学校ってどんなところ?
バーゲンの日から数日後。
彩羽は朝食のキャベツ炒めを食べながらニュースを見ていた。
ヒマリはその向かいでパンを齧っている。
「ねぇ彩羽」
「ん?」
「学校って楽しい?」
彩羽は一瞬きょとんとした。
「急にどうしたの」
「気になった」
「へぇ」
ヒマリが学校に興味を持つのは少し意外だった。
どちらかと言えば勉強から逃げそうなタイプである。
いや、仕事から逃げてる時点で十分逃げていた。
「まぁ楽しいよ」
「何するの?」
「勉強したり友達と話したり」
「勉強」
ヒマリの顔が曇る。
分かりやすかった。
「そこ嫌そうな顔するんだ」
「だって勉強じゃん」
「姫でも勉強するでしょ」
「するよ」
「ほら」
「寝てたけど」
「駄目じゃん」
◇◇◇
学校へ向かう時間になった。
彩羽はバッグを持って玄関へ向かう。
「じゃあ行ってくるね」
「いってら〜」
「留守番よろしく」
「多分」
「その返事やめてって」
いつものやり取りだった。
彩羽はため息を吐いて家を出る。
ヒマリはソファへ寝転がった。
そして五分後。
「暇」
十分後。
「暇」
十五分後。
「暇ぁぁぁぁぁ」
いつも通りだった。
◇◇◇
天井を見つめながら考える。
学校。
彩羽が毎日行く場所。
そんなに面白いのだろうか。
「気になる」
そう思ってしまった。
気になった時点で負けである。
ヒマリは立ち上がった。
「ちょっと見るくらいならいいよね」
良くない。
◇◇◇
数十分後。
ヒマリは彩羽の通う高校の前に立っていた。
「でか」
率直な感想だった。
校庭。
校舎。
体育館。
どれも向日葵の星の建物とは全然違う。
「へぇ〜」
興味津々だった。
そんな時。
ちょうど休み時間だったらしい。
数人の生徒が廊下から見えた。
楽しそうに話している。
「彩羽もあんな感じなのかな」
何となく見ていると。
校門から入ってくる人物がいた。
先生だった。
ヒマリは反射的に近くの塀へ隠れる。
「危なっ」
別に怒られる訳でもないのに隠れた。
なんかそんな気がしたからである。
◇◇◇
その頃。
彩羽は授業中だった。
「ここテストに出すぞー」
教師の声が響く。
だが彩羽は嫌な予感を抱いていた。
「何だろ……」
胸騒ぎがする。
非常に嫌な予感が。
「まさかね……」
そう呟きながら窓を見る。
校門付近。
何か金髪が見えた気がした。
「え」
目を凝らす。
「え???」
金髪だった。
見覚えしかない。
◇◇◇
昼休み。
彩羽は全力で校門へ向かった。
すると。
「おっ」
いた。
ヒマリである。
「ヒマリぃぃぃぃぃ!?」
「やほ〜」
「なんでいるの!?」
「学校見学」
「誰に許可貰ったの!?」
「誰にも」
「帰りなさい!!」
周囲の生徒が何事かと見る。
ヒマリは少し不満そうだった。
「だって気になったんだもん」
「気になるだけで来ないの!」
「向日葵の星ではやる」
「絶対やらないでしょ」
◇◇◇
するとヒマリが校舎を見上げる。
「彩羽ってここで勉強してるんだ」
「そうだよ」
「大変そう」
「まぁね」
「眠くならない?」
「なる」
「寝ないの?」
「寝ない」
「偉い」
「当たり前なのよ」
ヒマリは少しだけ感心した顔をした。
姫の家庭教師時代を思い出したのである。
十回中九回は寝ていた。
◇◇◇
その時だった。
購買帰りの生徒がパンを食べていた。
ヒマリはそれを見る。
「あれ何?」
「パン」
「学校でも売ってるの?」
「売ってるよ」
「へぇ〜」
少し羨ましそうだった。
彩羽は嫌な予感がする。
「ヒマリ?」
「なに?」
「向日葵の種出そうとしてない?」
ヒマリはそっとポケットから手を離した。
「なんで分かったの」
「一週間一緒に暮らしてるからよ!」
「成長したね」
「その成長いらない」
◇◇◇
結局ヒマリは校門の外から学校を見るだけで帰ることになった。
帰り道。
ヒマリは言う。
「学校って思ったより楽しそうだった」
「そう?」
「ちょっと行ってみたいかも」
彩羽は足を止めた。
嫌な予感しかしない。
とてつもなく嫌な予感しかしない。
「ヒマリ」
「なに?」
「変なこと考えてないよね?」
「多分」
「その返事やめて」
次回、何かが起こりそうな予感だけを残して、二人は家へ帰るのだった。




