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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 22話 「デート大作戦!(実行編)」

「ね、ね、スコッピ!」

「何でしょうか、ご主人様!」

「どの服がいいと思う?」

「...ご主人様は何を着ても可愛いです!」


 愛美がたくさんの服を持って右往左往する横で、蠍の使い魔は尻尾を振り回して力説した。実際、彼にとって主人はこの世の何よりも可憐で、美しい。


「しかし、なぜそのような?今日は学校もないはずですが。」

「えっ...いわないとだめ?」


 愛美が顔を真っ赤にして、とろんとした目で使い魔を見つめる。


「いえっ!決して!あなたが嫌なら言わなくてもっ!」


 その顔の破壊力には勝てず、使い魔は降参の証として体を地面にはりつけた。


「...ううん、やっぱり教えてあげる。スコッピはわたしの弟みたいなものだもの。それに、アドバイスがあったら教えて欲しい...」

「勿論です!」

「それじゃあ...言うね?...コホン、その、わたしっ...」

「ゴクリ。」

「雷くんとデートすることになっちゃったの!」

「...なるほど。」


 蠍の尾が、力なく垂れ下がる。


(またあいつか。)


「しかもね、雷くんから誘ってきたの!ね、ね、これって、そういうことかな?」

「そういうこと以外にどんなことがあるんですか?」

「いや、もしかしたらからかわれてるのかもしれないもん。」

「真雲様は、そんなことをする方なのですか?」


 愛美は、恥ずかしそうに首を横に振った。


(ご主人様は、あいつの話をするときが一番楽しそうだ。)


 と、そこへ足音が割り込んできた。


「愛美、ずいぶんと楽しそうですね。」

「おじさん!そうなの!わたしね、初めてデートするの。」


 金髪で、整った顔立ちをした眼鏡の青年が部屋に入ってきた。使い魔は、思わず殺気で全身が強張るのをさけられなかった。


「ねえ、おじさんはどの服がいいと思う?」

「そうだね。愛美はその相手にどんなふうに想われたいんだい?」

「えっと、『可愛い』、かな。」

「君は背が低くて、男子にとってみればそれだけで可愛く見える。それに、顔も可愛い。だから、主張は控えめでもいいんじゃないかな。それよりも髪型を変えてみるといい。」


 飛びついてきた愛美を受け止め、髪に優しく触れながら青年は語った。


「そっか!おじさん、ありがとう!」


 愛美は明るく返事をすると、服を抱えて部屋を飛び出していった。


「どういった風の吹き回しだ?何故ご主人様とあいつを近づけようとする?」


 マルコシアスは青年に明確な敵意を向けた。


「フン、ご主人様の前では何も知らぬ使い魔気取り、ですか。ずいぶんと楽しそうですね。」


 途端に青年は目つきを変えた。その瞳に、じわじわと特徴的な紋様が浮かび上がる。


「理由など、決まっています。愛美のより可憐な姿を見たいからに決まっているでしょう。あなたは何も干渉する必要はない。」


 蠍は何も言い返せず、黙り込んだ。




 ◇

 雷はわくわくしながら駅前に立っていた。未だに信じられないが、愛美をデートに誘うことに成功したのだ。何を着て来たらいいか全くわからず、悩みに悩んだ末に結局いつも着ているような服になってしまった。


(これで愛美がめっちゃおしゃれしてきたらどうしよう。)


 そんな悩みに翻弄されていると、後ろから声がした。


「お、お待たせ...。」


 振り向いた瞬間、雷は愛美に目を奪われた。

 そこまで主張のない、どちらかといえば地味な服なのだが、愛美が着るとそれだけでとてつもないおしゃれをしているように見える。しかし、要点はそこではない。いつもは結ぶことなく伸ばしているその黒髪が、今日は左側にまとめられている。恥ずかしそうにその結んだ髪をいじる動作と、髪から漂ういい匂いに鼓動が速まる。


「待たせちゃった、かな?」


 愛美が上目でこちらを伺ってくる。


「いや、全然!僕もさっき来たところだよ!」


 実際は張り切りすぎて30分前にはついていたのだが、そのことは伏せておく。


「じゃあ、行こっか。」


 愛美に手を引かれ、呆然としていた雷は慌てて歩き出した。

 しばらく二人は何も言わずに歩いていたが、おもむろに愛美が雷の腕に抱きついてきた。


「愛美!?何してるの?」

「え、だってデートする人たちって、大体こんな感じじゃん。」

「それ、大体付き合ってる人たちがやってるんだと思うんだけど...」

「えっ...」


 愛美は顔を真っ赤にしてますます強く抱きついてきた。


「でも、怖い人たちから声かけられなくなると思うから、ずっとこうしとく。」

「怖い人たち?」

「うん。わたしが一人で外歩いてると、大体怖い人たちに『俺たちと遊ぼうぜ。』みたいなこと言われて、怖い目に遭うの。」

「愛美が可愛すぎるんだ、きっと。」


 平静を装って会話を続けるが、雷の心臓はもう限界だった。

 程なく二人はショッピングモールについた。


「来たのはいいけど、なにするの?」

「君の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。」


 それを聞いて、愛美は驚いたように目を見開いた。


「えっ?わたしの誕生日、知ってるの?」

「うん、知ってる。浅野さんから教えてもらった。」


 手をつないだまま、二階の小物売り場へと向かう。すれ違う人たちがみんな愛美に釘付けになっている。一方、雷に向けられる視線は羨望や嫉妬ばかり。


(予想はしてたけど、あんまりいい気持ちじゃないな、これ。)


