2-5 山への挑戦
湖での戦闘が終わり、気絶したタークスは自室までお姫様抱っこで運ばれた。僕が目を覚ました時、既に朝日が窓から差し込み眩しさで目を覚ます。
「おはようティミィ、僕はどれくらい眠っていたのかな?」
「凡そ12時間ほどです。昨日からキト様が心配しておられました」
「そっか…良かった。食事を摂ったら、僕は腕につけている重りをもう一段階重いものに付け替えてもらえに行ってくるよ」
「昨日負けたのが相当悔しかったようですね。実力を上げるには、負けることも必要ですよ」
言われた通りだった。手も足も出なかった。僕には圧倒的に力が足りていない。それを補わない限り僕に勝ち目はない。
街の外れの方にひっそりと鍛冶屋は開業されている。
「今日は一体何の用じゃな?新しい玩具でも作って欲しいのか?」
「ううん、今日は手枷を作って欲しいんだ。重さを変えられるような奴がいいんだけど」
「直ぐに言われて出せるのは、単なる鉄の重り位だぜ。付ける本数を変えて重さは調節しな」
手枷を付けて街を歩いていると、妙に風で揺れる看板の音が大きく聞こえる。肩の重みが聴覚を過敏にしているのだろう。あらゆる音が良く聞こえる。商店街で数多くの人が買い物をしている。数多くの人が行き来し、取引をしている。この街では、お金という物の価値が余りなかった。買うべきものがなかったし、使うべきお金は何ら役に立たなかった。
戦争が一時集結し、タークスが飴を作り、それを商人が買うようになり、街にお金が出回るようになった。その為、この街では色々な物を高く売ることができるようになり…商人が外から色々持ち込むようになった。
その中にはタークスが知らないものも沢山あり、気になったのでお店に入ってどういう物なのか確かめてみる。
「ここは、何のお店なんですか」
「ここは時計屋だよ。どれもこれも最近入荷したものばかりなんだが、地下労働者達に飛ぶように売れる。どんな時計をお望みかな?」
「一番の売れ筋の時計を見せて欲しいな」
「この首輪タイプが結構な売れ筋だぜ。何せ穴掘り作業で壊れることがないからな。それともオーソドックスな腕輪型にするかい?」
「じゃ一番人気の首輪で…色は黒でお願い」
金額を払って、早速首輪をする。首輪に触れると、目の前に時間が表示される。耐久性の高い素材で作られているようで、軽くて丈夫なところが売りらしい。動作確認をしてから、時計屋を後にする。
僕が気付かなううちに、色々な新しい商品がお店屋に並んでいる。靴屋にも新しい商品が目についた。どういう靴なのか気になったので、店屋にはいって確かめることに。
「新しい靴があるみたいですね…。どういう靴なんですか?」
「これは都会から入荷された新しいタイプの靴なんだ。今では一番人気の商品さ」
「履いてみてもいいかな?」
「サイズはどれ位だ?取り敢えず合いそうな靴を履いてみろ」
いくつか履いてみて、丁度いいサイズを選ぶ。これなんかぴったりかな…。色も灰色でちょうどいいし。
「この変な形の靴は何なの?靴に板がついてたら歩き難いんだけど」
「その靴は道を滑って進めるんだぜ。今都会では、結構人気になってるんだ」
「僕には必要ない靴だよ…でも記念に一つ買って帰る!」
新しく買った靴を履いてその上からボードシューズを履いて滑るように移動する。靴の下側から風が発生して浮きながら進む。動力は、搭乗者の魔力みたい。魔力供給量で風の出る強さが変わる。
「結構面白いかも…」
商店街には僕の知らない店も増えた。今まで洋服やと言えば一つしかなかったけど、変わった服が沢山販売されるようになった。
「何だか防御力の高そうな服だなぁ…やっぱり地味な服より派手で分厚い服の方が売れるのかな…」
「どんな服をお望みでしょう」
「灰色のダウンジャケット、無いかな?防御力の高そうな服も」
