64話 様子を見よう
なぜか埠頭が壊れちゃったけど、破壊犯は決闘で負けた男の人の責任となっていた。決闘での損害は負けた人がもつルールらしい。怖いルールだよね。
レーナ王女が教えてくれて、この埠頭の片付けは負けた男の人にお任せかなと思ってたら、まだその判断は早かった。
「待て、イカサマだ! あれ程の力は神器しかあり得ないっ! 貴様、その腰に差している剣が怪しいぞ!」
『浮遊』
海から飛び出してきて、空中に浮遊しながら決闘したおじさんが怒鳴ってきた。おぉ、元気そうだ。魔法使いという人だね。僕らアウターの民には見抜けない強力なマナを内包しているに違いない。
「神器は使っていないけど、そういうなら預けておくよ」
二代目鉄の棒をシュリへと放り投げる。ナイスキャッチとシュリが受け取り、再度僕はおじさんと対峙する。
どうやら決闘が終わったと思ったのは早合点だったらしい。僕としたことが迂闊だった。
「ふ、先程は油断したが、この私はオリュンポスの神々に選ばれし戦士。我が多彩なる魔法の奥義を見せてやろう」
胸を張って戦士だと宣う魔法使いのおじさん。2つの職業を使いこなせると言う意味かな?
「ゆくぞっ!」
『魔法盾』
『筋力向上』
『倍速』
『魔力向上』
『幻想分身』
驚いたことに、おじさんは次々に魔法を唱えていく。
「無詠唱です、ヨグ様! しかもあれだけの魔法を連続で使えるなんて、この国でも5本の指に入るはず。気をつけてください!」
レーナ王女がおじさんを見て、険しい顔になり忠告してくれる。なるほど、無詠唱での魔法は凄いんだね。
「フハハハ、それを知ってももう遅い。『初見殺し』のスプラトゥと呼ばれる我の力をとくと見るが良い!」
『炎属性付与』
『雷属性付与』
『風属性付与』
『聖属性付与』
『闇属性付与』
ピカピカと、色を変えて光るおじさん。その姿に感心しつつ、ルフさんが分けてくれたポップコーンを食べる。サイダーもくれないかなぁ。
「やべえぜ、スプラトゥの奴、また他国の奴をカモろうとしているぞ」
「毎度引っかかるやつがいるんだよな」
「あいつはこの国でも、ナンバースリーの魔法使いだから、相手が可哀想だぜ」
周囲の人々の話し声でだいたい理解しました。
「ふはっ! 最後の晩餐かな? 諦めたその姿は哀れなり。せめて一撃で終わらせてやろう!」
ちぇいと、手刀を構えておじさんは突撃してきた。
「たぁっ」
ていやと、蹴りを繰り出してみる。
「ぐへらっ」
そして、おじさんはさっきと全く同じように吹き飛ばされて海に落ちていった。いや今度は海面を切って、パシャンパシャンと跳ねながら、停泊している船にめり込むという芸達者ぶり。
「………勝者はヨグ様ですね!」
「いや、もしかしたら天丼なのかも! 油断できないと思う」
僕知ってるんだ。同じことを繰り返して笑いを取ることを天丼っていうんだよ。きっとおじさんは天丼を狙っていたに違いない。
油断なく海を厳しい目で睨むと、船が沈没していき、おじさんが仰向けにぷかりと浮かんできた。ピューと口から水を吹き出して、さらなる笑いをとる芸人魂のおじさんでした。
◇
どうやら、お笑い芸人のおじさんは結構慕われている人だったらしい。弟子の人たちが群衆から慌てて飛び出してきて回収していった。というか、群衆の3割が弟子だったようで、一気に囲んでいる人たちは減った。
「なるほど……他国の者に洗礼を………って、こんなことをして国として成り立つんですか? 自分ならこの国には寄り付きませんよ?」
「お、おかしいです。ここまであからさまな決闘はなかったはずです」
ルフさんが半眼になってレーナ王女へと尋ねる。でも、レーナ王女も戸惑っているから、普通ではないみたい。
ふふふ、普通ではないのは当然だよ。きっと新しい方法に変えたんだと思う。
「大丈夫だよ。きっとこの国なりの歓迎の仕方じゃないかな? お笑い芸人では決闘には勝てないし、きっとお客を笑わせてリラックスさせるためのコントだったんだ!」
「たしかにそうね、ヨグの言うとおりだわっ!」
「さすがはヨグ閣下、その慧眼に憧れます」
名推理な探偵ヨグの言葉に、シュリは感心してくれて、ペレさんが拍手をしてくれるので、少し照れちゃう。
「あたちもコントしましゅ! 屋台を賭けて決闘でしゅよ! あたちはでんどろねむを賭けましゅ!」
ホウホウとフクロウねむちゃんがおててを翼のようにフリフリ振って、イカ焼きを売っている屋台へとぽてぽてと歩いていく。
「はいはい、閣下。幼女の教育に悪いので、そこらへんでボケは終わりにしましょう」
が、ルフさんがねむちゃんを抱き上げて、幼女のコントの旅は未然にふせがれるのでした。
そうして暫く経過───。そろそろ積荷を売りたいんだけど、お役人や商人がちっともコンタクトをとりに来ない。なんか不自然で困っていた。
積み荷の一箱を売って、皆に振る舞う宴会も売れなければどうしようもない。どうしよう。
「おかしいわね。あたしの笑顔を見せても、誰も来ないわ」
「ええっ。あれは笑顔だったんですか? ブルドッグが警戒の唸り声をあげているようにしか見えませんでした」
