潜入
翌朝。
「じゃあ行ってくるね」
彩羽はいつものように玄関へ向かった。
「いってら〜」
「留守番よろしく」
「多分」
「その返事本当に信用できない」
不安を残したまま彩羽は学校へ向かった。
◇◇◇
残されたヒマリ。
ソファへ座る。
五分経過。
「暇」
十分経過。
「暇」
十五分経過。
「限界」
立ち上がった。
昨日の学校。
あれは少し面白そうだった。
友達と話したり、お昼を食べたり、楽しそうだった。
「よし」
そして何もよしではなかった。
◇◇◇
家を出て数十分後。
ヒマリは学校の前にいた。
「また来ちゃった」
全然反省していない。
校門を見る。
先生はいない。
生徒達は普通に中へ入っていく。
「あれ?」
ヒマリは思った。
「これ普通に入れるんじゃない?」
危険な発想だった。
◇◇◇
数分後。
普通に侵入していた。
「入れた」
向日葵の姫、警備という概念を理解していなかった。
廊下を歩く。
教室が並んでいる。
楽しそうな声が聞こえる。
「へぇ〜」
興味津々だった。
◇◇◇
一方その頃。
彩羽は授業を受けていた。
「はい、じゃあここを読んでください」
先生に指名された生徒が立ち上がる。
平和だった。
非常に平和だった。
しかしその平和は終わる。
ガラッ。
教室の後ろのドアが開いた。
全員が振り向く。
先生も振り向く。
彩羽も振り向く。
そして固まった。
「彩羽〜」
ヒマリだった。
「ヒマリぃぃぃぃぃ!?」
教室がざわつく。
「誰?」
「可愛くない?」
「金髪だ」
「外国の子?」
彩羽だけが絶望していた。
◇◇◇
先生が近付く。
「君、何年生かな?」
「分かんない」
「名前は?」
「ヒマリ」
「どうしてここに?」
「学校見学」
先生が困った顔をした。
当然だった。
そしてヒマリは真顔で言う。
「向日葵の星のお姫様です」
教室が静まる。
数秒後。
クラスメイトの一人が言った。
「設定凝ってるなぁ」
「設定じゃないよ」
「そうなんだ」
「信じるの!?」
彩羽が思わず叫んだ。
◇◇◇
結局ヒマリは教室の後ろで大人しく座ることになった。
「大人しくしててよ」
「は〜い」
その返事も信用できなかった。
授業が始まる。
数学だった。
先生が黒板へ問題を書く。
ヒマリは眺める。
一分後。
「暇」
二分後。
「眠い」
三分後。
「帰りたい」
「静かにして」
彩羽が小声でツッコむ。
◇◇◇
さらに十分後。
ついにヒマリは机へ突っ伏した。
寝た。
完全に寝た。
先生も呆れている。
彩羽も呆れている。
「姫ぇ……」
思わず頭を抱えた。
◇◇◇
昼休み。
ヒマリは元気だった。
寝たからである。
「学校楽しい!」
「どこが!?」
「寝れる」
「家でも寝れるでしょ」
「確かに」
彩羽のツッコミが冴える。
◇◇◇
すると購買帰りの生徒が通った。
パンを抱えている。
ヒマリの目が輝いた。
嫌な予感。
彩羽は察する。
完全に察する。
「ヒマリ」
「なに?」
「向日葵の種出すなよ?」
「え」
「出そうとしてた」
「なんで分かったの」
「顔」
図星だった。
◇◇◇
その後。
先生から軽く注意されたヒマリは彩羽と一緒に帰宅することになった。
帰り道。
「学校どうだった?」
彩羽が聞く。
ヒマリは少し考えて答えた。
「思ったより楽しかった」
「そう」
「友達作ってみたいかも」
彩羽は少しだけ笑った。
「その前に正式な手続き踏みなさい」
「めんどくさい」
「言うと思った」
流石は仕事から逃げてきた姫である。
その言葉だけは全くブレなかった。
そんな二人の頭上では、今日も変わらず青空が広がっていたのだった。




