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初戦――バカップル

「【盗賊(シーフ)】まで……」


 悪党職(ヴィラン)の一つである【盗賊(シーフ)】のスキル『索敵』を使いイルミは周囲の状況を探っていた。


「えっと……知り合いに義賊をやっている人がいて……イメージ悪いからあんまり露骨に使えないんだけどね」


 イルミが回復薬(ポーション)の材料を集める時に使用した【探知】などのレーダー的な技能スキルとは違い、人がいた痕跡などの情報を見た時に頭の中で可視化するというスキルであった。


 また魔物の痕跡は見えず人専用であるというのが特徴的なスキルであった。


――便利……


 コーデリアはそんな正直な感想をイルミに持つ。


 回復薬(ポーション)を作った時もそうだが、彼が一人いるだけで随分、この模擬戦大会を有利に進める事が出来る。


 あまりに便利なため、何故(なぜ)イルミのような多技能持ちの冒険職の人間がいないのだろうかと考える。そして――簡単な答えにすぐ辿りついた。


 結局、一つを目標とした職業(ジョブ)や技能を極める方が優れているからであった。


 冒険家が何のためにパーティーを組み、生産職や製造職などに職業が分かれているのか。要するにその道を極めたプロの方が当たり前だが良い働きをするという事だ。自分一人では足りない部分をパーティーや商店などで補っているのであった。


 言い方は悪いが、イルミはつまるところ器用貧乏なのである。売っている種類は多いが品物は安物である百貨店のような人材であった。


 それはそれで需要はあるのかもしれない。実際、コーデリアは彼の働きを見て便利だと感じている。しかし、それらはイルミにとって基礎ステータスを上げるため副産物であり、きっと彼の持つスキルは冒険職となんら関係しないスキルも多く存在するはずである。


 本当に彼がレベル1の身で勇者を目指すというのなら、模擬戦程度なら器用貧乏でもいいかもしれないが、それよりずっと上の脅威と彼が戦うのというのならば、どんな職業でもプロらしくある必要が生まれるだろう。


――そんな時が本当に……


「待って、リア。人が通った跡だ」


 イルミには二人組みの誰かが通った跡がくっきり見えていた。


「監視をしてる先生達がわざわざ二人で移動しているとも思えないし、きっと参加者だね。どうする、リア?」


「……倒そう。相手が気付いてないならチャンス」


 好戦的な返答にイルミは頷くと、見える痕跡を頼りに先導する。


 追跡者にバレないように慎重に痕跡を辿って行くと、『索敵』のスキルが、もう近くにいる事をイルミに教える。


「リア、すぐそこに居る。気をつけて」


「分かった」


 そんなやり取りをしたすぐの時だった


「ねぇねぇ、マー君、ちゃんと私の事を守ってくれるー?」


「当たり前だよヒーちゃん! 僕の命に代えても君を守るに決まっているじゃないか!」


「やーん! マー君、超カッコイイ!!」


 模擬戦大会中だというのに、大声でイチャついているバカップルがいた。


「…………」


「…………」


 あまりの無防備さと頭の悪さで何も言えなくなる二人。


「でもでも、本当に優勝出来るの、マー君? 今回の模擬戦大会って優秀な生徒がいーっぱい出てるんだけど?」


「大丈夫さヒーちゃん、総合レベルで一番高いレオンとシャミアは犬猿の仲。仲睦ましく愛し合っている僕達の敵じゃないさ!」


「なるほど! 流石だねマー君!!」


「流石なのは僕じゃない、僕達の愛の深さだよ!」


 終わる事のない二人の惚気合いを見せ付けられ、そろそろ何を見せられているのだろうか、というより何故(なぜ)自分達はこの光景を黙って見ているのかという思いが()き上がってきた時


「じゃあさ、じゃあさ! コーデリアさんも出場してるけど私達、勝てるのかな?」


 自分の話が出てきて、もう一思いに(やっ)てしまおうかと考えていたコーデリアの動きが止まる。


「なに、コーデリアのパートナーは『レベル1(ザ・ワン)』! いないも同然さ! 僕達のコンビネーションがあればコーデリア一人くらい倒せるさ!」


「すごい! 私達、あのコーデリアさんまで倒せるんだね! 最強なんだね!」


「あーそうさ! 僕達は二人揃えば誰にも負ける事はないんだ」


 あはは! とカップルで声を揃えて陽気に笑う。


「……リア?」


 屈んでカップルの様子を一緒に伺っていたコーデリアが少しだけ腰を浮かせる。


「でも、何でコーデリアさんはイルミ君をパートナーにしたのかな?」


「そりゃあれだよヒーちゃん? ハンデだよ、ハンデ? 二人で組まないと出れないから学院で一番弱っちいイルミをパートナーにして出場しないはずさ!」


「そうなんだ! ストイックって奴だね!」


「イルミの奴も可哀想だよな足枷扱いって、ま、レベル1の冒険者なんてどこのパーティーでも足で纏い――」


 その時だった。


「リア!?」


 イルミに何も言わずコーデリアがカップル二人に向かって飛び出したのだった。


――またなのか?


