ルディアの教え
コーデリア達が覗き見をしている時、一方のイルミ達は――
動きを止めるな。
足を動かせ。
武器を扱え。
捉えられたら終わり。
攻撃を喰らうと死ぬ。
レベル1なのを自覚しろ。
そう心の中で復唱し
「ふっ!」
短刀を右手に持ち拳を構えるルディアに向かって体勢低く突っ込む。
真正面から力でやり合っても勝てない相手なのは分かっている。
早さと手数で勝負。
最小限の動きで相手を捕らえろ。反撃の隙を与えるな。
短刀スキル『両刀』の効果で利き手と逆でも利き手と同等に扱えるようになったイルミは右手から左手へと短刀を入れ替え、動きに緩急をつける。
それでも、ルディアはイルミの攻撃を弾き、避け、受け流していく。
目まぐるしく移動する武器にルディアの意識が少しそれる。
それを感じとったイルミは武器を持っていない、右の拳で殴りつけようとする。
不意をつかれたルディアは一瞬、反応が遅れたが、寸での所で拳を叩き落とす。
しかし、不意をつかれたせいで、ルディアの姿勢が少し崩れる
――チャンスッ!
そこへ短刀の攻撃ではなく、体重を乗せた蹴りをルディアの腹に向けて見舞う――が、紙一重で後ろに飛んでさけるルディア。
――これでも駄目かッ!?
避けられても攻撃の手を休めずに再び後退したルディアに向かっていく。
しかし、一向にイルミの攻撃はルディアに当たらない。
――くそ、ちくしょうッ!
段々と当たらない攻撃に苛立ちを覚え始め
――こんな事で……!!
「っ!」
乱れた心はイルミの攻撃にも乱れを生じさせ、熱くなった気持ちは技の精度を欠いた大振りを誘発させた。
精度を欠いた攻撃は軽く避けられ、今度は大振りの代償としてイルミが体勢を崩す。
その隙をルディアは見逃さない。
「グッ!?」
鳩尾を殴られ苦痛の声と共に少し後ろに飛び、痛みで崩れ落ちる。
吐き気と痛みが混ざり合い、しばらくイルミは蹲り立てなくなる。
「おーい、立たないと死んじまうぞイー坊」
ルディアがイルミに歩いて近付いて行く。しかし、内臓に相当なダメージを受けたイルミは立ち上がれない。
歯を食いしばって立ち上がろうとしても、体が言う事をきかない。そして――
「はい、死んだ――と」
ルディアはイルミの肩を叩く。
「ん? マジで立てないみたいだな。ちと力を入れすぎちまったか? 大丈夫かイー坊?」
ルディアに手を差し伸べる。
「だ、大丈夫……」
脂汗を流しながら、痛みをこらえその手を取ると、ルディアが軽く引っ張ってイルミを立ち上がらせる。
「いったん回復薬を飲んどけ」
「う、うん」
腹部を押さえながら、イルミは広場に置いた自分の鞄まで行き、体に受けたダメージ量を考えて、少し勿体無と思いつつ、中位回復薬を呷る。
すると腹部に受けた痛みが少しずつ和いでいき、疲れが抜け体も少し軽くなる。
鞄の中にある残りの回復薬のストックが随分減っている。
この前。コーデリアが失敗した。また作らなければとイルミは思いながら腹を擦る。
贅沢に中位回復薬を使ったおかげか、大分痛みが軽くなった事を感じる。これなら、まだ続けられそうだとイルミは思う。
「まだやれるかイー坊?」
「まだ、やれるよ」
いまだにイルミの闘争心は鈍らないようである。
「よし。でも、その前にだ、イー坊。何を考えたかは知らないけど、いや、弟分が何を考えていたのかぐらい大体分かるが、余計な事を戦闘中に考えるな。お前の場合は一発が致命傷になり得るんだから。熱くなって隙を作れば死ぬぞ?」
――レベル1なのを自覚しろ。
ルディアがイルミに初めて教えた事だった。
自分のステータスの低さを理解させる所からイルミの訓練を始めたのだった。
戦闘をしない事が一番いい、だが勇者を目指す上で避けられない戦いはある。その戦いにおいて、攻撃を一発も食らってはいけないと教えていた。
さっきルディアが言ったとおり、その一撃はイルミにとって十分致命傷に成り得るからであった。
動きを止めるな。
足を動かせ。
武器を扱え。
捉えられたら終わり。
攻撃を喰らえば死ぬ。
レベル1なのを自覚しろ。
全てルディアがイルミに教えた事であった。
「……でも、まあ。短刀の扱いもかなり上手くなったじゃねえか、イー坊! 熱くなって、俺もつい力んじまった」
ルディアは気さくな笑顔をイルミに向ける。
「速さも技術も合格点。ちょっとメンタルが子供だが、よくここまで強くなるもんだ」
「……全然だよ。僕はもっと強くならないと。ルディ兄にも負けないくらい、もっと、強く」
「ははっ! それでこそ俺の弟分! けどなイー坊! こっちも兄貴分として、死ぬまで弟分に背中を見せ続けるつもりだぜ? 超えられるもんなら超えてみろ!」
「うん――絶対に、超える」
まだ見えない程遠い背中だけど、超える。
しばし無言の後に二人とも構え、イルミはルディアに向かって再び走り出した。




