向日葵の種が使えない!?
翌朝。
「じゃあ行ってくるね」
制服姿の彩羽は玄関で振り返る。
「留守番よろしく」
「はーい」
「勝手に外出ないでね」
「多分」
「その返事が一番怖いんだけど」
「大丈夫大丈夫」
「全然大丈夫じゃなさそう」
彩羽は嫌な予感を覚えつつも家を出た。
◇◇◇
「暇〜」
そして十分後。
「暇〜」
さらに十分後。
「暇ぁぁぁぁぁ」
ソファに寝転がりながらバタバタ暴れるヒマリ。
「姫の仕事してた方がマシだったかも」
そう呟いた直後、
「いや、それは無いな」
即座に撤回した。
そんな時だった。
グゥゥゥゥ。
お腹が鳴る。
「お腹空いた」
冷蔵庫を開けてみる。
キャベツ。
キャベツ。
キャベツ。
キャベツ。
「キャベツしかないんだけど」
彩羽の食生活に若干の不安を抱いたヒマリは財布を取り出した。
といっても財布ではない。
向日葵の種が大量に入った布袋だった。
「買いに行こう」
そして普通に外へ出た。
◇◇◇
しばらく歩くとコンビニを発見。
「おぉ〜」
目を輝かせながら中へ入る。
お菓子コーナーへ向かい、適当にお菓子を三つ持つ。
ジュースも持つ。
アイスも持つ。
「完璧」
そのままレジへ向かった。
「462円になります」
店員が言う。
ヒマリは得意げに布袋を置いた。
ジャラッ。
向日葵の種がレジ台に広がる。
店員が固まった。
ヒマリは言う。
「462粒ね!」
「はい?」
「だから462粒!」
「はい?」
同じ会話が繰り返された。
◇◇◇
一方その頃。
学校の昼休み。
彩羽は購買でキャベツパンを探していた。
するとスマホが鳴る。
知らない番号だった。
「はい?」
『あの、○○コンビニの者なんですが……』
「はい」
『お知り合いと思われる外国人の女の子が……』
彩羽の顔から血の気が引いた。
『向日葵の種で支払いをしようとしておりまして……』
「ヒマリだぁぁぁぁぁぁ!!!」
購買にいた生徒達が驚いて振り返った。
◇◇◇
放課後。
彩羽はコンビニへ猛ダッシュしていた。
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
店に入るなり頭を下げる。
レジの横ではヒマリが普通に座っていた。
「あ、彩羽」
「あ、じゃないのよ!」
「この人達、お金なのに受け取ってくれない」
「当たり前でしょ!」
彩羽は頭を抱えた。
ヒマリは不満そうだった。
「だってお金だよ?」
「向日葵の星ではね!」
「価値あるよ?」
「それは分かるけど!」
「一粒一円くらいだし」
「分かりやすいけど!」
話を聞いていた店員が恐る恐る尋ねる。
「この子のお金なんですか……?」
「違います」
「お金だよ」
「違います」
「お金」
「違います」
「お金」
「違います」
店員は途中で考えるのをやめた。
◇◇◇
結局、彩羽が代金を支払った。
店を出た後もヒマリは納得していなかった。
「なんで使えないのかな」
「地球だから」
「差別?」
「違う」
「向日葵差別?」
「そんな概念は無い」
「じゃあ何で」
彩羽は少し考えた後、言った。
「例えばさ。突然誰かがキャベツ持ってきて『これお金です』って言ったらどう思う?」
ヒマリは即答した。
「ヤバい人」
「その感覚」
「あー」
少しだけ理解したらしい。
「つまりヒマリはヤバい人になってたんだ」
「そうだよ」
「ショック……」
そう言いながら購入したお菓子を開けるヒマリ。
その表情は全くショックを受けているようには見えなかった。
そして数秒後。
「彩羽」
「なに」
「お金ちょうだい」
「嫌です」
「ケチ」
「当たり前でしょ」
向日葵の姫の地球生活は、どうやら前途多難らしかった。




