キャベツ畑
ヒマリが地球へ逃げてきてから一週間。
彩羽はある場所へ向かっていた。
もちろんヒマリも一緒である。
「彩羽〜どこ行くの〜?」
「着いたら分かる」
「遠い〜」
「歩いて十分で何言ってるのよ」
「ヒマリ、姫だから」
「それ便利な言葉じゃないからね」
そんなやり取りをしながら歩くこと数分。
彩羽が足を止めた。
「着いた!」
「え?」
ヒマリが顔を上げる。
目の前に広がっていたのは。
「畑?」
「キャベツ畑!」
彩羽は満面の笑みだった。
ヒマリは察した。
今日は長くなる。
◇◇◇
「見てよヒマリ!」
「うん」
「この葉脈!」
「うん」
「この緑色!」
「うん」
「この丸み!」
「うん」
「芸術だよね!」
「知らない」
彩羽は感動していた。
対してヒマリは若干引いていた。
一週間一緒に暮らして分かったことがある。
この人はキャベツになると怖い。
◇◇◇
そんな時。
近くで作業をしていた農家のおじさんが二人に気付いた。
「キャベツ好きなのかい?」
「大好きです!」
食い気味だった。
ヒマリですら少し驚く速度だった。
「へぇ〜嬉しいねぇ」
「いつもありがとうございます!」
「いやいや」
「本当にありがとうございます!」
「そんな感謝されるとは思わなかったなぁ」
農家のおじさんは苦笑いしていた。
ヒマリは思う。
多分、この人も困っている。
◇◇◇
すると、おじさんが収穫前のキャベツを見せてくれた。
彩羽は目を輝かせる。
「近くで見てもいいんですか?!」
「いいよいいよ」
「やったぁ!」
まるでテーマパークへ来た子供である。
ヒマリは畑を見渡した。
見渡す限りキャベツ。
どこを向いてもキャベツ。
キャベツ。
キャベツ。
キャベツ。
「向日葵の星みたい」
「え?」
「向こうは向日葵だらけだから」
「あー確かに」
彩羽は納得した。
「じゃあ向日葵の星にもこういう畑あるの?」
「あるよ」
「へぇ〜」
「向日葵の種の畑」
「お金畑じゃん」
「うん」
彩羽は少し考える。
そして言った。
「それ泥棒天国じゃない?」
「天国じゃないよ」
「違うそうじゃない」
◇◇◇
しばらく歩いていると、ヒマリはある事に気付いた。
「そういえばさ」
「ん?」
「キャベツって売るんだよね」
「そうだよ」
「つまりお金になるんだ」
「そうだね」
ヒマリは腕を組んだ。
数秒考える。
そして。
「じゃあキャベツはお金じゃん」
「違う」
即答だった。
「なんで」
「通貨じゃないから」
「向日葵の種もお金になるよ」
「通貨だからね」
「キャベツもお金になるよ」
「商品だからね」
「違い分かんない」
「私も説明してて分からなくなってきた」
二人とも黙った。
難しい話だった。
◇◇◇
帰ろうとした時だった。
「おーい」
農家のおじさんが呼び止める。
そして小ぶりなキャベツを渡してきた。
「よかったら持って帰りな」
彩羽の目が輝いた。
「えっ?!いいんですか?!」
「いいよ」
「ありがとうございます!!」
その声は今日一番大きかった。
大切そうにキャベツを抱える彩羽。
ヒマリは思う。
キャベツ一玉でここまで喜べる人、初めて見た。
◇◇◇
帰り道。
彩羽はずっとキャベツを見ていた。
「可愛いなぁ」
「キャベツに可愛いとかある?」
「ある」
「無いと思う」
「ある」
「強い」
その時。
彩羽が急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「見て」
指差した先。
スーパーだった。
そして張り紙には大きく書かれていた。
『本日キャベツ特売!』
彩羽の目が見開かれる。
ヒマリは嫌な予感がした。
凄くした。
「彩羽?」
「ヒマリ」
「なに?」
「先帰ってて」
「なんで?」
「戦いが始まる」
「何の?」
「キャベツの」
「帰ろうよ」
「無理」
次の瞬間。
彩羽は走り出した。
「キャベツぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「だからなんで叫ぶのぉぉぉぉぉ!?」
休日の住宅街に、またしても叫び声が響き渡ったのだった。
すみません!遅くなりました!




