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6対1の戦い

 メンバーが女子生徒二人と男子生徒が四人で構成された六人パーティーの一人が


「見つけた……!」


 出来るだけ声を抑えて、仲間に知らせる。


 それを聞いた仲間達五人の顔が引き締まる。


 六人が組んだ目的は一チーム、いや一人だけ。


 パーティー全員の視線の先にいるのは、銀髪の生徒――コーデリアだった。


「相手はまだ気付いてない。それにサスフィールのパートナーは『レベル1(ザ・ワン)』。手筈(てはず)どおり、まず魔法を奇襲で放ってそいつを倒す。レベル1のステータスじゃまず間違いなく失格になるはず。それから――(サスフィール)だ」


 リーダー格の男が作戦の確認を始めると、後の五人も頷く。


「よし、戦闘準備だ」






「いきます!」


 杖を手にした【魔法使い(メイジ)】の少女が目を(つむ)り杖をかかげて集中を始める。


「【根源となるは太陽の炎、漆黒の闇を照らす光となり、天を翔け馳せ敵を穿て】」


 詠唱を始めると、少女の足元に真紅の魔方陣が展開される


「【ラフィーユ・スレイプニル】!!」


 詠唱の終わりと共に、放たれた高速の火球が少年に向かって飛んでいく。


「イルミッ!?」


 不意をついた火球はコーデリアの横にいたイルミに直撃し、吹き飛した。


「行くぞ!」


 イルミに魔法が当たったのを合図として、リーダーを含めた三人の男子生徒が飛び出していく。


「囲めッ!」


 そのリーダーの一言で、三人はコーデリアを包囲した。その後衛には魔法を放った少女を含めた残りの三人が待機しており、それぞれ武器として手には杖が握られていた。


「六人チーム……」


 囲まれながらもコーデリアは剣を構える。


「あぁ、そうさ、お前を倒すには俺達にはこれしかないんだよ。『女神の加護』持ちで、レベル35なんて馬鹿げた超弩級のエリート様を倒すにはな」


「もしかして、最初から私が狙い?」


「あーそうだよ。はなから優勝なんて目的じゃねえ。学院で落ち零れちまった俺みたいなのが六人も集めたのは、お前一人を倒すためだけだ――サスフィール」


 冒険職専門の学院で落ち零れたという意味はレベルが低いという事と同義であった。


「貴族出身のお前らは幼い頃から戦い方を学んで来たんだろ? 俺達みたいな平民はそんなエリート様の背中を見続けるしかねえ……」


 経験値によってレベルが上がり強くなるこの世界において、努力が全てのように思えるが、身分の違いによって、そもそものスタート地点が違い、特に冒険職を目指す貴族の子供は幼少期から魔物(モンスター)との戦闘でレベルを上げている事がほとんどで、学院に入学する頃には貴族と平民の間にかなりのレベル差が生まれるのだった。


「どれだけ努力をしても、お前らの後塵を拝し続ける気持ちが分かるか? いや、努力したら努力以上の結果が返ってくるお前に俺達の気持ちなんてお前には分かる訳ねえか」


「……アナタ達の気持ちは、確かに分からない」


「はっ、だろう――」


「でも、一つだけ言える」


 全てを凍てつくす霧氷(むひょう)のように美しい表情で、コーデリアは言う。


「弱いのは――単純に努力が足りないだけ」


 全員が凍りつく。


「言い訳しないで」


 自分達の気持ちを真っ向から、それも恵まれた境遇にある貴族出身の中でも、最も恵まれた境遇で生まれたコーデリアに――否定される。


 一瞬だけ凍りついた六人はすぐに怒りの炎で燃え上がり、リーダーの男はスゥーと深く息を吸うと


「やっちまえ!!」


 そう叫び、コーデリアに対する攻撃の指令をパーティーメンバーに出すと、三人の内の小柄な少年が飛び出し、後衛いる【魔法使い(メイジ)】の少女とその他の二人も別々に詠唱を始め、三つの魔法陣が展開される。


