バーゲン
休日の昼。
彩羽はテーブルに一枚のチラシを広げていた。
その目は真剣そのもの。
受験生より真剣だった。
ヒマリが不思議そうに覗き込む。
「何見てるの?」
「戦場の地図」
「怖」
彩羽はチラシを指差した。
そこには大きく書かれている。
『大感謝祭!野菜バーゲン開催!』
ヒマリは首を傾げた。
「バーゲン?」
「安売り」
「ほう」
「そしてキャベツ一玉六十八円」
その瞬間。
彩羽の目がキラキラした。
ヒマリは嫌な予感しかしなかった。
◇◇◇
「よし、行くよ」
「どこに」
「バーゲン」
「え?」
「バーゲン」
「いや聞こえてる」
「出発!」
彩羽は勢いよく立ち上がった。
ヒマリは連行された。
◇◇◇
スーパーに着く。
しかし異変があった。
人。
人。
人。
人。
人。
「多くない?」
「バーゲンだからね」
「みんなキャベツ狙い?」
「多分」
「怖っ」
ヒマリは少し後退した。
向日葵の星の王宮でもここまで人は集まらない。
◇◇◇
店内アナウンスが流れる。
『まもなくタイムセールを開始いたします!』
その瞬間だった。
周囲の空気が変わる。
客が売り場を見つめる。
カートを構える。
買い物カゴを握り締める。
「戦争じゃん」
ヒマリが呟いた。
彩羽は真顔だった。
「戦争だよ」
「認めるんだ」
◇◇◇
そして。
『キャベツ特売開始です!』
その声と共に人々が動いた。
彩羽も動いた。
「キャベツぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「また叫んだ!!」
猛ダッシュで売り場へ向かう。
驚異的な速さだった。
運動部も驚くレベルだった。
◇◇◇
数分後。
「勝った……」
彩羽は満足気だった。
カゴの中にはキャベツ五玉。
ヒマリは驚愕した。
「何人家族?」
「二人」
「多くない?」
「普通だよ」
「普通じゃない」
「キャベツは別腹」
「そういう言葉だったっけ」
◇◇◇
レジへ向かう途中。
ヒマリはある物を見つけた。
向日葵の種。
おつまみコーナーに並んでいる。
「あっ」
立ち止まる。
「どうしたの?」
「お金売ってる」
「違う」
「売ってる」
「食べ物」
「お金」
「食べ物」
「お金」
「食べ物」
結局いつもの平行線だった。
◇◇◇
その時。
ヒマリは閃いた。
「つまりさ」
「なに」
「これ買って向日葵の星持って帰ったら資産家じゃない?」
彩羽は固まった。
「確かに」
「でしょ!?」
「密輸みたいだからやめなさい」
「あっ」
正論だった。
◇◇◇
会計を終えた帰り道。
彩羽はニコニコだった。
キャベツを抱えているからである。
ヒマリは不思議そうに聞いた。
「そんな嬉しい?」
「嬉しい」
「向日葵の種貰った時のヒマリくらい?」
「それ以上」
「そんなに!?」
ヒマリは驚いた。
そして少し考える。
「もしかして彩羽もキャベツの姫だったりする?」
彩羽は数秒黙った。
「それいいかも」
「否定しないんだ……」
こうしてこの日。
ヒマリは確信した。
地球には変な人がいる。
しかもその変な人と同居している。
今さらながら少し不安になったのだった。