 どことなく居心地の悪さを感じていたが、そんなくらい気持ちも愛美の笑顔を見れば吹き飛んでしまう。


「何か欲しいものとかある?」

「ううん、わたし、今こうしてられるだけで十分だよ?」


(期待しちゃうじゃないか、そんなこと言われたら。)


 ほのかな期待を抱きながら、売り場を巡る。


「店員さんに聞いてみよう。」

「ん、そうだね。」


 愛美は近くの売り場に入ると、店員に話しかけた。


「すみません、何かわたしに似合うもの、ありませんか?」


(愛美が言うと嫌みに聞こえないんだよなあ。不思議だ。)


 店員はしばらく迷っていたが、やがてこう言った。


「そうですね。お客様はおそらく何でもお似合いになると思いますが、このあたりの髪飾りはいかがでしょう。」


 そう言って店員が紹介してくれたのは、黄道十二星座をかたどった髪飾りだった。


「雷くん、どれがいいかな?」


 愛美がきらきらした目で話しかけてくる。


「愛美の誕生日は7月16日でしょ?そのままだけど蟹とか、いいんじゃないかな。」

「へぇ~。雷くん、詳しいね!」

「星座を見ながら神話想像するのが好きだったんだ。だから、そっち系の知識は人よりあると思うよ。」

「そっかぁ。じゃあ、カニさんにする!」


 買い物は意外にあっさり終わった。

 店を出た後、雷は外にあったベンチに座り、手に持った包みを愛美に渡した。


「愛美、ちょっと早いけど、誕生日おめでとう。」

「ありがと!雷くんは誕生日、いつ?」

「9月11日だよ。」

「じゃあ、わたしもプレゼントあげるから、楽しみにしてて!」


 愛美は突然雷に抱きついた。


「今、すっごく嬉しい気持ち。...ねえ、髪飾り、つけてくれない?」

「...いいよ。」


 愛美の黒髪に、あかがね色の髪飾りはよく映えた。


「似合ってる。」

「ふふ、ありがと!」


 彼女の心のそこからの笑顔に、雷は心が温かく満たされていくのを感じた。


「家まで送ってくよ。」


 ごく自然に、そう言ってしまった。



 愛美の家の前についた。広い広い庭を横切り、扉の前につく。


「ただいま~!」


 元気な声を上げ、愛美が家に入っていく。


「雷くん、お茶してく?」


 愛美が首をかしげて聞いてくる。それにうなずき、彼女の家に一歩を踏み込もうとしたそのときだった。


「君ですか。愛美と仲良くしてくれている、お友達というのは。」


 家の奥から、金髪の青年が歩み出てきた。整った顔には温和な、人のよさげな笑みを貼り付けている。


「おじさん!ただいま!」


 愛美が青年に駆け寄っていく。それを手で制して、「おじさん」はゆっくりと雷の方へ歩み寄ってきた。


(この人、前に愛美が話してた「真門おじさん」か。)


 距離が、五歩ほどの間になる。


(愛美の親戚、なんだよな?金髪。日本人なのか?本当に?)


 二人の間の距離は、あと三歩ほど。


(でも、言葉になまりはないな。不自然なくらいにきれいな発音だ。)


 二人の間の距離は、一歩分まで縮まった。


「あの...?」


 青年は笑みを浮かべ、手を伸ばした。


(何をする気だ...?)


 思わず体を硬くする。無意識のうちにいつでもファルシオンを呼べるよう、唇を湿らせていた。

 ぽん、と肩に手が置かれた。


「これからも、愛美をよろしくお願いしますね。」

「は、はい。」


(あれ?)


「すみません。僕、どうやら疲れてしまったみたいで。今日はおいとまさせてもらいます。」

「そうですか、残念ですね。愛美、真雲君にお別れしなさい。」

「は~い。雷くん、またね。」


 愛美に手を振り、雷は家路についた。




 ◇

 マモンは、再び富の山の中にいた。


「今日一日、貴様は何をしていた?ご主人様が出かけた後、すぐに出かけていったな?」


 蠍の悪魔が、耳障りな声を上げる。


(不快だ。)


 蠍を、怒りのままに蹴り飛ばす。蠍になぎ倒された金貨の山がざらざらと崩れ落ちる。


「何をしていた、だと?愛しい彼女を、見ていたに決まっているだろう!ああ、美しかったぞ!成長して、より美しくなった!ずっと見ていたかったですが、そうはいかない。ですので、記録を残しておきました!これで今日の思い出は、一生私の物です!」


 そう言い、彼が手を上げると、何枚もの写真が宙を舞った。一枚一枚に、愛美の笑顔が収められている。


「ご主人様っ!...クソッ、マモン!貴様ァァァァ!」


 蠍、マルコシアスはその姿を幼い少年に転じ、マモンに殴りかかった。その一撃を、マモンは退屈そうな眼差しで受け止めた。


「侯爵の分際で、魔王である私に立ち向かおうと?身の程をわきまえろ、この汚らわしい『堕とし子(ルストン)』が。それとも、今ここで死ぬか?」


 マルコシアスは決死の表情でマモンを睨みつけていたが、転がるようにして部屋を飛び出していった。

 誰もいなくなった部屋で、マモンは一人、演劇でも演じるかのように叫んだ。


「あなたが目覚める日も近い...いつまでも、愛しています!アスモデウス!」

マモンキモい!

そう感じていただけるととても嬉しいです。

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