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第67話『火曜日/シヴァ ⑤-1』

 体温をすぐ(そば)に感じるのに、月読(つくよみ)は私に指一本触れなかった。私も同じく。……お互いその方が良いと分かっていたのかもしれない。

目が()えてまるで眠れず、そろそろ火曜日になる頃、彼に声をかける。


「ねえ、時間を過ぎたらどうなるの? ロキの時は天照(あまてらす)様から、ちょっとしたペナルティを受けてたけど」


「…………アイツ、時間守らなかったの? そういうところが、ほんと嫌い」


「それ、ブーメランってやつになるから。あの時はわざとじゃなかったみたい」


「…………そっか。まあロキだしね。それなら大した罰じゃないと思う。おれは、ねえさ──あの人に、甘くされないかも」


姉弟(きょうだい)だからだろうか。

それとも──ロキが例外?

いずれにせよ「甘くされない」という言葉に不安を感じて、私は起き上がる。


「心配かけてごめん。大丈夫だからもう帰っていいよ」


「やだ」


「お願いした通り、来週は0時に来てほしいの。その後も父親が帰ったら話したいって思うかもしれないし。だからね、ペナルティで制限かかるのは嫌だな」


そう言えば、彼も渋々といった雰囲気で身を起こした。


日和(ひより)、今日のことは、あんまり難しく考えないで」


「うん。出来るだけ楽しい事して過ごしとく」


笑いながら言えば、月読は心配そうに私を見つめた後、窓を開けて消えて行く。

スマホが遠くで光っている気がしたけれど、明日はバイトも無いから目覚ましも要らない。

そのまま回収せず、お風呂に入ってから私はどうにか浅い眠りについた。


◆◆◆◆


 火曜日の朝八時。

マダム達の嬉しそうな笑い声が聞こえて来たので、窓が少し開いていた事に気づく。

のっそりと起き上がり身支度を整えると、予想通りインターフォンが鳴った。


「おはようございます、シヴァさん」


「……おは、よう。ヒヨ、目が怖えー」


確かに今朝の顔は酷かった。睡眠不足のせいかギラギラと血走った目つきで。

そんな不細工な顔の言い訳もせず、彼を中に通してクーラーで涼んでもらう。


スクランブルエッグとトースト、冷凍していたミネストローネという簡単な朝食にしてしまい、前回もてなしてもらった内容との釣り合いの無さに申し訳なく思う。


「なあ、どうした? やっぱりトラブル──」


「いいえ! 今日はですね、バイトがないんです。頭を空っぽに出来るくらいエンジョイサマーしたいんです!」


「……エンジョイ? なんだって? オイ、大丈夫なのかホントに。どうかしてないか?」


元気一杯に言ったはずが、余計に不審がらせたらしい。露骨に疑わし気な目で見つめられる。


「至って健康です。ねえ、シヴァさんって遊んでる人でしょう? 楽しいアイディア出して下さいよ」


「いつも気になるんだけどよ。お前はさ、オレのことを何だと思ってんだ?」


シヴァさんは私に呆れた顔をしたけれど、考え始めた。ガツガツと朝食を食べている私に「花火、海」と提案してくれたものの、どちらも既に行った事を伝えると「誰とだよ」とムッとされる。


「あとはそうだな──。キャンプだと日帰りはダルいか。……プールとか?」


「水着は無い……いえ、ありました」


なんてタイムリーな。

さすがマリ、私の女神様。

でもまだ試着をしていないのでサイズが合っているか確認したいと、シヴァさんに経緯を説明してから脱衣所に入る。


(まあ、マリとそんなに体格変わらないし、ワンピースだし。大丈夫だろうけど)


よく考えたらスクール水着以外って着た事ないはず。そんな悲しい事実を思い出すのは、どこに脚をいれるべきなのか一瞬悩んだから。


あれ? ワンピースだよね?

って、これは………!?


中々出てこない私を不思議に思ったらしい彼から、声をかけられる。


「ヒヨ~? 着られたか? どうだった?」


「着られましたが、駄目でした」


「? んじゃ買いに行くか?」


「いえ、私が水着の適正を持ってないんだと思います」


そう、マリが私に意地悪するわけがない。

悪意がないのは分かってるから、捨てる事も出来ない。

使わずに買い替えるなんて不義理な事も。


シヴァさんは「適正? ……お前、やっぱ今日おかしいぞ」と心配している。

恥ずかしいと思う私がおかしいんだろうか。

よく分からなくなって、おずおずと自分から扉を開ける。

すると、こちらを見て絶句するシヴァさん。やっぱりコレって……。


「!? ─────エロすぎ、だろ」


ほらね!?

慌ててタオルを巻いて壁際に落ちたままのスマホを拾い、マリにメッセージを送る。

うん、さすが恋する乙女は返信が早い。


【マリおはよ。あのさ、もらった水着、ワンピじゃなかったの?】


【おはよ! あれ? ビキニじゃないでしょ? ごめん、気に入らなかった?】


【そんなことない。ありがとう、ずっと大事にするね】


……ああ、私のマリ。優しいマリ。

友人の人格がコロコロ変わっても付き合ってくれる、あなたの大らかな所が大好き。

けれどこの世にはビキニかワンピしか存在しないって訳じゃないと思う。

振り返るとシヴァさんは、金色の瞳を輝かせながらも真剣そうな顔で言った。


「それモノキニってヤツじゃねーの? カイがイイよなって、画像見せて来た」


「そうなん、ですね。水着は買った事ないから……知らなかった」


「布面積、ビキニの倍はありそーなのにな。サイドがそこまで大胆にカットされてると、なんつーか」


「それ以上言わないでっ! プールは、行きません!!!」


鏡を見た時の衝撃。

確かに正面はビキニと違ってお腹が隠れてるけど……腰がぱっくりと開いていて、あまりにも心(もと)なくて。


とはいえ昨夜(ゆうべ)の出来事が意識から吹っ飛んでくれたのは有難かった。持つべきものは、友人という事だろう。あ、ありがとうマリ。

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