タークス坊ちゃんじゃないですか。一体何に使うんだい?」

「ちょっと今までの修業方法では物足りなくなったので、新しい修行方法に丈夫な糸が必要になったんです」

「あんたがいればこの領地の未来も明るいよ!がんばっておくれ」


 領民には既に僕が地下を掘らせ仕事を与えて領地を豊かにしていると知られている。そのお陰で銀貨10枚で充分長くて丈夫な糸が手に入った。

 近くに生えている丈夫そうな木を伐り、充分に熱して木を細かく切り糊(ノリ)と混ぜて木で作った型に入れて乾くのを待った。


「そんなものを作って、何に使うの?何度か間違えて爆破させそうになったよ」

「完成したからシーチェルも見に来る?」

「来るー、私来るよー」


 何故かスキップしながら僕の後を付いてくる。領内の高地に出向き、糸の先をシーチェルに持たせる。


「確りと手放さないようにその糸の先を持っていて?」

「これから何が起こるのー?」

「見ていれば分かるよ」


 僕は木の枠に飛び乗り出来上がった紙を張り付ける。魔法障壁を作り【風魔法】を発動させ強烈な上昇気流を起こす。風に乗って僕の体は空の上へと持ち上げられる。


「わぁ、凄い。物凄く回転してる!!」

「目が回りそう…何とかして姿勢制御しなきゃ」


 少ししてコツを掴んだので回らずに滞空できるようになる。これから、もう少し高度を上げてみることにする。


「きちんと掴んでて?でないと何処かに飛ばされてしまうから…。絶対離さないでね!絶対」


 上空に行けば行くほど肌寒くなってくる。『深き森』よりも高く上がり、自らの住む領地が物凄く小さく見える。地平線の向こうにある隣の領地の様子も辛うじて見ることができる。いつの間にか景色ばかり見ていた僕は限界高度近くに来ていたらしく、雲が目の前にある。上空は地上とは違い強力な風が吹き荒れていた。僕は自然の風に流され、姉は強烈な力で引っ張られ引き摺られる。


「どこ行くのー??ほんとに離しちゃ駄目なの?」


 風のなすまま、僕は飛ばされ姉も空を舞う。領民が、こちらを注目しているのが分かる。僕と姉は風に流されて平原の方へと流されていたが暫く進むと雲が濃くなり雨が降り強烈な下降気流に飲み込まれる。紙に穴が開き、否応なしに落下していく。


「『風連撃』」


 僕はゆっくりと下降することに成功し不時着するが、糸が絡まり姉と衝突して転がるように倒れ込む。


「いたたた、随分風に流されてしまったみたい」

「この辺り、物凄く暗くて今にも雨が降り出しそう。早く帰ろう」


 姉にしてはまともな意見だった。領地が物凄く小さく見える。


「それもそうだね。早く帰ろう」


 この曇り空の向こう側は何もない湿原が広がっている。良く雨が降る為、草が伸び歩いて通るのには適していない。

 僕は姉の手を握り、急ぎ足で領地へと帰る。あれだけ強く吹いていた風も、地上では殆ど感じない。

 冒険者に見られていたようで、僕達の帰る様子は注目されていた。


「いつ見てもこの平原は長閑ですわね」

「ここは雑魚スライムしかでない、初心者のいい狩場だけど…(定期的に魔物を狩っているから強い魔獣が現れないだけなんだ)」

「次は私も大空を舞ってみたいです!」

「シーチェルは風魔法を使えないから、爆発魔法の勢いで飛ぶことになるけど…そんな器用なコントロールできたっけ?せいぜい、吹き飛ばされて気を失うだけだよ」

「むう…、私だって練習すればきっと飛べるようになりますー」

「クローバーに手伝ってもらったら、どうかなぁ…(盗賊として色々必要なことを学んでいるなら、きっと手伝ってくれるはず)」


 検問を通り、姉とは別行動をとる。既にシーチェルはクローバーと共に空を飛ぶ気満々の様で、心ここにあらずと言った体だ。僕は貧民の集まる街を通り抜け、第二検問所を顔パスする。貧民街の皆には、僕は救世主だと思われている様で歯痒くて居心地が良くないんだ。


「あら、また来たのかい?糸になにか問題でもあったかい」

「ううん、そうじゃなくて、今度は新しく丈夫な布地が欲しいんだ。何があっても穴が開かない大きな布が何枚か」

「結構高くつくよ、丈夫な布は高級品だからね一枚につき銀貨10枚かね。それで何枚くらい必要かね」

「じゃあ、20枚ください」

「はいよ、気を付けて帰るんだよ」


 金貨を2枚支払い、布を手に入れた僕は領館に帰って早速木材を組み立てる。さっき作った凧(・)は失敗だった。紙では上空の風が強すぎて耐えられないし、雨が降ればすぐに墜落してしまう。だから今度は布で幕を張り、枠も一段階頑丈にした。これならば多少雨風が吹いても、壊れることは無いだろう。それに糸では覚束ないので倉庫からロープを持ってきて結びつけることにした。これで一通り完成だ。

 このままではロープの持ち手がいないので、誰か力が強い人を雇いに冒険者ギルドまでやって来た。


「本日はどのような御用でしょうか?」

「出来るだけ握力の強い人を一日雇いたいんだけど…誰かいないかなぁ」

「そうですね、冒険者ギルドのご利用は初めてですか?Eランクの人材なら銀貨2枚程度で今直ぐ雇えますよ」

「Eランクじゃあ心許ないなぁ」

「銀貨4枚出せばD8枚出せばC16枚出せばB32枚出せばA64枚出せばS128枚出せばSS(ダブルエス)256枚出せばSSS(トリプルエス)ランクの人を雇えるというのが相場、目安ですが…如何なさいますか?」

「それじゃあ、256枚の銀貨を出してSSSランクの人を募集してみようかな…」

「正気ですか?今連絡を取りますね。この辺境の地に偶然いらしているんですよ。SSS級冒険者が」


 残り金額は銀貨44枚となった。不吉だ。何かの天からの啓示(リベレーション)、標(サイン)だろうか?


「連絡が取れました。タークスさんの話を出したら、すぐ来てくれるそうですよ!!物凄い幸運ですね。SSS級冒険者に依頼を受けて貰えるなんて、一生にあるかないかっていう一大事(イベント)なんですよ」

「そ、そうなの?何だか悪いことをしちゃったかな…一生分の運を使い果たしちゃったかも」


 僕は近くに備え付けられた小さな椅子にちょこんと座り、SSSランク冒険者が来るのを待った。物凄い筋肉質で背が高く大きな大剣を担いで世を闊歩するスキンヘッドの英雄の姿を夢想しながら、地につかない足をばたつかせる。


「それで依頼主の坊ちゃんっは何処だい?」




 

 




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