 初めて会った日に強盗と出会(でくわ)した時と同じように一人先行していったコーデリアにイルミは唖然(あぜん)とする。


「こ、コーデリア!?」


「噂をすれば何とやらだよ、マー君!?」


 勝手に飛び出して行ったコーデリアにイルミと同じくらい動揺するカップルに向かって


「……訂正して」


 と携えていた剣を構える。その瞬間、コーデリアの放つ威圧感によって、カップル達は今まで感じたことのないプレッシャーを受ける。


「た、たた、倒せるんだよね、マー君?」


「も、もも、もちろんだよ、ヒーちゃん!」


 蛇に睨まれた蛙のようになるカップル達だが、それでも各々の武器を取って戦おうとする。


「イルミを」


――バカにするな。


 コーデリアは槍を持った男の方に突っかかる。リーチの長さで勝る槍で飛び掛ろうとしてくるコーデリアに合わせて突くが、剣で力強く上に弾かれ、がら空きとなった胴体を即座に切り込む。


「ぐうっ」


 真剣(ほんもの)であれば致命傷になったであろうその攻撃は、たったの一撃で半分以上、男のHPバーを削る。


「マー君! もう、許さないよッ!」


 カップルの女の方はいつの間にかコーデリア達から距離をとっており、手に弓を構え、弦を引き絞り、かかった矢は赤いオーラを纏い、


「喰らえッ!!」


「ッ!!」


 女は弦を離し、弓スキル『パワーシュート』を放つ。


 矢が纏う赤いオーラが濃い程、強さが増すスキル。彼女の放つ矢のオーラは学生にしては濃い色をしていた――が、所詮は学生レベルであった。


 迫る赤い矢をコーデリアは真正面から剣を振り下ろして叩き斬る。スキルも何も使用せずに力のステータスと(つちか)った剣技だけで相手の放つスキルに圧勝する。


「うっそ!?」


 驚愕の表情を浮かべている女にコーデリアは一気に間合いをつめる。


「あっ」


 女が逃げ出す暇もなく間合いを詰められ、既にコーデリアの剣が届く範囲まで近づかれる。呆けた女はガードも出来ずにコーデリアの攻撃が迫るのをただ見ている事しか出来なかった。


「ぐぅ!?」


 しかし、攻撃が当たって聞こえたのは男の呻き声であった。


「マー君!?」


 カップルの男がギリギリの所で身を挺して女を守ったのだった。しかし、2回もまともにコーデリアの攻撃を喰らった男のHPバー全て消え、失格となる。


「どうして、マー君!? 私のために!」


「い、言っただろ、ヒーちゃん。俺が命に代えてまで君を守るってな……」


 ガクッ――と妙に芝居がかった感じで女の膝の上に倒れる。


「マーくーん!!」


 膝の上で男が本当に死んだかのように頭を抱えて叫ぶ女に


「それじゃ駄目」


「「え?」」


 倒れる演技をしたはずの男まで予想外のコーデリアの対応に反応してしまう。


「弱ければ誰も守れない」


 まさに無情な光景であった。


 ただの模擬戦であるため、そんな事はないのだが、コーデリアは体を張って男が守った女にもトドメを刺そうとする――


「待って、リア!」


 イルミがそれを止めに入る。


「弓を持った子が一人じゃもう勝ち目はないだろ? 君もリタイアするでいいよね?」


 カップルの女はコクコクと頷く。


「あっ……」


 先日と全く同じく、一人で行動をしてしまった事に対して、後ろめたそうな顔をするコーデリア。


「……ねえ、リア。まだ僕を信用できないの?」


 カップルを尻目にコーデリアにイルミは問う。どこかデジャブを感じさせる光景であった。


「ち、違う……あの時とは違う……」


「じゃあ、何でまた一人で向かっていったの?」


「体が……勝手に……」


「?」


 本当に強盗を倒した時とは違う様子である事をイルミは感じ取るが、肝心な、どうしてコーデリアが一人で敵を倒そうとしたのかがよく分からなかった。


「そういえば、戦う前にコーデリアが――」


 介抱されていたカップルの男が起き上がって聞こえてきた二人の話に割り込んでくる。


「なんか、訂正しろって――ぶべッ!?」


「マーくーん!?」


 口封じのため今度こそ男をぶん殴ってトドメを刺し気絶させたコーデリア。


「??」


 何故(なぜ)、男に攻撃したのか分からず混乱していると


「とにかく、ごめん。次はちゃんと……するから……」


 いつになく気弱な様子を見せる。


「う、うん」


 そう気落ちされると弱いイルミはそれ以上、コーデリアに何も言う事は出来なかった。

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