29/63
幕間 売り物の話
針と、糸と、塩。わしの店は、この背中ひとつだ。
同じ筋を、四十年。膝は、下り坂で笑うようになった。村がひとつ減ると、次の村まで半日遠くなる。荷は同じ重さで、飯だけが減る。
井戸の涸れた村を見た。人だけ減っていった村を見た。魔物に潰された村も見た。川上の村は、糸の一番の買い手やった。婆さんが一人、わしの糸で繕いもんをしとった。今は、道だけがある。
銭の切れた同業も、見た。道の脇で、筵の一枚もかけてもらえんと。銭のない者に手ぇ貸すもんは、この道にはおらん。
次の村が遠うなるぶんだけ、あの道の脇が、わしに近うなる。
今度の村は、畑の隅が焼けとった。けが人なし。畑火だろうと、村の衆は笑っとった。竈からも道からも遠い隅や、と思うたが、やめた。考えたところで、銭にはならん。
怖がらせる行商人から、物を買う者はおらん。わしの口は、わしの飯で縫うてある。売り物の話だけして、村を出た。
……この村があってくれ。
針は、この次で、ええから。
――街道筋の、ある行商人




