『シヴァ/破壊と再生の神 ➁』
オレは早速、既に独立したカイに頼んでみた。メッセじゃ推し量れないヒヨの日常を見て来てくれと。
てっきり「金よこせ」だの「神の力でアレやってくれ」だの交渉されるかと思ったんだが、たった一言「いいぜ」だけだったのは意外。
カイは元々「俺は神じゃないし逢いに行ってもいいだろ」って言ってたのを、オレが遠慮させてたのにな。アイツも大人になったってコトか?
……ぜってー違うな、自分ソックリに育ったから分かる。
ただまあ、ヒヨに迷惑かけなきゃいいか……なんて若干テキトーに考えてしまう。なんせもう限界だったんで。
数時間後、カイから早々にメッセージが届き、そこに添付されていたのは──。
(ヒヨ………! オレの好み通りに育ち過ぎだろ……!)
前よりも目つきが鋭く、纏っている雰囲気に余裕が出ている。そのクセ、子供に向けている笑顔は女神のように慈愛に溢れていた。
【もっとくれ】
【これ以上撮られるのはヤダって照れてるからムリ】
【撮りおろしだったのか、最高。今ヒヨ何してるんだ?】
【これから半日、俺とデート】
……ほらな!? こういう息子だよ。っつーか、オレもそういうヤツだったよ。
カイは顔出ししない配信者として世界的な人気を博しており、すっかり成金みてーになっていた。見た目はあんまり変わってないが、オレに似てビジネスセンスにも長けてるモンで、すっかり女に困らない男に育っている。
あ、ちなみにオレは結構前から事業再生を得意としてるコンサルなんだけど、メッセージでヒヨに伝えたら「そういう冗談を言うのは珍しいですね」とクールな反応が返って来るだけで。
【非行に走ってしまった男子は、やっぱり女をナメてしまうんですかね】
【タトゥーを入れすぎる子がいて、自傷行為みたいだから心配で】
【悪い先輩に引きずられそうだから止めたいんですけど】
こういうアウトローな道に行きそうな子供の相談ばかり送って来られる。あんまりにも手を付けられない場合はたまにオレが会ってみたり。
真面目に話を聞いてアドバイスしてるだけだっていうのに、
【やっぱりシヴァさんみたいな、彼らと似たタイプの年上から言われる方が素直になるみたいです。本当にありがとうございました】
という礼をされる。
やっぱりアイツ、勘違いしてるよな……。
仕事の時はタトゥー隠してるんだぜ?
オレ、元々ストイックな神だし。
まあそれはいいとして。
カイのヤツ、本気で口説こうとしてるんじゃないかコレ。そりゃ確かに最初はヒヨを親戚の子みたいに可愛がってたが、息子の嫁になったら笑えねーぞ?
その後どれだけ待ってもカイから連絡は無く。瞑想できるメンタルでも無かったんで、ひたすら家でボーッとしていた。明日は火曜日だな、なんて思いつつ。
どんだけ時間が経った頃か、朝日を浴びていると玄関のカギを回される音がして「やっと来たか!」と息子に文句を言うべく足早に向かう。するとそこに立っていたのは。
「シヴァさん……! ただいま、です」
「っ………! ああ、おかえり」
────ヒヨだ。何年ぶりかの。
写真よりずっと綺麗だったんで、言葉に詰まった。一緒に過ごせなかった間に何があったのか、どれだけ成長したのか。この姿だけで察せられる程に美しいモンだから。
この瞬間だけでもう一度惚れ直した。
「お久しぶりです。上がってもいいですか?」
「お前の家だぜ、遠慮するな」
以前オレが渡したカギは一度も使われてなかった。それが今ようやく……思わず感動してしまう。
リビングへ案内すると、目をキラキラさせて「変わってない」と喜んでて。
ソファで並んでしばらく見つめ合えば、少しだけ恥ずかしそうに、待ちに待った言葉を告げられる。「キスして欲しい」と。
