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幕間 倉の夜
三匹だと聞いた
次の日には、十になってた
市で会った粉屋は、三十と言った
隣の村だって話だった
いや、川向こうの村だと
聞くたびに、村の名前が違う
見たって奴には、まだ会ってねえ
戸板に爪の痕があったとか
藁が食い荒らされてたとか
そんな話ばかりが、街道を下ってくる
十が三十になるのが噂ってもんだ
そんなこたあ、分かってる
だがな
東の奥にでかいのが出たって話も
最初はみんな、猟師の与太だと笑ってた
牙がギルドに持ち込まれるまでは
魔物だと言う奴もいる
獣だろうと魔物だろうと
倉が空になりゃ、同じことだ
……うちは昔、一度やられてる
親父の代だ
あの冬、木の皮を煮た鍋の匂いは
いまでも忘れちゃいねえ
弟が二人いた
下のほうは、春の麦を見てねえ
倉には、冬がまるごと入ってる
あの冬を知らねえ、子どもらのぶんの冬が
だから夜は、倉の前に座ってる
親父の鉈を研いで、膝に置いて
犬が黙った方角を、ずっと見てる
頼むから
ただの噂で、終わってくれ
――街道沿いの、ある農夫




