2-7 深き森の往復
次の日の修業内容は、カージュとビィートーの二人は冒険者になる為に必要な体力をつける訓練を受けさせられた。シェイドーは魔力を切らされ、二人よりも多く重りを付けられ走り込みをさせられた。シェイドーはタークスと共に冒険がしたいが、二人は冒険者になることが夢なのだ。
タークスは今日も気配探知の訓練を続けている。一長一短で身に付く技術ではなさそうだ。
タークスが魔力感知をある程度マスターした頃、三人のマラソン風景は街の風物詩になりつつあった。街の皆は噂が好きだし子供には優しい。
「行くんだろう?俺も連れて行ってくれ。約束だろう?」
「ティミィ、彼は隠密状態で進める?」
「いいえ、彼は土属性なのでタークスと同じように進むことはできません」
「彼に隠密行動を教えておいて?その修行が終われば、連れていく事ができるかもしれない」
「約束の期限は決めていなかったからな…分かったもう少し修行しよう」
「頑張ってね…僕は『深き森』の探索に向かうよ」
朝早く起きて壁を乗り越え、前に辿り着いた森の奥の地点に向かう。一度通った道なので、昼間が来る前に僕は大きな木々が立ち並ぶ場所まで来ることができた。
「いつ見てもここから見る景色は綺麗だな…折角ここまで来たんだから、今日はこの森を調べてみようか…相変わらず霧に隠れて中がどうなっているか全く予想が付かないけれど」
僕は【気配察知】の魔法を発動させ、木々を掴みながら慎重に移動していく。奥へ進めば進むほど、木々は高くなり霧も深くなる。魔力探知なしにこの地を進むことはほぼ不可能だろう。
「全く何も見えない…この辺りはどうなってるんだ…霧が深すぎて目が痛いよ…」
タークスは霧の中、少し休憩を挟むことにした。不用意に進むことは安全ではない。目を休め、辺りに何があるのか深く調べる。探知できるエリアは全て霧に包まれている。
来た道を引き返さないように、霧の中を更に奥へと進む。少しずつ勾配が急になり、木々は小さくなり霧は晴れていく。漸く登るべき山に着いたのだ。
「あとは、この山を越えれば隣国か…けどもう引き返さないと夕方までに帰れない…」
持参した昼食を食べてから、タークスは再び霧深き森林に入り街へと帰る。行きよりも然程時間を掛けずに霧の森林『深き森』を踏破し夕方になるまでに何とか帰ることができた。
「今日はどんな訓練をさせていたの?ティミィ」
「簡単な訓練ですよ…土属性だからと言って、隠密行動ができない訳ではありません。歩く時、どうして音が鳴るのか考えたことはありますか?」
「土を踏むからでしょ」
「土属性なら、その土を操って音を消すことができるとは思いませんか?」
「た、確かに言われてみればそうかも…」
「今現在は足音を消す修行中です。その内無音で移動することができるようになるでしょう。そうすれば、充分旅に連れて行くことができるでしょう」
「(ま、『深き森』までなら連れて行っても問題ないだろう)」
この時僕は完全に勘違いしていた。シェイドーと僕とが思い描く旅の終着点が異なっていた。
「一か月あれば、習得出来そうかな?」
「充分でしょう。完璧に仕上げて見せます。それで今日は何処まで到達できましたか?」
「『深き森』を抜けることができたよ…方向感覚が分からなくなる厄介な森だった」
「そうですか…では今日からはそこまでできる限り往復することを日課としましょう。往復できる回数を増やすのです。そうしなければ山を越えるなんて夢のまた夢ですよ」
言葉で言えば簡単に聞こえるが、物凄く鬼畜かつ過酷な訓練が今始まった。
「どんなことをしてでも、俺は『天界』に行く」
「その意気込みは素晴らしいですが、纏っている土が崩れてきていますよ!もっと集中するのです」
布擦れの音を起こさないために常に土の鎧を着ながら音を立てない訓練が行われた。この訓練が終了すれば完全に音を立てずに移動が可能になる。
「ティミィ、忘れているかも知れないけれど、森には木が沢山ある。だから土の足場以外の所では音が立つんじゃないかなー」
「避けて進ませるしかないですね。今のところは」
「木の上を音を立てずに…移動するにはどうすればいい?移動速度が違いすぎて、僕では『深き森』まで連れていけないかもしれない」
「そうなれば、最後の手段を使うしかないでしょう?」
最後の手段?言われてみれば、確かにそうだ。今僕は既に360kgを超える重りを付けて『深き森』を踏破できているのだから、彼を抱えていけば何ら問題がないことになる。それなら何故彼にそのことを教えてあげないのだろう?
「その方が、彼の為です。それにこの訓練は決して無駄になりません。いつでもタークスが運んであげられるわけではないのですから。少しでも生存率を上げる為には、一人でも生き残れるしぶとさが必要なのです」
今日はキトと模擬戦だ。
「少しは強くなれたかな?」
「前よりパンチの威力が上がってる。成長速度が速いね…どんな訓練をしてる?」
「走り込みを繰り返しているだけだよ…」
「でもまだまだ私には勝てないかな。君の雷撃には致命的な弱点があるよ」
「なにかな?」
「それはね、リーチだよ!君の攻撃は懐に入り込まないと当てることができない。私は腕と剣の合計の長さ離れることができる。この差は大きいよ」
「では僕も剣を使います」
「付け焼刃の剣術では、私には勝てないよ」
「キトに勝てなくて悩んでるようだな…私が勝つ方法を教えてあげよう」
「そんな方法が?」
「『近接格闘戦術』を教えて進ぜよう。これをマスターすれば剣に対してもある程度戦えるようになる」
僕はそれからシャシャに『近接戦闘』がどういうものなのか教えて貰う事になった。シャシャは僕よりもずっと腕力が高い。掴まれてしまえば、腕に痣ができるくらいの握力もある。力でも技術でも全く歯が立たなかった。
朝からは『深き森』を往復し夕方になればシャシャに訓練を付けてもらう日々が続いた。日々成長しているのが分かるので、つらい訓練であっても乗り越えることができた。
――シェイドーが無音で歩けるようになった頃
「よしその調子だ。一通りの技はマスターしたようだな。後は実戦で技を磨くといい」
「そろそろ俺を連れて行ってくれないか?『天』まで」
「じゃあ、明日朝早くに行こうか」
約束通りに、僕はジェイドを連れて『深き森』に行くことになった。
僕はいつもと同じように壁を乗り越える。だがジェイドはどうやら壁を超えることはできない様だ。どうしよう…。
「この壁はどうやって超えたらいいんだ?」
「壁も土なんだ。手を壁に貼り付けてよじ登ってみて!」
良く分からないが、アドバイスする。彼自身で壁を乗り越えてもらう必要がある。ティミィの無茶ぶりに数か月付き合っていただけはあり、ジェイド―は壁を攀じ登って来た。
「じゃ、森の中に突入するから付いてきて?」
僕は木の上を、ジェイドは地の上を走って森の中を進む。何時もの数倍の時間はかかったが、二人は無事に『深き森』の入り口まで到達することができた。
僕は彼を最初の木の上まで持ち上げる。
「もう夕方になってしまったね。ここから夕陽を眺める日が来るとは思わなかったよ」
「ここは『良い場所』だな。空に近いし、街の様子も良く見える」
「そうでしょ?僕は毎日訓練で、ここと街を往復しているんだよ!」
僕たちは夜の移動は危険なので、今から帰る事は断念せざるを得なかった。僕たちは木の上で一泊することを決意したのだった。
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