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不穏な空気

 模擬戦大会の一週間前となった野外授業の日、コーデリアとコンビを組んでから一緒に行動していたイルミは教室に戻ってすぐに異変に気付く。


 喧嘩をしてから本当に口をきいてない幼馴染の姿がなかった。


 まだ帰って来ていないのかと思ったが、教室の雰囲気がいつもと違う。


 ぞわり――と、嫌な感じに悪寒が走る。


 一人、イルミのクラスメイトである桃(ピンク)髪の少女リーズが不安そうな顔でイルミに告げる。


「い、イルミ君。シャミアさんが――」


 彼女の話を聞いた瞬間にイルミは教室の机を蹴散らし出て行く。


――シャミア……!


 喧嘩をしている事なんて忘れ、保健室にいるというシャミアの下へと駆け出した。



『シャミアさんがモンスターにやられて保健室に』



 何が起こっているのか分からなかった。野外授業程度でシャミアが不覚を取るなんて考えもしていなかった。


 廊下にたむろっている生徒達の間を脱兎のごとく疾走していく。


 自分が行ったからといって何かが出来る訳でもないが、しかし、居ても立っても居られる訳がなかった。


 二階にある保健室の前にイルミ達の担任教師であるエルシアが立っているが、イルミは構わずに保健室の中に入ろうとする。


「あ、おい。イルミ――」


 制止しようとする声なんて聞こえず保健室のドアを開けて中に入る。


「シャミア!!」


 入ってすぐ柑橘色(オレンジ)髪の少女がイルミの目に飛び込んでくる。


「イルミ!?」


 声に驚き振り向いたシャミアが目を丸くしてイルミを見る。


 予想よりも大丈夫そうな幼馴染を見て安堵するイルミだったが、シャミアの無事を確認して落ち着くと、もう一つ重要な事に気付く。


 シャミアは上半身裸であった。


 後姿ではあるが、冒険職らしく引き締まった体は、くびれており肌は冗談のように綺麗で、背中の曲線が芸術のように美しかった。


「え? ええ?」


 戸惑うイルミは顔を真っ赤にしながらもシャミアから目が離せなくなる。


「あ……」


 イルミの狼狽(ろうばい)にシャミアも自分が裸である事を思い出し、顔が羞恥に染まっていく


「で、出てけぇー!!!」


 シャミアの声で『保健室では静かに』と書かれた看板が揺れて落ちる。


「ご、ごめんッ!!」


 保健室から急いで飛び出て、ピシャリ! とドアを閉める。


「お、出てきた」


「あ、あれ? エルシア先生?」


 シャミアの事で必死だったせいで見逃していたエルシアにイルミはようやく気付く。


「えらく堂々とした覗きだったじゃないか。意外と男らしいんだな、お前」


「分かっていたなら止めてくださいよ……」


「何を言ってる、私の制止を振り切って保健室に入ったのはお前だぞーこのスケベめ」


 実際は振り切ったとおおげさに言えるほどエルシアはイルミを止めに入ってはいなかったのだが。


「べ、別に覗こうとした訳じゃないです! 本当なんです!」


 嫌な疑いを掛けられたイルミは弁明をしようとする。


「いい、分かってる。ま、大方、シャミアの事で頭がいっぱいで聞こえなかったんだろう。まったく喧嘩中だっつーのに仲が良い事で」


「僕らが喧嘩してる事を知っているんですか?」


「あまり甘くみるな、私はお前らの担任だぞー? クラスの異変くらい分からんでどうする?」


 冒険職の教師だけあって洞察力に富んでいると言いたい所だが、コーデリアも絡んでいた事もあり、エルシアも噂を耳にしていただけであった。


「えっと、それで、先生。シャミアは……大丈夫なんですか?」


「ん、ああ。見ての通りだ。特に重大になるような怪我はしてなかっただろ? それともアイツの裸体に気をとられて分からなかったか?」


「ち、違いますよ……」


 ただ、エルシアの言うように危険な状態ではない事は、保健室の中での彼女の様子を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)であった。


「シャミアに何があったんです?」


 ずっと気になっていた事であった。野外授業で怪我をする生徒は少なくないが、シャミア程のレベルのステータスを持った生徒が保健室に運ばれるのは珍しかった。


「私が担当の地域じゃなかったから詳しくは知らないが、どうやら単独で『妖精の誘い(フェアリー・フリート)』を使ったって話だ」


 『妖精の誘い(フェアリー・フリート)』は甘い香りを撒き散らし、周囲の魔物(モンスター)を呼び寄せる道具であり、危険ではあるが、経験地や素材を効率よく得るためによく使用されている。


「でも、授業で使うのは禁止されてるはずですよね?」


 単純に危険であるとして学院では生徒の使用は禁じられている。


「ああ、だから誰にも見つからないように単独で使ったんだろうな。全く、何を焦ってるんだか」


「…………」


――理由は分かる気がする。


 その時、保健室のドアが開き、シャミアが顔を出した。


「き、着替えたから」


 いつものように制服を着崩した状態に、シャミアは着替えていた。


 何故(なぜ)か保健室から出て来ないため、入れと言われている事に気付くイルミ。


「ふむ……ま、いいか。シャミアの様子を見に来たんだが、もう面倒だから後は二人で好きにしてくれ。私は教室に戻って他の生徒を帰らせるから、お前らも適当に帰っていいぞー」


 そんじゃまたなー――とイルミ達を置いて、教室に戻って行くエルシアを見送ったイルミは保健室に再び入るのだった。


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