2-6 シェイドー達の修業
次の日の朝、約束通りシェイドーが孤児たちを引き連れて領館に訪れてきた。彼らを僕の部屋まで通してもらう。
「お前のお友達って奴は何処にいるんだ?早く教えて貰いたいんだが」
「ここは書斎だから、無暗に触らないでね。高価なものも沢山あるから…」
「お、おう…分かった。そんなこと言われると、何も触れねーな…」
「くすくす、本棚に近づかなければ問題ないよ。それでそちらの二人も?」
「ああ、強くなりたいんだって。童顔なのがカージュで、天然なのがビィートーだ。冒険者になって、王都に行くのが夢なんだってよ」
「そっか、分かったよ。折角来たんだし朝食は一緒に食べようか?」
朝食はアボベーゲ定食だったので、シェイドー達もがっつり食べてくれた。僕たちは領主ではあるけれど、特に贅沢な生活をしているという訳でもないんだ。
「タークスの新しいお友達?今日は朝から待ち合わせなんて、どこか遠くにでも出かけるの?」
「うん。遠くには行かない。一緒に修行をしたいんだって!」
「まぁ、朝から修行何て将来有望ね。将来の夢は有名な冒険者になること?」
「あー、この二人はそうです…。俺は、否自分は、ちょっと天界に行ってみたくてそのー」
「無理に敬語なんて使わなくってもいいんだよ。私は乱暴な言葉にも慣れているから…そんなに偉いって訳でもないしねぇ」
「貴方、それでも本当に孤児院を纏め上げてる男なの?おっかしーの」
「仕方ねぇだろ…産まれてこの方敬語なんざ使ったことはねぇんだからよ…」
「シェイドーはそういう物言いの方が似合うよ」
食卓は笑いに包まれる。どうやら、彼ら孤児は僕らの家族に認められたようだ。
食後僕たちは中庭に出て、修業を開始する。僕は霧の中でも動けるように、所謂【感知魔法】の習得に励む。
「俺たちは何をすればいいんだ?取り敢えずこの広い中庭を走り込みでもすればいいのか?」
「それもいいかもしれないね…でもそれより『魔力』というものが何なのか学んでほしいんだ…ティミィ三人の修業頼んでもいいかな」
「お任せください。三人を優秀な冒険者に育て上げて見せます」
「(今、物凄い寒気を感じたぜ…この魔道人形からは得体のしれない強さを感じるぜ…これはやばい奴に訓練を頼んじまったかもしれねぇ…だが、天界に行くために必要というのなら…悪くねぇ賭けだ)」
シェイドーは魔力を高めるために、『強制瞑想』という魔力の回路を無理やり開く儀式を受けることになった。一般的には、一歩間違えれば命は無いといわれている非人道的な危険な儀式だ。魔導士たちが一般人から弟子を取るために編み出した技法で魔力を使っていない人の回路を無理やり励起させることができる儀式だ。だが、その成功率は低く10人に6人は死に至ったと文献に書かれている。
「10人に4人生き残るんなら、3人いれば誰か一人は生き残るんだろ?覚悟はできてる、やってくれ。お前たちはどうだ?ここで冒険者になる夢を諦めるか?」
「どうせこのまま生きていても、僕は地下労働者位にしかなれない…僕もいつでもその覚悟はできてる」
「成功率40%は低すぎるよ、命を懸けるには」
強制瞑想の方法は簡単だ。外部から強力な魔力を流し、その人の魔力回路を強制的に繋げる。その間、体中に電気が流れたような痛みが永続的に駆け巡る。体中の毛穴という毛穴から血液が噴出し、ショックに耐えられず死んでいく。
「私が過去の方法に改良を加えた『強制瞑想』なら成功率は最低でも80%まで上昇します。それに今ならタークス様の【治癒魔法】で瀕死に陥っても命を繋ぐ事は可能でしょう」
「どういう方法か、説明してくれねぇか?俺達には説明を受ける権利?があるはずだ」
「いいでしょう。理解できるか分かりませんが…」
