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『シヴァ/破壊と再生の神 ①』

 今でも初めてヒヨに逢った時をハッキリ覚えてる。うわー、これ絶対オレのコト苦手なタイプの女の子だろって。

酔っ払いに困ってる姿は弱々しいし、派手な見た目のオレを見た瞬間、顔に「この(ひと)職質(しょくしつ)されてそう」って書いてあったし。


まあ正直、人類が滅びるっていうならソレもいいんじゃね? 仕切り直そうぜっていうのが普段のオレなんだがね。なんせ肩書、《破壊と再生》だし。モロそういうのだし。


ただ今はカイがいるからそりゃ困るなっていうので“人類救済計画”に参加した。っつーコトで、競うのは真面目にやらないとダメだなって思ってたんだが。


(どーしたもんかな~…、怖がらせるのは可哀想だしなー)


《全神の聖域》でオロオロしてる子を見つめながら考える。アポロンから薬を差し出されても「断りづらい」って(うつむ)いてるし。

──ただ、ココで意外な反応を見せられた。


オレが助け船を出してグラスを仰いで渡したら、ほんの一瞬だが鋭い敵意が肌に刺さった。


(……へえ、見た目ほど弱い女じゃないかもな?)


その後は「結婚しない」と言い張って倒れちまったけど。


そんな感じでやって来た初の火曜日。


若い女を子連れで口説くって、よく考えたらハードル高すぎないか?

オレのハンデ、キツくないか?

最強の《破壊神》だから仕方ないのか?


って思いながら、(なか)ばヤケクソで真夜中に訪ねる。んで、予想通り迷惑がられる。


ただ、人見知りするカイが「また会ってみたい」と家に帰った後で言ったのは心底意外で。珍しいコトもあるもんだな、って思ってた。

今にして思えば、母親に似てる何かを察してたのかもな。


その後、朝に再訪。

オレが息子への想いと亡くした女の話をしたら──ヒヨは泣きそうな顔になった。


あー、育った家庭に問題があるんだなと察する。これでも神なんでね。

そんな子に結婚を強制するなんて、主神どもは何考えてんだと呆れつつ。朝メシに喜んでくれたんで会う時は旨いモンでも食わせて元気づけるかと考えた。

ヒヨが食べてる姿は小動物っぽくて癒されるし、餌付(えづ)けするのは正直かなりスキなんで。


そういや《特権》使えばカイにも会わせてやれるな、一石二鳥ってヤツだろ。自宅の方が色々作りやすいし、世話しやすい。

……この頃は女というより、近所の子の面倒を見る感覚に近かったかもしれねえな。


翌週に迎えた家庭教師の日、初回は「出来レースだ」ってマジギレ一歩手前までされて驚く。

そういえば一週目から強制送還もされたし、初日にチラ見えした激しさって気のせいじゃなかったらしい。

正直そういう女の方がずっと好みなんで、怒られながらもテンションが上がる。……変態じゃないぜ?


そして二週目、ウチにやって来た時。ここでようやくオレも本気になりだした。


(──こんなに優しくカイの面倒みてくれるんだな)


ハナから言ってる通り、別に母親代わりを探してるつもりは全くない。そこに魅力を感じたワケじゃなく……。


自分は満たされなかったであろう家庭の愛情を、同じく寂しがっているカイに懸命に注ごうとする姿に胸を打たれた。アイツの食べてる口をたどたどしくも(ぬぐ)ってやる姿は必死さすら漂ってて──イイ女だなって思った。


別に子守に慣れてる感じでもないし、大して子供好きって感じでもない。普通。

ゲームで負けてる時なんて、本気で悔しがってる気配がガンガンに漏れ出てて面白かったし。


なのにベッドのそばでせっせと子守唄まで歌って。本人は全く自覚が無さそうだったが──あの優しく、甘く、切ない歌声。まるで有らん限りの愛情を与えようとする、そんな響き。


耳元であんな風に囁かれたら、大概の男は参っちまうんじゃねーの?

オレは別の部屋で聴いてるだけでアッサリ陥落したぜ? 首筋まで痺れたレベル。

つーか父子(おやこ)共々だった。

カイは大きくなった今でもあの歌声が恋しいらしく。


親父(オヤジ)、なんで録音しなかったんだよ」


二十歳(はたち)の女子大生の声をコソコソ盗み()りしろって?」


「キッショいな。あー、またいつか歌ってくれねーかなあ」


「オレの女になったらベッドで頼んでみるわ。聴かせねーけど」


「四千才オーバーのクセに子守唄ねだるのか? キッツイな」


「お前もう帰れよ」


ホント可愛くねー息子はさておき。

後はあれだな、ヒヨに夢中になったのは追い打ちもあった。


カイを寝かしつけてもらった礼を言おうとしたら、なぜか真っ青な顔してて。ソファで眠ったかと思うと譫言(うわごと)のように謝り続けるわ、泣き続けるわ。


(……魔性の女か? コレで守ってやらねーとって思わない男いるのか?)


◆◆◆◆


「こんな感じで、第一形態のヒヨにも惚れてたワケ」


「……なぜ(わたくし)にこのような惚気話(のろけばなし)を?」


目の前の天照(あまてらす)は珍しく困惑している。なんでも何も。


「ヒヨを知ってて語れるヤツ、他にいないんだよ……! あの六人だと下手したら戦争だろ! 度量の大きさに定評があるオレだけど、何年もメッセだけで声すら聴けねーのはマジでキツい……」


「そなた、思ったより情けないな……。《瞑想》の守護神でもあり、修行者であろう? 日和は女を磨いておるのだ、()して待て」


女神は呆れ返った顔で言う。

情けなくなってんのはお前の可愛い弟も同じだろって突っ込めば。


「まあな。だが、日和が夜歩きしてる時だけ、月読は自分の(やしろ)から多少(のぞ)けることがあるらしくての」


「なっ!? ……アイツ、卑怯なマネしてんのな!? 《夜の宮》だっけか、オレもヒヨ見たいから連れてってくれ」


主神様だろ、という意味を込めて頼んでみれば。


「そのような事をすれば、あれがどれだけ暴れるか。かつてそなたが空を裂いたように、()(もと)神世(かみよ)を破壊されては(かな)わぬ。はよう帰れ」


なんとも冷たく追い出されてしまった。

空ブッ壊したのはマズかったけどな。ギリギリ中立地帯から離れたトコだったし、もう再生させたし、そろそろ許してくれよ。

ロキが「ひよりんの裸見た☆」とか馬鹿なウソ言うから、つい……。


それにしても月読め。それがホームの利点ってヤツか。

……だったらオレも多少のズルはさせてもらうぜ? こっちにはなんせ、ヒヨに執着してる半神がいるんだからな?


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