 小柄な少年の武器はイルミと同じく短刀であり、一瞬でコーデリアの懐に潜り込むが、それ以上の速さでコーデリアは距離を取る。


「うらああ!!」


 しかし、回避先にいた大柄の男が低い(うな)り声を上げ、巨大なハンマーを振り被り強烈な一撃をコーデリアに加えようとする。


 回避が間に合わないと感じたコーデリアは振り降ろされるその一撃を真向(まっこう)から剣で打ち返した。


「なっ!?」


 コーデリアの力によって振り下ろしたハンマーが再び頭上高くまで持ち上がる。


 力自慢そうなその大柄の男は、力負けした事への驚きと渾身の一撃を弾かれた衝撃でフリーズする。その隙にコーデリアは剣を叩きこもうとするが、リーダーの男の剣が割って入り受け止める。


「お、重めえ」


 コーデリアの斬撃はそのままリーダの男を力任せに吹き飛ばす。


「グッ――」


 踏ん張り切れずに中に浮くリーダーの男は


「今だ!!」


 飛ばされながらも指示を出す。


「【ラフィーユ・スレイプニル】!!」


 すでに詠唱が終わらせ魔法を放つ準備をしていた【魔法使い(メイジ)】の少女がイルミに向けて打った呪文と同じ高速の火球をコーデリアに放った。


「――ッ!?」


 近距離の敵に意識を割いていたコーデリアは不覚を取り、迫る火球に直撃する。


 するとコーデリアに表示されているHPバーがわずかに減少する。


「くそ、直撃でこれだけかよ……。マジで化物(バケモン)だな。こっちは受け止めたってのにこれだけダメージが入ってるのによ」


 大柄の男を庇いコーデリアの剣を受け止めたリーダーは、魔法が直撃したコーデリアのHPよりも減少した量が多く表示されていた。


「はぁ……ったく(やん)なるなあ。分かっていたつもりだったが、ステータス差をここまでありありと見せつけられるとよぉ」


 そして――頼む! とリーダーが言うと


「【ヒュレイト・マーレ】!」


 後衛で【魔法使い】の少女と同じく詠唱を終え準備していた【僧侶(プリースト)】の男がリーダーに回復(ヒール)の魔法を使うと、減っていたリーダーのHPバーが満タンまで回復する。


「ズルイとか言うなよ? こんなの強い魔物(モンスター)との戦闘じゃ当たり前だろ? ステータスで敵わない相手にする時の常套手段(じょうとうしゅだん)だ。数で勝って、戦術で勝って、知恵で勝つ。それが弱者の戦いかたってもんだ」


 それは、暗にコーデリアと強力な魔物(モンスター)は彼らにとっては同じである事を示していた。


「さあ、続きだサスフィール。俺達六人分の体力が無くなるか、お前一人の体力が無くなるるかの――勝負だ」


 そして、再び前衛三人が飛び掛り、少しでもダメージが入る毎に、後衛に控えている【魔法使い(メイジ)】以外である二人の【僧侶(プリースト)】が回復魔法を使用する。


 隙を見ては【魔法使い(メイジ)】の少女も魔法を放つが、二度目はコーデリアも警戒しているため、最初の一発のような直撃はなかった。


「チッ、キリがねえ……」


 リーダーの男がコーデリアの硬さに痺れを切らし始める。徐々にHPを削れてはいるが、パーティー全体の疲労の方が上回っているように感じる。


「仕方ねえ! 長文詠唱で、どでかい魔法を決めろ! 時間は俺達で稼ぐ!」


 魔法の威力は、基礎ステータスの「知恵」にスキルの補正、そして魔法発動するために必要となる詠唱の長さによって変化する。


 先程から【魔法使い(メイジ)】の少女が放っていた魔法は短文詠唱であり、威力は然程(さほど)ないが、素早く打つ事が出来る魔法であった。


 ただ長文詠唱は精神力(マインド)を大幅に疲弊させるため、短文詠唱のように連発出来るものではなく、また時間もかかるため、当初は牽制として、少女の魔法を利用するはずだったが、想像よりも遥かに硬いコーデリアの「耐久」を見て、リーダーの男は作戦を変えるのだった。


