向日葵星の通貨
「ただいま〜!」
上機嫌で帰宅した彩羽は、買い物袋を持ち上げた。
「見てよヒマリ!キャベツ三玉に加えて半玉もサービスしてもらったの!今日は最高の日!」
「へぇ〜」
ソファの上で寝転がっていたヒマリは、いかにも興味なさそうに返事をする。
「反応薄くない?」
「だってヒマリ、キャベツに詳しくないし」
「人生の九割損してる」
「そんなに?」
彩羽は買い物袋からキャベツを取り出しながら、ふとスーパーで考えていた事を思い出した。
「そういえばさ」
「ん?」
「向日葵の星のお金って何なの?」
ヒマリは即答した。
「向日葵の種」
「は?」
「向日葵の種」
「いや聞こえなかった訳じゃないのよ」
彩羽は思わず手を止める。
「え、あの向日葵の種?」
「そうだけど」
「黒いやつ?」
「うん」
「殻あるやつ?」
「うん」
「お金なの?」
「お金だよ」
ヒマリは当然という顔だった。
彩羽は数秒間黙り込む。
理解しようとした。
無理だった。
「なんで種なのよ」
「なんで円なのよ」
「それ言われたら終わりなんだけど」
確かに日本だって紙や金属をお金として扱っている。
そう考えると他人の文化に口出しするのも違う気がしてきた。
だが。
「一粒いくらくらい?」
「一粒一円くらいかな」
「意外とレート近いな」
「スーパーでお菓子買うなら二十粒くらい」
「粒って言い方やめて」
「なんで?」
「なんか鳥の餌を数えてるみたいだから」
ヒマリは首を傾げる。
「鳥の餌?」
「向日葵の種って鳥も食べるんだよ」
「へぇ」
特に驚いている様子はない。
彩羽はキャベツを冷蔵庫へしまいながら続けた。
「まぁ人も食べるけどね」
「へぇ〜」
数秒後。
ヒマリの動きが止まった。
「……え?」
「ん?」
「今なんて?」
「人も食べる」
「何を?」
「向日葵の種」
沈黙。
数秒の沈黙。
さらに数秒の沈黙。
次の瞬間。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
マンション中に響きそうな大声だった。
彩羽が耳を塞ぐ。
「うるさっ」
「お金食べるの!?」
「違う違う」
「お金でしょ!?」
「地球ではお金じゃないから!」
「だからって食べる!?」
「食べるよ!?」
「怖っ!!」
どちらが常識人なのか分からなくなっていた。
ヒマリは青ざめながら言う。
「彩羽……もしかして借金ある?」
「ないけど」
「生活苦しい?」
「まぁ、たぶん苦しくないけど」
「じゃあなんでお金食べるの?」
「だからお金じゃないんだって!」
ヒマリは頭を抱えた。
「地球やば……」
「向日葵の種を通貨にしてる星に言われたくない」
そう言い返すと、ヒマリは黙った。
反論できなかった。
彩羽は少しニヤリと笑う。
そして冷蔵庫の奥から、小袋に入ったミックスナッツを取り出した。
「ほら」
「何それ」
「食べる?」
「いいけど」
ヒマリは一粒摘まみ、口へ放り込む。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
「美味しい」
「でしょ」
「これ何?」
「向日葵の種」
「ブフォッ!?」
盛大に吹いた。
「な、な、な、何でぇ!?」
「だから食べるんだって」
「お金じゃん!!」
「違うってば!!」
「彩羽がお金食べさせたぁぁぁ!!」
「人聞き悪いわ!!」
ヒマリは涙目で叫ぶ。
「ヒマリのお小遣いぃぃぃ!!」
「知らないわよ!!」
その後三十分ほど、彩羽は必死に地球では向日葵の種が食べ物であることを説明した。
だが最後までヒマリは納得しなかった。
「でもお金じゃん」
「違う」
「お金だよ」
「違う」
「絶対お金」
「違うったら違う」
結局平行線のまま夕食の時間となる。
キャベツ炒めを前にした彩羽が言った。
「いただきます」
ヒマリは皿を見つめながら呟く。
「キャベツがお金じゃなくて本当に良かった……」
「そこは安心するんだ」
もし向日葵の星でキャベツが通貨だったら……。
彩羽は間違いなく破産していただろう。
そう考えると、地球で生まれて良かったのかもしれない。




