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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 26話 「紫電に咲く花」

久しぶりの投稿となりました。

物語はあまり進んでいませんが、もうすぐ一つの山場が訪れます。

 受け止められた拳を、紅煉が強引に振り払う。


紫花(シーカ)...邪魔だ。手を離せ。」


 赤い瞳に込められた怒りは強く、あたりの気温がじわじわと上昇し始める。まずい。またあの地獄みたいな炎が出てくる。正直言って、あの炎を消すのは相当骨が折れる。前は技がうまく決まって楽しかったから、勢いでなんとかなったけど。

 しかし、僕の心配はどうやら杞憂に終わったようだった。

 紫花はにこやかに微笑み、片目を瞑った。


「ようやくレイちゃんの顔を見れたと思ったら、すぐ喧嘩するんだから。全く変わってないじゃない。」


 口元に指を当て、笑う紫花。なんというか、その...


「美人だ。」

「黙れ。」


 ご機嫌斜めの紅煉に後頭部を強打される。


「ひどいぞ、紅煉!痛いじゃないか!」

「うるせえ。お前のその顔が気に食わねえんだよ。」


 再び喧嘩に発展しかけるところを、紫花に割り込まれる。


「はいはい、二人とも。子供みたいに喧嘩しないの。」


 てっきり紅煉がブチギレると思っていたが、意外にも彼はすんなり引き下がった。


「はい、グレちゃんいい子。レイちゃんも。」


 美人に頭を撫でられて、悪い気はしない。しかし、その聖母のような微笑みの中になにか背筋も凍るようなものを感じ、慌てて飛び退く。


「やめておけ。紫花は天性の母性を持っているが、その信条は『喧嘩両成敗』だ。喧嘩をしたら、喧嘩ができなくなる程度に痛い目に遭わされる。」


 僕の見間違いだと思いたいが、紅煉の目にもほんの少しだけ恐怖が滲んでいるように見えた。空気が音を立てて張り詰める。比喩ではなく、実際にパチパチという何かが爆ぜるような音がしている。

 紫色の火花が明滅する。そして、その中心にいるのが...


「待て、紫花!落ち着け!」


 普段強気な紅煉が、目に見えて怯えている。その異様な光景に、僕も数歩後ずさる。


「喧嘩両成敗♪」


 聖母の笑みで詰め寄ってくる紫花。紫電の火花が肌に触れ、鋭い痛みが走る。

 そういえば、僕の体って水分子で構成されているんだっけ。電気は天敵じゃないか?とすると、ここで僕が取れる最善の選択肢は......


「すみませんでした!」


 速攻で土下座する。敵意がないということと、謝意を見せれば矛を収めてくれると信じたい。そんな僕に紫花は、優しく語りかけた。


「駄目♪」


 空気が乾いた音を立てる。

 やばい。これは終わった。彼女の細い手が頭に触れた瞬間、激しい痛みを最後に僕の意識は途絶えた。





 あれ、何だ?僕は気を失ったはずでは?

 暗い、何もない空間。いや、空間と言っていいものかもわからない。目を閉じて宙を見つめているかのような、暗いだけではない暗闇。そこで、ただ言葉だけが奇妙な響きを伴って頭に侵入してくる。