「【終末の訪れ、集いし英雄達】」


 リーダーの指示に従って長文の詠唱を【魔法使い(メイジ)】の少女は始める。


「【再びその剣をかかげ、迫り来る侵略者を薙ぎ払え】」


 少女の詠唱を止めようと、コーデリアは【魔法使い(メイジ)】の少女に狙いをつける。


「いかせねえよ」


 しかし、リーダーの男が間に割って入り、そして間髪入れずに大柄な男のハンマーがコーデリアに振り下ろされ、避けた先に小柄な少年が突っかかり、少女に近づかせない。


「【嘗ての大戦に思いを馳せ、世界の命運をその手に握れ】」


 この作戦変更も想定内であるような連携を見せる。コーデリアを倒すために様々な事態を想定し準備をしてきた事を匂わせる。


「どうよ、サスフィール? 流石にお前も長文詠唱の魔法はキツイじゃねえのか? 落ち零れでも六人いれば、学院一の優等生一人にだって勝てるんだよ」


「【闇を払い、希望の光を仰ぎて、勇猛心を奮い立てよ】」


 そう、勝てる。落ち零れの自分達がついにエリートに一泡吹かせる事が出来る。


「かもしれない……でも、私は――一人じゃないから」


「は? 一人じゃないって『レベル1(ザ・ワン)』の事か? ははっ! 俺達よりもずっと落ち零れに何が出来るって言うんだよ? それにアイツは最初の魔法で――」


――そういえば


 そこでパーティーのリーダーはハッとする、倒した、いや、倒したはずの『レベル1(ザ・ワン)』の姿を見ていないという事に。


「【さあ宴が始まる、今こそ伝説にその名を刻め】!!」


 ついに詠唱が終わる


「リーダー!」


「い、いや、そんなはずかない! レベル1が魔法を受けて失格にならないわけ――」


 リーダーは狼狽しながらも巻き込まれないように距離を取るがコーデリアは動こうともしない。


 一際大きな白い魔法陣が【魔法使い(メイジ)】の足元に展開され、魔法名を叫ぶ。


「【レイドレット・エク】――」


「ごめん!!」


 魔法が発動する瞬間に背後に回っていたイルミは殺傷能力のない短刀ではあるが、念のため柄の部分で【魔法使い(メイジ)】の首を攻撃し魔法の発動を中止させ、そのまま思いっきり遠くに蹴り飛ばした。


「キャアッ!!」


 蹴飛ばされた「耐久」の低い【魔法使い(メイジ)】のHPバーはその二発で落ちる。


「な、なんで『レベル1(ザ・ワン)』が!?」


 仲間の魔法が直撃して失格になったはずの『レベル1(ザ・ワン)』のHPバーは、その予想に反し、ほんの少しのメモリしか減少していなかった。


「というか、レベル1の攻撃で二発って――」


 ありえないその光景を見たせいでパーティー内に動揺が広がっていく。


「ふっ!」


 その動揺を見逃さず、イルミは後衛の二人にも攻撃をしかける。


 近接戦闘を不得意とする魔法職の学生が訓練を続けているイルミの攻撃を捌けるはずもなく、ほとんど棒立ちとなって【魔法使い(メイジ)】の少女と同じく一瞬でHPバーを全て削った。


「ど、どういう……」


 リーダーの男は後衛の仲間達がやられていくのを見て戦闘中でありながら唖然としてしまう。


「これで、アナタだけ」


「なっ――」


 そして気付けば自分以外の前衛の仲間達もコーデリアによって失格にされる。


「まだ、やる?」


 先程の戦闘の教訓なのかコーデリアは腰に剣を納め、リーダーの男にリタイアを勧める。


「な、舐めんじゃねえええ!!!」


 当たり前だが、火に油を注ぐ結果となる。


「……そう」


 今日一番の怒り狂った顔を見せ最後の一人となってもパーティーのリーダーはコーデリアに立ち向かう。それを見て、納刀した腰の剣にコーデリアは手をかける。


――片手剣スキル



「『神速抜刀』――」



 時が止まる。


 リーダーの動き、振り抜かれたコーデリアの剣、それを見ていたイルミ、全ての時間が止まったかのように動かなくなる。


 そしてリーダーのHPバーだけがゼロへと向かって動き出し、全てのHPが無くなった時――リーダーの男は力なく前のめりに倒れた。


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