63話 新たなる地に行こう
無補給で魔導船は西の果てまで移動できた。『サンクリシャー帝国』は西の果てに位置する大国らしい。
魔導艦隊がザザザと海を蹴散らして波間を作り、爽快な風に煽られて進む。潮風は独特な匂いがして海にいると感じさせる。
艦隊の横をイルカさんたちが群れで並行して泳いでおり、キュイキュイと可愛らしい。3メートルくらいの大きさのイルカさんたちである。
「楽しいでりゅ!」
「キュイキュイ」
よーこちゃんがイルカさんの背中に乗って、林檎みたいに頬を紅膨させて、両手を振りながらキャッキャとはしゃいでいる。
イルカさんとはここに来る前に仲良くなったのだ。船へとじゃれてきたので、可愛らしいなぁと撫でたら懐いてきた。そして群れごとついてきているのだ。
角が生えており、ちょうど掴めるので乗るのにも苦労はしていない。
「楽しいでしゅ!」
「モキュモキュ」
ねむちゃんもイルカさんに乗って、同じようにはしゃいでいる。ちょっと茶色い毛皮のイルカさんが鼻をヒクヒクさせて、楽しそうに泳いでいるけど、たぶんイルカさんだ。
「はやいりゅ!」
「気持ち良いでしゅね!」
ザザザと泳ぐイルカさんたち。途中の魔物たちは餌なんだろう、出てきたらすぐに噛みつき、突き刺し、魔法を使って倒していたので僕たちはやることがない平穏な航海をしていた。
甲板でそろそろつくかなぁと、海を見ながら欠伸をする。暇だからやることがないのだ。
「ヨグ様たちは一角獣たちも懐かせてしまうのですね」
暇だなぁと、のんびりとよーこちゃんたちを眺めていると、レーナ王女が声をかけてくる。
「あのイルカさんたちは一角獣と言うんですね。可愛らしいイルカさんたちです」
「あの魔物たちは船へと角で突撃してきて、穴を開ける厄介な魚なのです。普通はあんなに懐きません」
「へー、そうなんだ。でも魔導艦の装甲は硬いし、びくともしなかったよね。たぶんイルカさんたちはじゃれているだけなんだよ」
僕知ってるんだ。熊や虎は遊んで欲しいとじゃれても、人間は襲われると勘違いしちゃうんだって。
「たぶん身体が大きかったから、じゃれていても攻撃をされていると人間は怖がっちゃったんだろうね」
「この船と同じぐらいの大きさの一角獣がいたような?」
「ボスの座は譲りましたと、引退宣言をして去っていきましたね。船に激突した際に角を折られて」
「不幸な事故だったよ。あのイルカさん大丈夫かなぁ」
ぽきりと角は折れちゃったんだ。可哀想に。
「プライドもぽきりと折れてましたよ、閣下」
サマーチェアに寝そべってビキニ姿で寛いでいるルフさんが口を挟む。横に置いたテーブルにはフルーツたっぷりのジュースとフライドポテトが置かれていて、まさにサマーバケーションという感じ。
う〜んと、背伸びをして豊満な胸を震わにしてニマニマと邪悪な笑みとなるルフさん。
「あ〜、他の人たちのプライドを私も折っちゃいますねぇ〜。困っちゃいます」
スタイルが良いルフさんのわざとらしい呟きに、小悪魔が一人アップを始めたけどいつものことだから気にしなくて良いよね。
「ところで、レーナ王女は『サンクリシャー帝国』に訪問したことがあるんですよね? どういう国か改めて教えて頂いてよろしいでしょうか?」
一応話は聞いているけど、もう一度確かめておきたい。詳細を再度確認しないとね。
レーナ王女は僕の言葉に嬉しそうな顔になり、コクリと小さく頷くと手を胸に添えて笑みを向けてくる。
「わかりました、ではご説明を。『サンクリシャー帝国』は西の大国です。ゼウス神を始めとするオリュンポスの神々を信仰し国教とする帝国ですね。特徴は簡単で実力だけを重視する軍事国家です」
「脳筋な国ということですか?」
アウターの民と気が合うかもと思ってたら、首を横に振り否定してきた。なにか違うみたい?
