第一章 34話 「夜影強襲 2」
神殿の外には、ものすごい数の残影がひしめいていた。この世界に来てから(目覚めてから)というものの、自分が竜になっていたりと情報量が多かったが、これはそれ以上だ。
見渡す限り、全てが影に埋め尽くされている。そして、その中心で黒い剣を担ぎ、こちらを見据える黒い人影。間違いなく、断雷様の黒い片割れ。それの人の姿。ものすごい威圧感だ。周りの残影が霞んで見えるほどに。
あと、やっぱり白夜に瓜二つだ。白夜の白いところを全部黒塗りにして、細い目を開かせたら多分見分けがつかないんじゃないか。
当の白夜はというと、僕たちの後ろで額に汗を浮かべ、相変わらずの糸目で影たちを見つめていた。
断雷様は人の姿になれない、という話だったはずだけど、そこは今は重要ではない。いま一番に考えるべきは、この無数の残影の軍団をどうやって追い払うか。それだけだ。
『敵の正確な数は不明。しかし、こちらの戦力は蒼、紅、橙、翠、紫の5人。有象無象の残影ごとき、敵ではない。今はただ、あの黒い片割れを抑えることに尽力せよ。』
脳内に突然、橙の覇者、晶の声が響く。さすがは竜といったところか。テレパシー会話を当たり前のように取り入れてくる。
『でもよ、抑えるって言ったって無理だろ。あの片割れ、蒼の人形と紅煉が二人がかりでも勝てなかったらしいじゃねえか。」
人形って、僕のことか。たしかに、昔の僕は機械みたいに冷たい感じだったな。それにしたってひどい言われようだな...
テレパシーの使い方がわからないので、会話に参加できない。そんな僕を置き去りに、会話はどんどん進んでいく。
『俺も同感だ。それに、残影が脅威でないはずがない。老害、あんた、ついにボケが来たのか?わかっててやってるんだとしたら、俺はあんたに従わない。』
険悪な空気が漂い始める中、再び晶が口を(テレパシーなので物理的には開いていないが)開く。
『謝罪しよう。紅煉、お前の権能はお前が怒りを感じるほどに強力になる。儂も好きでやっているわけではないのだ。』
あっ、一人称「儂」なんだ。何気に初めて見たぞ。
僕が一人で感心していると、空気の温度が上がり始めた。慌てて隣を見れば、再び紅煉の体から炎が溢れ始めている。
「いい加減にしてください。あなたはこの子を壊すつもりなんですか?」
今度はテレパシーを使わず、紫花が怒りをあらわにして晶に詰め寄る。紫花は紅煉のことが好きだからな。怒って当然だ。
「紫花、お前はいつから使命よりも感情を優先するようになったのだ?優先順位というものが頭から欠落しているようだな。」
晶はあくまでも冷静に言葉を発した。それだけで周囲の空気が重くなる。賭け事好きというとんでもない欠点はあっても、覇者のリーダー。威厳は有り余るほどにある。
「この老害、正論ばっかりいいやがって。賭け狂いのくせして、そういうところがムカつくんだよなァ。言い返せねえからよォ。」
どうやら翠の戦闘狂さんも同じ考えらしい。戦闘狂と同じ考えなんて、僕自身も戦闘狂みたいじゃないか。なんか嫌だな。僕はどちらかと言えば冷静なキャラで通したいのに。
「うるさい。無駄話を止めろ。苛つくせいで炎が制御不能になる。」
口喧嘩のを沈めたのは、以外にも紅煉だった。気づけば炎は先程の数倍にまで広がり、紅煉の体には無数の罅が入っている。
「俺はもう行くぞ。」
その言葉を最後に、紅煉は爆発音を立てて残影の軍団へと突っ込んでいった。あっという間にその一角が炎とともに崩落し、地面が再び顔を出す。
「まずは雑魚狩りか!でも、面白みがねえよなァ!俺は大将を叩くぜ!」
その言葉と同時に、迅嵐の刺青が光る。
「防御は頼むぜ、晶サン。【裂傷ノ旋風】」
その手に、疾風を纏う刀が現れる。記憶の中でも見たけど、多分僕が今まで見た武器の中で一番見た目がいい。
迅嵐も一瞬で姿を消し、その直後に大量の残影が細切れになって宙を舞う。戦力的にはこの2人で残影を殲滅できそうだ。やっぱり竜の力って強すぎるな。インフレしきったゲームみたいな感じがする。
「全く、若い奴らは何故年長者の助言を聞かないのか。【朽チルコトナキ障壁】」
いや、リーダーがギャンブラーなら不信にもなるでしょうよ。
そんな思いを込めて晶を睨んでいる間に、体を薄い結晶の膜が覆う。これも、記憶で見た。攻撃を吸収、分散し、その威力をほぼ無効化する万能防御。シンプルなだけに、一番強いかもしれない。
これで攻撃に紅煉と迅嵐、防御に晶と、体制が整ったわけで、僕と紫花の出番が無さそうなところが唯一の懸念点かもしれない。
「レイちゃん、行くよ。」
紫花の声で、現実に引き戻される。違った。出番がないはずがない。まだ、あそこには断雷様の黒い片割れがいる。
「次は、負けない。【断海の剣】、並行発動、【流雲渡】、【渦逆護】。」
【流雲渡】で空中でも変わらない機動力を、【渦逆護】でさらに強力な防御を得る。この時間が、ゲームでバフをかけるときみたいで結構楽しい。
僕がバフ盛り盛りで攻撃の準備をしている間に、紫花は紫電を残し、残像とともに一瞬で黒い断雷様に迫っていた。一瞬遅れて、火花の散る音が耳に届く。
雷系の能力者として、申し分ないかっこよさだ。僕も負けてはいられない。【流雲渡】で空中を走り、黒い断雷様の脳天めがけて斬撃を放つ。澄んだ音とともに影はそれを弾き、同時に左手で突撃した紫花の香節を受け止めた。
「己を止めてみせろ。さもなくば、この刃で天龍の首を切り落とす。」
初めて明確な目的が、その口から語られた。
いいじゃないか。王を倒すため、一人で乗り込んでくるボス。主人公みたいで嫌いじゃない。だから、僕も精一杯の笑みを浮かべ、返した。
「あなたがどれほど強くても関係ない。この世界の主人公は、僕だ。」
僕の宣戦布告に対し、片割れは、静かに嗤った。
断雷(影)、再登場しました。少しずつその目的と、異常さが明らかになっていきます。




