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負けた理由

 一度に三発の花火が空に打ち上がり、三チームの失格が告げられた。


「どうして……レベル1が?」


 コーデリアにやられたダメージが少しだけ回復したリーダーの男がうつ伏せから仰向けに転がって呟く。


 今、自分達の目の前で起こった事は常識から逸脱していた。レベル1なんて、赤子が生まれたステータスと何も変わらない。体の成長と共に身体能力は向上するが、ステータスの補正は一切加わらない。


 冒険職の人間にとっては、ほぼ赤子。


 それは彼らの、イルミ、『レベル1(ザ・ワン)』に対する認識であった。


「なあ、お前の名前を教えてくれよ」


「ん? 僕?」


「ああ、お前だ『レベル1(ザ・ワン)』」


 倒れながらも毒吐(どくづ)くリーダーの男にイルミは特に何も思わない様子で


「イルミ。イルミ・シンドレア」


「……シンドレア? 学院の名前と同じじゃねえか?」


「うん、学長は僕のお爺ちゃんだよ」


――結局、こいつも……


 自分の嫌いな貴族の家系かとリーダーの男は思う。


 常識外れなのも勇者の孫だから、それならあれだけ強いのも頷ける。なんせ伝説の英雄の孫なのだから。


 貴族達と同じだ。生まれた時から自分とは物が違う。そんな奴ならば、俺達が負けても仕方ない。例えレベル1でも強いのは、おかしくない。


――おかしく……ない?


 本当にそうだったか。


 自分の知っているレベル1とは本当にそういう物だったか。


 自分達が信じていたレベルの基準とは、自分達が落ち零れの理由であるレベルとは


 平民だからとか、貴族だからとか、英雄の孫だからとか


 レベルの差というのは


 レベル1というのは


――本当にそんな理由で覆る物だったか?


「じゃあ、君の名前は?」


 イルミが勇者の孫である事を知って余計に混乱するリーダーの男にイルミは名前を聞き返す。


「……俺か?」


「うん、君の」


「……クルスだ。クルス・アンレイク」


 自分から聞いた手前、答えない訳にもいかず、ぶっきらぼうにクルスは名前を答える。


「クルス君ね」


「君(くん)は辞めろ。柄でもねえ――――なあイルミ、お前って本当にレベル1なんだよな?」


「そうだけど?」


 名前こそ、よく覚えていなかったが、学院で行われる経験値試験(レベリングテスト)でいつもレベル1だと言われているのはクルスも知っていた。


「レベル1のステータスで魔法が直撃して無事なものなのか? それとも、あれは当たった振りをしただけか?」


「当たった振り……とは違うけど。わざと魔法を喰らったのは確かだね」


「……な、何のために? つうか、俺達が近くに居た事を知っていたのか?」


 想定外のイルミの答えにクルスは驚く。


「うん、近くにいるのは分かってた。君達が六人パーティーだって事も。その上で作戦を立てたんだ」


「作戦?」


「六人パーティーとまともに戦ったら激しく消耗するだろうから、僕の立場を利用したんだよ」


 不意をつける場合、レベル35とレベル1の二人がいたらまず、どちらを狙うか。どちらも、模擬戦の経験が乏しくて情報も少ない。コーデリアの場合はまだ家柄から【騎士(ナイト)】などの前衛職だと予想できるが、イルミは全くの謎。


 レベル1が出来る事などたかが知れているが、不確定要素は取り除くべきである。もし回復役(ヒーラー)であれば、少しでもコーデリアを回復されれば戦況は大きく変わってしまう。


 それならば、間違いなく一撃で倒せる――レベル1から狙うべき。


「――僕はそう考えて、自分自身を囮にした。確実に後衛を倒すために。少しズルイけど、倒された振りをして、コッソリ後ろに回って近づいたんだ」


 実際には敵に見つかりにくくなる、【盗賊(シーフ)】のスキル『隠蔽(ハイド)』を使用していたのだが、悪党職(ヴィラン)のスキルのためイルミはそれを秘密にする。


「ズルイなんて言葉を俺達が言える訳ねーだろ……つうか、全部バレバレかよ……」


 考えや居場所、チーム同士で結束していた事まで全て筒抜け。


「何だよ、じゃあ俺達は手の平の上だったって事か」


 そりゃ勝てる訳ない。全てが計算違いだった自分達が、全てが描いた通りだったイルミ達に勝てる訳が始めからなかったとクルスは思う。


「まあ、リアのステータスの高さがあってこその作戦だったけどね」


 六人を一度に相手にしてイルミが気付かれず回り込めるだけの時間を稼げるかどうかが、この作戦の肝であった。それをイルミはコーデリアの能力を信じて任せたのだった。


「マジで化物みてーな強さの女だよ、アイツは。正直、六人掛(ろくにんがかり)でも勝てるか分からねえ相手だったわ……」


 クルスは先程の戦いを思い出す。ずば抜けた力と耐久。こちらの攻撃は微量しかHPを削れないのに、向こうの攻撃は半分近く持っていかれる。魔法の直撃でさえも極僅かにしか減らない。


 圧倒的な存在。


「それじゃあ、僕達はもう行くよクルス」


「おい、待てよ。まだ聞いてねえぞ。何でレベル1のお前が魔法の直撃を耐え切れたんだよ? しかも、ダメージ量もサスフィールとほとんど変わらねえ」


 魔法の直撃を受けたはずのイルミのHPバーは少しだけしか減少していなかった。


「どんな攻撃でも一撃は耐えれる自信はあった。でも、ダメージ量が少ないのは運が良かっただけだよ」


「運?」


「くらった魔法が火属性の魔法だったのが幸いだった――僕は『火属耐性』持ちだったから」


「『火属耐性』? そんなスキルを覚える職業なんてあったか?」


 クルスは今まで聞いてきた冒険職の熟練度によって覚えるスキルを思いだすが、どの職業にも該当しない。


「【鍛冶師(スミス)】のスキルだよ。鍛冶場ってかなり熱いからさ」


「は? 【鍛冶師(スミス)】? なんで?」


 驚いて、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をクルスはする。


「えっと……技能ボーナスでステータスを上げてるから、色々な職業を経験してるんだ。『火属耐性』はそのおまけ――あ、じゃあ、またねクルス」


「え、あ……ま、またな」


 さっきまで敵であったクルスに対して友好的な笑顔を向け、手を振った後にイルミはコーデリアの元へと向かった。


「技能ボーナスでステータスを上げるって、なんだ……?」


 言っている事がすぐに理解出来なかった。ゆったりと流れる雲を眺めながら、その言葉を、今しがた見た事実と一緒に飲み込み無理やり理解させる。


「マジかよ……」


 イルミの言った事と現実を飲み込むと、そんな言葉が無意識に吐き出された。


――ただ努力が足りてないだけ


 コーデリアが言っていた事をクルスは思い出していた。


「言い訳をするなか――なるほどな」


 立てる程にダメージが抜けたクルスはゆっくりと立ち上がる。


「おい、いつまで寝てんだお前ら! たく、全員で一からやり直しだ、全く……」


――次は負けねぇ……


 失格となった後もクルスは闘志を燃やす。その闘志の先にはコーデリアの顔、そして――『レベル1(イルミ)』の顔が浮かぶのであった。


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