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タークスの日常  作者: @kohe75438489
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2-1 戦後一年経過

 一段落付いた僕たちが最初にしなければならないことは食料を集め飢えを凌ぐ事だった。このままだと、領民全員が戦争ではなく飢えに見舞われてその生命活動を終えることになってしまう。


「みんなよく聞いて!手の空いている人は周辺から何でもいいから食べられるものを持ってきてもらうわ!このままでは全員飢え死によ。この際味はどうでもいいわ、わかった?」

「俺ら治安維持部隊も行くんすか?」

「今、治安維持なんて必要?今必要なのは食糧よ!」


 動ける人達は全員食料捕獲任務に出向くことになった。僕は皆がお腹を空かしている中、一人で飴を舐めながら悠々と暮らしていた。


「ティミィ怪我はなかった?…今役に立つ魔法は何かないか教えてくれない?」

「火、魔法障壁、風の魔法は習得済みでしたね?魔法障壁の形を変える練習をするのがいいでしょう」

「地味だね…何か役に立つの?」

「この文献にこのような記載があります」


 目を光らせて該当ページを映し出す。魔法障壁の便利な使い方か…。そこに書かれている通りに魔法障壁を作り出して食器の形にする。その魔法障壁のカップの中に果汁を注ぎ込む。


「魔法障壁があれば、食器要らずで過ごせるなんて…!皆知ってる使い方なの?」

「どうでしょう?少なくともこの著書を所有している方は、使い熟しているでしょうね」


 魔法障壁で蒸留器を作り、果汁から水分を分離してみる。固形の物と水を再び混ぜて果汁に戻して飲む。


「この技術があれば、海にいけば幾らでも水と塩が作れそうだね…ここから一番近い海は何処かなぁ」

「最も近い場所はここから西に行った場所です。険しい山脈を一つ抜ける必要がありますが」

「僕が通り抜ける為には、何をすればいいかな?」

「森の中で一人で生きていける技術が圧倒的に不足しています」


 タークスは地味に一つずつサバイバル技術を身に付けていくことにした。


「森の中で必要なのは、まず清潔な水です。水さえ在れば当分は生き残ることができるでしょう」

「どうすれば水魔法が使えるようになるのか、さっぱり感覚がつかめないんだ…」

「得意属性という物が先天的に決まっているようです。タークスは火、風属性には適性があるようですが水属性には全く適性がないようです…水魔法が使えなくても生き残ることはできます。先ほどやったように、水分を含む物を蒸留すればいいのです」

「他に必要なものは?」

「毒を含む植物を覚えて口に含まないことです。私は魔導人形ですから毒にやられることはありませんが、タークスには致命傷となりかねません。又自然の魔獣が放つ状態異常を含む攻撃にも気を付ける必要があります」

「後で覚えるよ…他には?」

「魔法障壁を手の延長上のように使えるようになれば、ありとあらゆる場面で有利に物事を運べるようになるでしょう」

「魔法障壁なら今のままでも充分使いこなせていると思うけど」

「魔法障壁で森の中を音を立てずに移動できますか?」

「ホバーリングは物凄く音が出るし…無音で移動するなんて無理な話だよ」

「木を魔法障壁で掴んで、移動すればいいんです」


 手から魔法障壁を出し枝に村下がる訓練を開始する。様々な角度に伸びている枝に捕まり音を立てずに移動する。戦争終結から、タークスは訓練を開始した。


「変わった訓練ね!新しい健康法かしら」

「森で生き延びる訓練」

「単調でつまらなそうな訓練ね!私がもっとスリリングでエキサイティングなメニューに変えてあげるよ」


 シーチェルは魔法障壁を展開している最中に爆発魔法を撃ちこんできた。僕はなされるがままに、撃ち落される。

 練習も月日が経つと、段々と躱せるようになってきた。森が燃えない様に魔法障壁で爆発を消しつつ、木の中を避けていく。僕が避けるのを巧くなるのと同じように、シーチェルは当てるのが巧くなっていった。


「圧倒的な力の奔流、そんなものが現れても逃げ切れるかな…?」

「上に逃げることも下に逃げることもできないのなら、立ち向かうしかありませんね…タークス様には、魔法障壁の形を変えることを提案します。平面状に張るのではなく、球面状に張るのです。そうすれば、強度は何倍にも跳ね上がります」

「それも一般に知られていること?」

「いいえ、書籍には記載はございませんでした。ですが、書かれていることから容易に類推できることです」


 ティミィの出したプロジェクターが示した通り、僕は魔法障壁の形状を変えていく。球というより楕円球に近い形だ。完成された魔法障壁は、光を反射して虹色に輝いている。


「何だか物凄く効果のありそうな、障壁だね!!」


 通常の人はタークスのような障壁を張ることはできない。まず障壁は平面板でしか作れないという固定概念がありそれが自由な形を作る事を阻害している。次に魔力障壁の形を変えて維持するだけの魔力はない。前面に魔法障壁を張るだけの魔力が1だとするなら、前面に盾のように魔力障壁を張るのに必要な魔力は300は必要になる。


「恐らく、最強の盾にも鉾にもなるでしょう。タークス、魔力量を増加させる訓練を続けるのです。勝負は結局のところ、魔力の保有量で決まります」

「分かってる。僕はあの山を越えて海を見に行くんだ。他にどんな修業が必要かな」

「ここ一年の訓練で、貴方は防御面ではだれにも負けない程の力を得た筈です。回避能力も上がった筈です。状態異常のある植物も覚え森の中で生きていく技術を覚えてきた。けれどまだ足りないものがあります。何か分かりますか?」

「状態異常耐性とか?」

「正解です。森の中に入ればどうしても状態異常に掛かることは避けられないでしょう…。いくら常に魔法障壁を張っていても、食料に毒がなくてもです。それらの対処方法も書籍の中に書かれていました(今では焼けてしまいましたが)」


 ティミィの目が輝きスクリーンとして必要な頁(ページ)を映し出す。


「まずは麻痺毒の対処方法から練習しましょうか」


 それからの僕の食事は悲惨なものだった。毒の耐性を得る為、色々な毒物を食事に混ぜて食べさせられた。僕は自らの命を守る為、必死になって【自己治癒】の魔法を自ら習得するしかなかった。命懸けだったので正直どうやって習得したのか覚えていない。鳥が巣から突き落とされて自然に空を飛び始めるように、僕はいつの間にか『毒耐性』と【治癒】の魔法を習得していた。


「タークス、母さんが呼んでいるわよ!一緒に食事にしましょう」

「わかった、すぐ行くよ!」


 一年経ち、領地はすっかり復興の兆しを見せていた。瓦礫と死体だらけだった街並みも今ではすっかり元通りとなり、人々は明るい話で持ち切りだ。商店街も新しく建て直され、数多くの商人たちが再びこの街を訪れるようになっていた。


「母様の経営手腕(けいえいしゅわん)は素晴らしいですわ。一年で元通りいえそれ以上に復興するんですもの」

「シーチェル、母さんを攻めても何も出ないわよ?それに領地をここまで復興できたのは私の手腕じゃないわ。タークスの魔道人形の御陰(おかげ)。彼女が私に的確な指示を出してくれなかったら、ここまで順調に復興できなかったわ」

「私は焼け落ちた屋敷にあった書物の情報を引き出しただけですので、大したことはしていません」


 既に焼けてしまった書物はティミィの情報から修復され再び書斎の中は本で一杯になっている。意外にもそれを最も喜んだのは、生まれた時から長く書斎に暮らしていたタークスだった。タークスは日常的に書斎の中から本を取り出して読むのがちょっと好きだ。





 




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