電気ショックで死ぬ人間と雷に打たれても生き残れる人間の違い、それは電気が流れる時間の差と電気が地面に流れているかいないかの差だといえる。つまり、魔力においても『雷に打たれて生存する現象を再現』すれば生き残ることができるという事になる。
「じゃあ、やってくれ!」
「それでは行きますよ!【魔力撃】【魔力吸引撃】」
高速に頭部に放たれた【魔力撃】とほぼ同時に腹部に放たれる【魔力吸引撃】が完全にシェイドを気絶させる。
「少し威力が強すぎましたか?タークス急いで彼に治癒魔法を!」
「わかった!【自然治癒力向上】…駄目だ、呼吸が完全に停止してしまっている。心肺蘇生、人工呼吸を行う。ティミィ手伝って」
「1、2、3、4、5」
「シェイドー、戻って来て!」
ティミィが胸に手を当て心臓を押し、タークスがシェイドーに口づけをして息を吹き込む。3回目に息を吹き込んだ後、シェイドーが息を吹き返す。
「危ないところだった…一時心臓が止まっていたよ…本当にこの方法大丈夫?」
「少し強く攻撃を加えすぎたのかもしれません…次はもう少し上手くやって見せます」
「シェイドー大丈夫かな」
「暫く横に寝かせておけば、【治癒】魔法の効果が出てきて意識を取り戻すでしょう」
「カージュ、ビィートー未だ『強制瞑想』を受ける覚悟はありますか?」
「一度決めたことだから、僕はやる」
「一人失敗した、つまり僕たち二人が成功する確率は64%。悪くない」
「では今度は二人同時に行きますよ!【魔力撃】【魔力吸引撃】×2」
カージュは魔力回路が押し広げられた痛みで完全に気を失う。ビィートーは蹌踉けて倒れはするがどうやら意識は保っている様だ。
「この調子でどんどん頼むよ。…僕は【魔力感知】の習得に時間を掛けたいから」
タークスの周りには数多くの球体が漂っている。『魔力障壁で作られて球体が何か物に当たれば、物体の位置が感知できる』という魔法だ。魔力障壁で作られた球体をできるだけ多く作りたいし、球体をできるだけ小さくしたいし、球体を操作できる範囲をできるだけ広げたい。今タークスができる範囲は10m程度でその魔力障壁の数も粗が多く少ない。同時に操れば操る程、頭が混乱状態に陥り上手く魔法を維持できなくなる。こればかりは数を熟して慣れていくしかない。
「では始めますよ。貴方達は筋力をつけるために常にこの重りをこれから付けてもらいます。魔力を増やす為に、瞑想の仕方を教えます。そしてその最中に貴方達の得意属性を調べます」
三人は重りを付けさせられ瞑想を開始した。自らの中の魔力回路で魔力を意識して循環させる。
「得意属性って、どうやって判別するの?」
「魔力の性質を判断できる魔道具があります。魔力を流すと3つの針が回転し得意属性の方向を指し示します。タークスも使ってみますか?」
僕が使ってみると、第一の針は火を指し示し第二の針は無を指し示し第三の針は風を指し示した。魔法障壁を駆使しているので無の属性が必然的に強く出ているのかもしれない。
ティミィが使うと、どの針もどれか特定の属性を指し示すことなく回っている。
「どういう事?ティミィは一体何属性なの?」
「ふふっ、秘密です。この魔道具には、こうやって属性を知られないようにする方法があるのです。覚えておいて下さい」
何だか腑に落ちなかったが、書籍を全て覚えているティミィのやることが規格外なのは今に始まったことではない。
シェイドー、カージュ、ビィートーの得意属性は土、風、水と分かれることになった。
「これからも厳しくいきますが、もし諦めたくなったら来なくて結構ですので…」
シェイドーは幾ら辛くても明日も来る覚悟でいた。
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