開戦準備
指定された場所に着いたイルミ達は開戦の合図を待っていた。
「イルミ、何してるの?」
ガサガサとイルミは鞄の中から何かの道具を取り出していた。
それは、コーデリアもイルミと一緒に行動をして見慣れた道具であった。
「開始まで時間があるから回復薬でも作ろうかなと思って」
イルミが鞄から取り出した道具は野外授業の時に使っていた簡易的な回復薬作成キットであった。
こんな時まで熟練度を上げようとするのかと呆れそうになるコーデリアだが
「あんまり知っている人がいないけど、回復薬でもこのHPバーは回復するんだ」
HPバーは攻撃を喰らえばゲージが減り、回復魔法で体を癒せばゲージは増える仕組みになっている。しかし、模擬戦や喧嘩くらいでしかこのHPバーは使われず、模擬戦や喧嘩の最中に回復薬を飲む事がまずないため、魔法以外の方法、回復薬を使ってHPが回復する事をしっている生徒は極少数であった。
「……知らなかった」
そもそも、模擬戦の経験があまり無く、可視化HPを使用しないコーデリアもその事を知らなかったようで、顔には出ていないが、少しだけ驚いているようであった。
「アイリス先生に教えて貰うまで知らなかったんだけど、僕が錬金術をかじってる事を話してたら教えてくれたんだ」
メルの職業である【万能薬】は回復薬作りにかなり精通している。そんな裏技のような事を知っていてもおかしくはなかった。
「でも、それ反則じゃない?」
「いや、反則なのは事前に用意したアイテムの使用禁止。錬金で作れば、その限りじゃないはず。それに――卑怯でもない。エルシア先生も言っていた、勝つために力と知恵と技術を振り絞れって――だから、僕に出来る事は全部やるべきなんだと思う」
確かにそうかもしれない――そうコーデリアは思う。
それに、きっとこれが反則ならばどこかで見ている監視の先生が止めるはずであった。
「じゃあ素材は?」
「ここへ来るまでに薬草を採っていたんだ。水は流石に自前だけど」
鞄からいくつかの種類の薬草をイルミは取り出す。野外授業のように時間をかけて採取した訳ではないため、大量という訳ではないが、この短時間で、そして指定ポイントに向かいながら、よくここまで収集したとコーデリアは感心する。
こんな森の中で、一から回復薬が作れる学生、いや、冒険者がこの世界に中にどれだけいるというのだろうか。
レベルの上がらない彼が取った無駄で無謀かもしれない努力に対する可能性の片鱗がその時コーデリアには見えたのだった。
――彼はどんな冒険家になるんだろう……
シャミアのように【勇者】に成れると信じて疑わない程にはまだ思えなかったが、冒険職に向いていないと感じていたコーデリアもイルミの冒険者としての行く末が気になり始めてていた。
「はいこれ」
いくつか回復薬が入った小瓶をイルミはコーデリアに渡す。ほとんどが青い下位回復薬であったが一つだけ【錬金】スキル『効果向上』の影響を受けたのか、緑の中位回復薬が混じっていた。
「……いい。それはイルミの力で作った物」
しかし、コーデリアは回復薬を受け取るのを拒否する。
「関係ないよ、チームなんだから」
「…………じゃあ」
少し考えてからコーデリアはイルミの渡す一本だけあった中位回復薬だけ受け取る。
「私はこれで十分だから。後はイルミが使って、きっとアナタの方が必要になると思うから」
「それって――」
まだ初めて会った時と変わらずちゃんとしたパートナーとして認めて貰っていないのかとイルミは思うが
「別にイルミを信じてない訳じゃない――でも、勝つためにそれが最善だと思うから」
「……どういう意味?」
「私の基礎ステータスで一番高いのは「耐久」。だから、それほどダメージが入らないはず」
コーデリアの現在、熟練度が一番高い職業は「耐久」に多く補正が乗る【騎士】であり、元からレベル差のステータスで他を圧倒している上に、その耐久力では、確かに他の学院の生徒からのダメージはほとんど入らないだろう。
「だから、一本だけ」
「……分かったよ、リア」
受け取って貰えなかった回復薬と自分用に作った回復薬を纏めて鞄の中に入れる。
コーデリアがイルミの基礎ステータスにまでは言及しなかったが、実はイルミの耐久は他の基礎ステータスの中で一番低かった。彼女がそれを知って言ったかどうか定かではないが、イルミは彼女の言う事を聞き入れるべきと判断した、その時
――ドンッ! と空中に爆発音が轟いた。
「開始の合図だ」
全組が所定の位置に着いてから、ようやく15分が経ち、それぞれの強い覚悟が混じり合ったタッグバトルロワイヤルの幕が上がるのだった。




