第一章 36話 「夜影強襲 4」
『各員に通達。極夜がこちらに現れた。狙いは白夜であると推測される。即座に合流せよ』
晶の声が脳内に響く。冷静で、正確に状況を判断した指示。しかし、その裏にある焦りは隠しきれず、にじみ出ている。
大体、どういうことだよ。さっき迅嵐が細切れにしたはずの極夜が、なんで晶たちの方に現れたんだ?
どうやらその疑問は僕だけのものではないようで、紅煉も紫花も、さらには迅嵐すらも困惑した顔で目を見合わせている。
それでも、流石は覇者と言ったところか。時間の浪費は何よりも命取りであると知っている三人は、疑問の答えを得ることよりも現地へ向かうことへと意識を切り替えた。
僕も、負けてはいられない。皆に続いて下降し、神殿内部へと転がり込む。紅煉はすでに到着しており、その燃える瞳で僕を睨みつける。
そして、そこには確かに、先ほど倒したはずの極夜の姿があった。
「フン、どういった原理かは知らんが、思念の伝達ができるのカ。本当に面倒な奴ラだな」
その口から、かつてないほどに流暢な言語が飛び出す。今まで遭遇した極夜は、どこか喋り方に違和感のあるものばかり。それを不完全な証と捉えるならば、今目の前にいるこいつは、ほぼ完全。強さもおそらく上だろう。
それは、やつの体から迸る圧倒的な殺気からも容易く予想できた。
……状況は最悪だ。この限られた空間の中では迅嵐の真骨頂、【展開】と【圧縮】は使えない。味方をも切り刻む、諸刃の剣。圧倒的な破壊力は長所であると同時に、短所でもあるのだから。
無論、紅煉の炎も駄目だ。全員死んで終わり。紫花の権能についてはあまり知らないが、彼女いわく速度特化で攻撃性に欠けるらしい。さらに、晶は基本防御型……
そうだ。僕しかいない。変幻自在、攻防を兼ね備えた僕の権能でしか、この敵は倒せない。
極夜が目を細め、空気がじり、と音を立てた。来る。
「【羅舞渦】!」
とっさに放った斬撃の渦は、黒い一太刀と激突し、相殺される。即座に複数の技を起動し、追撃を回避する。
……これも使うべきか。
詳細を理解してから怖くなり、使うことを避けていた技を重ねて起動する。
「我が身は水にして、我を阻む者無し。【天海月】」
同時に不可避の斬撃が3つ、僕の体を切り裂いていく。だが、問題ない。
【天海月】。それは、体を実体の水に変えるという技。そもそも概念生命体である僕は、水という概念で出来た存在。その概念を実体に置き換え、攻撃をほぼ無効にしているわけだ。
これを発動している間はあらゆる攻撃が効きにくくなるが、同時に少し意識を緩めると自分の体がどこまでなのかわからなくなってただの水になってしまう、らしい。
こんな技を考えた鬼畜をぶん殴ってやりたい気分だが、そんな考えを抱く余裕もない。
追撃に続く追撃。息をつく暇もなく浴びせられる攻撃を突っ切って、極夜と刃を交える。
「どうも。二回目ですね?」
焦りを誤魔化すようにして、精一杯の嘲笑を浮かべる。
「虚勢を張るカ。見苦しいぞ、『蒼』ヨ」
駄目だ、極夜の方が煽り性能が高い。それに……
『黎に援護を。儂は障壁を張る』
『俺は援護射撃しかねェな』
『あいつなんて知らん。俺が一人でやればよかった話だ』
『ちょっとグレちゃん? そんなこと言ってないで手伝いなさいよ』
テレパシーでやり取りできるのは、他の皆だけ。僕は受信しかできないから、具体的な指示も出せない。くそ、一方通行の会話がここで響いてくるのか。
体表に晶の障壁が張られる。しかし、今の僕は流体化して攻撃を無効にしている状態。欲しいのは防御壁じゃない。後方から風刃が飛来する。しかし、これだけ高速で動き回っているのだ。当然僕にも当たる。害があるかと言われれば別にないが、意識を奪われる上にせっかくの障壁もかき消される。
まずい。全く連携が取れていない。僕一人で相手取るにも限界があるというのに。
「何故その白竜を護ル? それは貴様らに害なす存在であろうガ」
相変わらず訳のわからないことをぬかしやがる。僕たち覇者の目的が断雷様の奪還である以上、片割れである白夜の確保は最優先事項。欲を言えば極夜も回収したいが、話も通じなさそうだし無理だろう。
「渡セ。それで終わりダ」
その言葉に、強い反感を覚えた。理性で抑え込む暇もなく、言葉はすでに口から飛び出している。
「嫌だね。僕は人に強要されるのが、何より嫌いなんだよ!」
「……フン、力量の差もわきまえぬ馬鹿カ。」
「馬鹿だってなんだってやってやるさ。最後に勝つのはいつだって主人公だからな!」
熾烈を極める攻撃に、反応速度がついていけなくなりつつある。それでも、この口は止めない。自分の存在をこれでもかと主張し続ける。
主人公はいつだって、そういうものじゃないか。