【黒が白を蝕む(喰らう)わけではない。白が黒を呑むのだ】


 まただ。目覚める前と同じ、謎の予言。主人公だからって、色々とイベントが盛り沢山すぎないか?この世界に、文句の一つでも言ってやりたい。


【黒が白を...】


 もういい。目を覚まして、かっこよく覚醒といこう。

 僕の意識は、次第に覚醒へ向かって上昇していった。





 目を開けると、そこは先程と同じく天龍様の城の中だった。ただ一つ、決定的に違ったのは、僕の顔を覗き込んでいる、整った顔立ちの女性がいることだった。


「あら、起きたのね。」

「!!!!」


 紫花の微笑みに、全身に鳥肌が立つ。


「ごめんごめん、怖がらせちゃったね。」


 またしても、彼女の手が僕の頭を撫でる。相変わらず、捕食者にロックオンされているかのような緊張は抜けないが、なんとか笑みを浮かべてみる。


「あの、紅煉はどこですか?」

「ああ、グレちゃん?レイちゃんよりも早く目を覚ましたから、どこか行っちゃったわよ?」

「ありがとう、ございます...」


 恐る恐るお礼を言い、その場を立ち去ろうとしたところを、後ろから抱きつかれる。顔が熱い。でも、こんなところを紅煉に見られたらまた怒られるよな。


「まあまあ、久しぶりに会えたんだし。少しくらいお話していかない?」

「...はい。」


 拒否権は、あってないようなものだった。




 ◇

 黎の目覚めより少し前に、小さな動きがあった。

 紅煉が目を開けると、どこまでも続く高い天井が見えた。そして、視界の端に映る紫色の髪と、白髪。


「起きた?」

「ああ。お前のせいで寝る羽目になったんだけどな。」

「まあまあ、そこは君にも非があったわけだし。」


 紅煉が否定できずに黙り込むと、紫花は屈託のない笑みを浮かべた。


「久しぶりに会っても、全然変わらないね。」

「...ああ。そうだな。」


 珍しく、彼の口元にも笑みが浮かんだ。普段の刺々しい印象が嘘のように晴れ、優しげな視線が一瞬だけ顔を見せる。


「あれぇ、そんな表情もできるんですねえ。」


 ようやく穏やかな空気が流れ始めた空間を、白夜はその笑顔で破壊した。途端に紅煉の目に鋭い光が戻る。


「お前は、黙れ。その気色の悪い笑みで誤魔化すな。」


 紅煉の、恨みとも感じられるほどの怒りの込められた言葉に、白髪の少年は、細い目をさらに細めた。


「そんなにボクのことが嫌いなら、連れてこなければよかったじゃないですか。」


 白夜はなおも嘯く。周囲の気温がじわじわと上昇を始める。紅煉の怒りが限界に近づき、その体がひび割れ、炎がちろちろとその舌を覗かせる。


「宣戦布告は、そちらがしてきた。俺はそれに応じただけ。燃え尽き、灰となれ。今ここで!」


 紅煉が炎を吹き出しながら一歩前へと踏み出す。白夜も口元にかすかな笑みを浮かべ、虚空に手をかざした。しかし、


「駄目。あなたが暴れると、被害は甚大になる。」


 紫花が一瞬で間に割り込み、紅煉の頬に手を当てる。そして、そのまま躊躇いなくその唇を紅煉の唇と重ねた。

 紅煉は目を見開き、静止した。炎もやがて小さくなり、消えていった。しかし、以外にもその険しい表情に変わりはなく、頬が赤くなることもなかった。

紫花は少しだけ頬を赤らめて、優しく、しかしきっぱりと告げた。


「あなたの力は、あなた自身にも制御できない。それは他の覇者たちだってそう。それを止めるのが、私の役目だもの。」

「お前に、何がわかる...」

「わからないかもしれないけど、私は見てきた。あなたがどれだけ怒り、どれだけ努力を重ねてきたのか。あなたのそばで、ずっと見守ってきた。」


 紫花のその言葉に、紅煉はしばらく拳を握りしめてたたずんでいたが、やがて踵を返して外へと走り去った。その後を、白夜もゆっくりとした足取りで追いかける。

 一人取り残された紫花は、寂しそうに、しかし気丈な笑みを浮かべて呟いた。


「私にできるのは、これくらいしかない。後は...」


 近くで眠り続ける黎に目をやり、彼女はそのそばにそっと座り込んだ。


この子()がどれだけ変わってしまったのか、かな。」


 黎のまぶたが、ぴくりと動いた。

紫花は、9体の覇者の中で唯一の女性です。

権能は電気を操ることであり、戦闘における正面突破力はそこまで高くありませんが、その分優れた技術を持ちます。今回黎、紅煉を気絶させたのもその一種で、相手の懐に潜り込んで一撃を喰らわせることが彼女の主な戦闘スタイルです。

また、大半が過酷な過去を持つ覇者たちですが、彼女のお陰でメンタルを保っています。

そのため、覇者の面々は彼女に頭が上がらないのです。

また、紫花は紅煉に対して特別な感情を抱いていますが、誰にもそれは告げずにいます。それには、紅煉の過去が関係しています。

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