2-3 第七大隊がやって来る
新しい事業を始めて、何とかして働き口がない問題を解決したいところだ。人の手を借りて成し遂げなければならないことが、一切思いつかない。大抵のことは自分でできるからだ。例えば隣的までの道を整備するなら、ティミィに僕の魔力を分け与えて道を均せば問題は解決してしまう。無駄に人を使うよりも早くて安上がりで済む。
「何か人を使う事業ってない物かな…有意義で、時間のかかり、いつまでも終わりが来ない…」
「地下に永遠に穴を掘らせてはどうでしょう。何時までも終わることなく続けられる作業であることは間違いありません。ただ、有意義であるかどうかは分かりませんが」
「それが鉱山で、掘っている物が鉱物なら有意義な作業かも知れないけれど…この近くにある山は僕たちの領地ではないんでしょ?」
「タークス様の領地には何の魅力もありません。極極ありふれた森林や何処にでもある平地ただそれだけです」
「土地を下に掘っていけば、温泉が出るとか?」「ないでしょうね」
「じゃ横に掘ってもらうのはどうだろう?」
「海に向けてですか?そこが誰の領地でもないのならいい案でしょう」
それからギルドには常に求人報告書が貼られることになった。地下に穴を掘る仕事だ。この街では常に仕事不足に悩まされており、働きたいのに働けない人が多数存在した。そんな人たちが挙って募集に応じた。一日穴を掘り続けることで貰える報酬は『十分な食料』だけであるのにもかかわらず、求人に応じる人々が絶えることは無かった。
「予想以上の人気の職業になりましたね?この求人ができてから、スリや無賃飲食などの軽犯罪が圧倒的に減少したとの報告が来ています。流石です」
「物凄く多くの人が地下で働くようになったね…街の殆どの人が…」
「良いことですよ。『飢えの無い街』なんて言われるようになるでしょう。今まで仕事がなさ過ぎたのです」
「崩落した時の対策はできてる?」
「もし不本意ですが崩落してしまえば通常命はないでしょう。それは、同意の上での契約ですから…仕方ありません」
「助かる命があるなら、一つでも多く救ってあげたいんだ」
「そうですね…地下のあらゆるところに助命の為の装置を置いたり、最先端を掘る場合は土に埋もれても生き延びることのできる装備を装着させてみてはどうでしょう」
「じゃ、そうしよう」
気休め程度に設置された設備は、地下で作業する人々に安心感を齎した。地下の掘削は誰にでもできる作業で、特にノルマは定められてもいない。その為この街の人々が働くだけではなく、隣街からも態々地下で働くために馬車で十数日の道程を経てやって来るまでの賑わいぶりとなった。
「隣街から働きにやって来た大勢の人が、路上生活をして治安を乱しています。このままでは暴動が起きかねません」
「そっか…食料は足りてるから、路上生活が快適なのかも…どこかに移ってもらえそうな空地はあるかな?」
ここは都会のように全ての土地が誰かの所有地として埋っている訳ではない。街を一歩出ればそこは魔獣の領域、その為ここでは人が増えても対処するのは容易い事なのだ。魔獣の領域を人の領域にすればいい。
「街の周りにもう一段階壁を作って人の住める領域としてしまいましょう。そうすれば全て解決です」
「壁だけは、頑丈なものにしよう!食料は足りてるだろうから、それで暴動にはならないだろー」
「これからどんどん更に人が増えるかもしれませんよ」
「余ってる労働力で地下を更に掘ってもらって、街を作ってもらおう」
地下には数多くの柱が建ち並び、いつの間にか巨大な地下街が完成していた。人がいるところに商人が集まり、商人が集まる所に金の流れができる。それは経済が良好な証だ。
タークスがしたことと言えば、食料として『日持ちのする飴』を必要なだけ作り出しただけだったが、結果的にそれが多大な経済効果を生み出した。『タークスの飴』は即日食べればただ腹が物凄く膨れる甘くて栄養のあるお菓子に過ぎないが、商人たちの目は節穴ではない。飴を高値で買取し、他領に保存食として売りに出し始めた。袋に詰められた『日持ちする飴』は刻まれた日時までは保証されている優良な保存食なので、国が安定した額で買い上げてくれた。
商人たちは製造元から大量に安く仕入れようとしたが、その願いが叶うことは無く労働者の報酬として配られる以外で手に入ることは一切なかった。労働者たちは大抵その日の食べ物を飴で補うので、飴の値段が少し高額になるのは必然的なことだった。
この賑わいは直ぐに王都に伝わり、商人から買うよりも安く仕入れる為王直属の部隊が動くことになった。
「我が国辺境の地キーノルドで何やら保存食が大量に出回っておるとか。事の真偽を確かめ、可能であるなら責任者を連れてまいれ。分かったな?」
「ははっ、直ちに」
第7大隊長ニューロマーは部下を引き連れて、最速でキーノルドへと駆けていった。
一か月程の道程を経て、漸く辺境に到着する。
「長い旅路でしたね、隊長。早いところ任務を済ませて王都に帰りましょう」
「ここがどうして辺境と言われているのか、やって来てみて良く分かったよ…地図では近そうだが、実際ここに来るまでは相当の時間がかかる不便な場所だ」
「早く街に入って馬を休めてあげたいです」
「検問を抜ければ、もう街はすぐそこだ。支度金なら充分渡されている。街に入ったら、皆で旅の疲れを癒そうじゃないか」
検問を抜けたニューロマーは街の風景に大層驚くことになった。街は数多くの路上生活者がいるのにも関わらず、全く彼らの目は悲壮感に包まれていない。寧ろ街は明るい雰囲気に包まれている。
「この街で大量に保存食が生み出されているという噂は強ち流言飛語ではない様だな」
「そうですか?ただのホームレスが集まってるようにしか見えませんが」
「だとするのなら、お前の目は節穴だな」
道を直進し、第二検問所を通り抜ける。暫く行きそこで漸く領館らしき建物が通りの向こう側に見えてきた。
「お待ちしておりました。領主様がお待ちです」
――迎賓の間 応接室
「遠いところからわざわざお越しいただいた様ですね?どうぞお寛ぎください。ここではマナーに煩い王都とは違い、ここでは小うるさい作法を気にする者はおりませんので」
「一か月間の旅路で疲れているので正直その申し出は助かります。早速本題に入っても宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。この領地の税金の話でしょうか?」
「税金は依然と同じ額を収めていただければそれで宜しいそうです。私の話は違います。保存食の件です」
「領民が生活していくために配られている『飴』の話ですね?」
「ええ、王がその類稀なる保存性から大量に買い上げたいとのことです。できれば都合をつけていただきたい。これがその書状です」
「見せていただいても?」
「どうぞ」
リーズは書状を読み本物であることを理解する。そして何事をも強制する物ではないことも理解した。ただ王様からの要請を断れば、どうなってしまうかは分からない。
「本物のようですね。分かりました、仕方ありません。できる限りの協力は致しましょう」
「では、大量にある保存食を売っていただけるのですか?」
「いいえ、私にできることはこの『飴』を作っている張本人に会わせるまでです」
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