「この服は256色の中から選ぶことができるんですよ。その分少しお高いですけど。灰色というとこの色でよろしいですか?」
「うん、試着してもいいかな?」
ちょうどいいサイズの服を一式買い取り、領館へ帰還する。僕は物凄く上機嫌だった。この街でお金を使える場所と言えば今まで食事処とか宿屋とか武器防具屋しかなかったもの。魔道具店もできたし、雑貨屋もできたし、何より多くの店舗ができてそれぞれの店に品揃えが増えた。
「お帰りなさいませ。今日はお早いお帰りですね」
「そうだね…今日はちょっと買い物をしてきたんだ!」
「よくお似合いです」
僕は姉に勝ってきた時計をプレゼントし、明日の冒険に思いを馳せる。
次の日、僕はこっそりと街を出て山の方へ向けて出発する。この街は高い壁で覆われているけれど、僕にとっては飛び越えることは難しいことではない。
タークスは山のなかを縦横無尽に飛び回る。領内の木々で練習した通りに気配を消しつつ、木と木の間を摺り抜けて探索していく。
「練習と違って無音で移動するなんて夢のまた夢だなぁ…。蔓が生い茂っているし、腐っている枝だってある。魔獣が巣を作っている所は避けないと喰われてしまう」
一日で行けるところまで山側へと進むと、今までより更に高い木々が生い茂っている深い森に到達した。深い霧が漂っており、これ以上進む為には木々を切り落とし霧を晴らさないと危険だ。
「霧の中を進まないといけないなんて…聞いてない!これじゃあ探索はここまでだなぁ…」
最も手前の大きな木に登り、領地の方を眺める。ここの木の上は今までのどの木よりも高く、領地の様子がよく見える。
「ここは良い場所だなぁ!ここからだと、地下通路に出入りしている人たち、商店街で買い物をしている人たち、裏路地で毎日着の身着のまま過ごしている人たち、新しく拡張された土地で仮小屋暮らしをしている人たち、色々な人達の様子がよく観察できるよ」
太陽がもう沈もうとしている。夜になれば魔獣の強さは一段階上がり、気配を絶っても人間の匂いを嗅ぎつけてくるかもしれない。夜は昼とは違い感覚に優れた魔獣達が目を覚ます世界、まだ僕では到底敵わない。囲まれてしまえば打つ手が無くなってしまう。
「いけない、もうこんな時間だ。早く帰ろう」
タークスは一直線に領地へと帰る。外壁を登り超え、内壁を飛び越える。着地点は孤児院の中庭の様だ。子供たちは夕食を食べ終え、日が暮れるまでの時間何人かが中庭で遊んでいる。
「タークス!?今上から来なかったか?こんな時間に何の用だ?」
「特に用と言うほどの用じゃないんだ…単に帰り道だっただけ」
「天国にでも行っていたのか?天国に行くのなら今度俺も連れて行ってくれ!」
「うん、わかった…」
「本当だな!今度連れて行ってくれよな」
「うん…でも今のシェイドーって魔獣から逃げ切る事ってできる?」
「魔獣だって…お、おっそろしい…けどそりゃ外は、魔獣から逃げ切れないといけねぇよなぁ…な、何とかならねぇか?」
「うん…朝領館に来なよ…鍛えたい人を引き連れて…少しくらいなら僕を鍛えてくれたお友達がシェイドーの面倒も見てくれるよ」
「分かった…行ってみるよ…約束忘れるなよな」
僕は商店街の屋根の上を闊歩して近回りで領館に辿り着く。
「お帰りなさいませ、タークス様。御夕食の準備ができておりますよ」
庭で魔導人形に爆発魔法を撃ちこんでいた姉がこちらにやって来る。
「タークス、いい加減あの人形の壊し方を教えなさいよ!」
「嫌だよ…そうしたら真っ先に僕の魔法障壁が打ち破るつもりでしょ…」
それに姉は何も言わずに魔道人形を破壊しつつある。一度僕の見せた小さな炎に近づけようと少しずつ無意識に魔法を凝縮する手段を手に入れつつある。姉も類まれなく才能あふれた魔導士になることだろう。
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