リクエストにお応えして、その頬に軽く触れる。予想通り「えっ?」という顔をされて面白いが、あえて平静を装って微笑んでおく。
「……もうちょっと、真面目なやつをお願いします」
それを受けて唇に一瞬だけ乗せてみると、あからさまな「ハァ!?」という表情が愉快すぎて。
「…………………ひどい、です」
「ん~? なんでだ? なに不満そうな顔してんだ~?」
しまった、もうニヤニヤしちまった。
でもなー、散々焦らされたからな。これくらい意地悪するのは許されるだろ? そういう考えが透けて見えたらしく、ヒヨは俯いて何か考えている。
──……そして顔を上げたと思ったら。
ゾクッとする程、艶のある瞳と声で言った。
「ねえ、私を壊しちゃうくらいのキス……出来ないの?」
その先はあんま細かく覚えてないくらい激しくしてしまった。ヒヨも途中までは喜んでたハズなんだが、なぜかいきなり暴れ出して。でも煽られた通り、構わず熱烈に続けて。
時間をかけて楽しんだ後「むしろこれからだよな」とグッタリしたヒヨの体を運ぼうとすれば。
「オイ、これ以上は十八禁だ」
……後ろに立ってたカイに注意をされた。
だからさ、お前は百歳超えてんだよ。って、あー。ヒヨが暴れてた理由ってコレか。
家に入って来てたの気づかなかったわ、オレともあろう者が。
◆◆◆◆
三人で久しぶりの食卓を囲むと、カイにまあ恩着せがましく言われるわ。
「親父のコト、そろそろ捨てるなり見放すなり、トドメ刺すなりしてくれって頼んでやったんだぜ?」
「そうか。捨てるのしか勧めてねーな?」
「ふふ。近日中に行こうとはしてたんですよ。そうそう、昨日カイくんが夜通しかけて配信のコツを教えてくれたの、みんなすごく喜んでた。また来てね」
ヒヨはどんな風に過ごしていたか、母親がいかに頼もしくなったか、色々なコトを話してくれて。食べ終わった後に凛々しくこう言った。
「お待たせしてしまいましたが、プロポーズに来たんです。普通は二人きりでする事かもしれないけど……やっぱり家族になるからカイくんにも同席してもらいたくって。私が家に入った三十分後に来てってお願いしてたんです。ダメでしたか?」
なんつーか、ヒヨらしい。ずっと幸せな家庭に飢えてたもんな。オレは「勿論いいぜ」と答える。
「私が欲しいと願った暖かな家庭を、あなたは惜しみなく分け与えてくれました。出逢っていなければ、夫婦や親子という関係を信じられないままだったかもしれない。でも、そのお礼でこの場にいるんじゃありません」
「…………ああ」
「シヴァさんを愛してる。今度は私があなたにすべてを注ぐから……今もイカれたワガママ女って言われるけど、そんな濁った私を受け止めて?」
愛を語りながらも、まるで挑むような瞳。
本当に大した女だと思う、このオレをここまで負かせちまうんだから。
「ああ、オレも愛してるよ。どんな無茶でも言えばいい」
その後は指輪を嵌めてもらって、もう抱きしめて。
「弟でも妹でも、俺はいつでも大歓迎だぜ!」
と言うカイに、いいから三日はウチに来るなと厳命して。
逢わなかった日々を埋めるように濃密な時間を過ごした。
それにしてもオレは度量の大きい男なんかじゃねーな。
人間の最大の幸せは転生の輪廻から外れる解脱だと分かってるのに。ドロドロに甘やかして、快楽に染めて、わざと業を積ませて──死んだ後も生まれ変わらせようとしてる。
お前が繰り返す人生が、たとえ再び苦しみに満ちていたとしても。
オレが必ず見つ出して慰めるから、耐えて欲しいなんて。
最悪な神かもしれねーけど……何度でも死ぬまで尽くすよ。
オレはもう、永遠にお前の物だから。