「警戒しているブルドッグをからかうと、酷い目にあんじゃないかしら?」
すぐにツッコミを入れる恐れを知らない勇者はシュリの噛みつきを受けていた。その光景を優しく見守っていると、周囲の人々がざわめき集団が二つに割れる。どうやら状況に変化があった模様。
よく磨かれた銀色の鎧を着込む集団がぞろぞろと僕らへ向かって歩いてきた。その先頭はトーガを着込み、サンダルを履いた簡素だけど偉いっぽいおじいさんだ。
大粒の宝石のついた指輪を全ての指に嵌めており、ネックレスは何重にも首にかけている。意次さんのようなおじいさんだ。
「これはなんの騒ぎだ? まったく騒がしい」
演技をする意次さんのように、僕たちを蔑みの視線で睨めつけるように見てくる。ちょっと気持ち悪い。
「私はガルドン王国のレーナ・オル・ガルドン第一王女です。こちらはルルイエ王国の王太子であるヨグ・トルス・ルルイエ王子。貴方は何者なのでしょうか?」
レーナ王女が一歩前に出てきて、おじいさんへと問いかける。その瞳は少し厳しいけど、慣れているので感心しちゃう。僕の王族の名前をよく覚えていたよね。僕は忘れてたのに。
「それはそれは。遠く離れたガルドン王国の王女様だとは思わず失礼。外交大臣をしておりますかデーバイと申します。まさか中央で数年前までは覇を唱えていたガルドン王国の王女が訪れるとは。困惑しております」
慇懃無礼という名前が似合うおじいさん。ニマニマとその顔は余裕綽々で嫌らしい笑みだ。
レーナ王女への不躾な視線に、オルケさんがムッとするが黙っている。
そしてデーバイさんは、僕たちへと視線を向けて、にちゃあと嗤う。
「ルルイエ王国という国は多少耳に聞いたことがありますな。どこぞの小国の王子だとか? たまたま航路を見つけて貿易をし始めた国でしょう」
────バレてる! なんでルルイエ王国が小国だって知ってるんだろ? これは極めてまずい展開だよ!
「僕たちの国を小国と言うんですか、デーバイ大臣」
目を細めて眼光を鋭くする。少しだけ身構えて、警戒心を露わにする。
「おっと、お怒りでしたか? それは失礼。西の覇者であるサンクリシャー帝国に比べると、どのような国も小国になるのでね」
むむむ、小国だとバレているわけではなさそうだ。僕たちの情報が伝わっていないっぽい?
「それは随分と自信のあるお言葉ですな。どのような根拠があって、そちらが大国だと仰るのですかな?」
多少怒った風を装い、ゼノンさんが口を挟む。まぁ、うちの国が小さいのは本当だしね。
でも、サンクリシャー帝国の根拠には興味がある。なんだろう、武力、財力、文化?
ワクワクしながら答えを待つと、デーバイさんは咳払いをして、どっしりとした貫禄のある笑みを見せる。
「神です! 我が国の皇帝は神に愛されているのですよ」
まさかの神様だった。えーーー。なんかがっかりだよ。
「我らが皇帝、オリュンポス一世は世界一の武を、神の力をもっているのですよ。いずれ近いうちに、西の覇者から世界の覇者となるでしょう!」
まさかの信者さんだった。盲目的に神を信じている危険なタイプだ。ギラギラとした目には僕たちが目に入っていないようだし。
「オリュンポス一世? この国の皇帝の名前はサンクリシャー殿では?」
レーナ王女が慌てて問いただすが、皇帝って決闘で決まるんじゃないの?
「あれは例えです。本当に決闘を申し込んだら、その者は必ず行方不明になります」
「政治の世界は難しいなぁ。たしかに政治家がぽんぽんと変わったら国は成り立たないもんね」
「政治家が足を引っ張る国はありますから、一概に言えませんけど」
こっそりとレーナ王女と話す。やっぱり決闘で全てが決まるという話じゃなかったんだ。ルフさんが遠い目をするけど、政治家が足を引っ張るだけの国なんてあるわけがない。からかってるな。
「くくく、ついに決闘で決まる真の国となったのです。新たなる皇帝は暗殺者や買収などをされても意にも介さず、決闘で前皇帝と戦い勝利したのですよ! 僅か一ヶ月前の話です」
「だから、僕たちが到着した時にいきなり決闘を申し込む人がいたんだね。納得」
おかしいと思ったんだよ。やっぱり裏があったか。
「くくくくく、奴は我が国で最弱の5本の指に入る者。あいつを倒したところで良い気にならないでもらおう!」
「お笑い芸人として5本の指に入るの?」
お笑い芸人としての線も捨てていない僕です。
「あんなに腕の立つお笑い芸人がいるとでも? ヨグ王子は冗談のセンスがないようだ」
「それは同意です。時折寒い冗談を閣下は口にするんですよね」
そこで同意されると恥ずかしいんだけどルフさん?
「何れは世界全てが決闘で決まる世界となります。その前哨戦と思ってください。さぁ、これからは決闘で勝たないと話は聞きませんぞ!」
「わかりまちた! あたちはでんどろねむを賭けましゅ!」
────そして、フハハと哄笑するデーバイ大臣は、一文なしになった。
ねむちゃんは借金がなくなったよと喜んでダンスを踊っていたよ。