「『サンクリシャー帝国』の実力主義は有名ですのでそう思われがちですが違います。実力とは武力だけではなく、財力、知力、権力なども実力のうちに入るのです」
「弱い人でも高い地位につけるってことですか。なるほど、それなら大国と言われているのも納得です」
「そうね、力だけでは惑星を破壊できても、国を繁栄させて美味しい物を作ることはできないから」
ルフさんの身体をロープでぐるぐる巻きにしながらシュリが口を挟む。生肉を添えているので、きっと釣りをするつもりなんだろう。楽しげにルフさんが叫び声をあげているから、きっと大漁間違いなし。
「そのとおりです。お金が無ければ、国は成り立ちません。お金を稼ぐには頭が良くなければできませんから、実力主義といっても良い内容の実力主義といえるでしょう。一つの事柄を無視すれば、ですが」
「一つの事柄? なんですか?」
僕の質問に苦笑混じりにレーナ王女は『サンクリシャー帝国』の問題というものを口にする。
「かの国は『決闘』というシステムがあるんです。『決闘』ではどんな物でも賭けられます。それが財産であっても、地位であっても、人間であっても」
「地位? もしかして国王の地位も?」
「はい。その中でも最悪なのが、罪も賭けられるというところです。自分の殺人罪を他人に押し付けることもできるんですよ。殺人だけでなくあらゆる罪を押し付けることができます」
深刻そうな表情で言ってくるレーナ王女。なるほど、たしかにそれは厄介だなぁ。
「でも、それなら強い人たちが好き放題できちゃうんじゃないの?」
「『決闘』では代理人も出せますし、受ける側は条件も変えられます。それに拒否もできます。拒否すれば嘲笑されてあの国では社会的に死んでしまうので、拒否するのはよほど勝ち目がないか、他国のものたちです」
「他国の人たちにも『決闘』ができるの!? それは大使さんとか困っちゃうね」
「商人も困りますよ。『決闘』から逃げた人間として馬鹿にされて、取り引きができなくなります。まぁ、はっきりとした実力差があるのに『決闘』を持ち出す者も嘲笑されてしまうんですけど」
なるほどねぇ。大変な国らしい。なんというか脳筋国家というのは間違いないんじゃないかなぁ。
「私も訪問した際に嫁として来いと『決闘』を持ち出されたことが多々ありました。他国の人間は強いかなんてわかりませんからね。相手も好き放題『決闘』を持ちかけることができるというものです」
他国の人たちにとっては住みにくそうな国だこと。特に罪を押し付けることができるなんて危険な国だよね。
………まぁ、それでも面白そうではある。『サンクリシャー帝国』か。楽しい旅になれば良いなぁ。
それと貿易で魔石も稼がないとね。
「キャー! マーマンが自分を連れて行こうとしてます! 助けてください!」
「マーマンは食べられないから駄目ね。もっと良い魚を釣らないと」
釣りをしているルフさんとシュリの声を聞きながら、僕は前方へと顔を向けて微笑むのであった。
◇
石造りの国という感じだ。ガルドン王国も石造りの家屋や埠頭があったけど、『サンクリシャー帝国』は少し感じが違った。
「なんで石造りの国って思うんだろ?」
ようやく『サンクリシャー帝国』に到着した僕は首を傾げてしまう。なんとなく違和感があるのだ。
「それは灰色だがらじゃないですかね?」
「ダリさん、どういう訳?」
「地面が全部石畳で覆われて、緑がまったくないからですぜ。ほら、遠目に見える貴族っぽい屋敷の庭園も緑がないですよ」
魔導艦を操艦しながらダリさんが感想を言う。僕も遠目に見える屋敷へと目を凝らして納得しちゃう。なんと、庭の木々も全て彫刻であったのだ。なんで緑がないわけ?
「この国では緑に触ることは貧乏な人々だと思われているんです。農家は弱者がやるものだという話から緑に触るのも嫌がる風潮となったらしいですよ」
「変な風潮だね。他国の文化って様々なものがあって面白いから、旅をして良かったと感じるよ」
「そうね、この国ではどんな食べ物があるのかしら?」
「あたちは綿菓子が食べたいでしゅ。おっきな帽子みたいな綿菓子。お小遣い持ってきまちた!」
シュリがワクワクした顔になり、ねむちゃんが500TP硬貨を握りしめて、ふんふんと鼻息荒く縁に捕まる。
「そういう綿菓子はオシャレな街にしかないから無理です。でも、そうですね、きっと面白いことになりそうです」
ルフさんも腕組みをして、少し弾んだ声だ。
僕も同意するよ。この国ではなにが待ってるのかなぁ。
────そして、埠頭に到着したのだけど。
「おぉ、その艦は私に相応しい。どうだろう、俺と決闘をして賭けないか? 私も自分の船を賭けよう!」
トーガを羽織った筋肉ムキムキのおじさんが絡んできました。埠頭に到着して僅か数分の話だ。
石を削った彫像みたいな男だ。美男子というか微男子という感じ。
ニカッと笑って、サムズアップしてくる。ますます筋肉が膨れ上がり、ちょっと暑苦しい。
「えっと、僕のことですか?」
「そのとおりだ。その美しい艦、一目惚れしたよ。なんと美しい」
ふーん、決闘とはこういう感じで申し込まれるんだ。
「他国のものよ! 代理人はだすかね? それとも、自身で戦うかね?」
もう決闘は決定らしい。
まぁ、楽しそうだからいっか。他国の人が訪れるのは珍しいのか、多くの人々が集まって遠巻きに見ている。
その顔は好戦的で爛々と目を輝かせているので、この人を倒しても他の人たちが決闘を申し込んできそう。
「閣下、ここはド派手に勝ちましょう。後で問題が起きないように。後の人々が決闘を仕掛けてこないように」
ルフさんがこっそりと伝えてくる。たしかに決闘をドンドコ申し込まれるのは………嬉しいんだけど?
「あそこでシュリやねむちゃんが楽しげに見てますよ。きっと教育に悪いはず! 見えます、未来が見えちゃいます。明日には王様になっている幼女の姿が!」
「はぁい」
それなら仕方ないかな。それじゃド派手に戦うけど、相手も強いだろうから注意しないとね。
「良いですよ。僕は問題はありません。戦うのは僕です。条件は今すぐ開始ということで」
「良いだろう。では今すぐ開始だな!」
男はニカッと笑うと同時に拳を繰り出してきた。今すぐにとの言葉どおりだ。なかなかやるね。
僕も手のひらを掬い上げて、相手の拳を下から跳ね上げる。そうして強く埠頭へと踏み込む。
「はぁぁぁ!」
闘気を全開にして、本気になる。衝撃で埠頭にヒビが入り、細かに砕けていく。
「な、なんだ? これは?」
足元が崩れて体勢を崩す男。
「ていっ」
隙ありだよと、蹴りを入れる。なぜかボールのように男は吹き飛んで海へと落ちていった。
「……あれ、弱い」
「きっと当たり屋というやつだったんじゃないかしら?」
なるほど、シュリの言うとおりかも。普通の人が喧嘩を売って拒否されたら、和睦金として金銭を要求するパターンだったのかもね!




