久しぶりの屋敷
『その手は我らを導き、その声は今も我らの心に――』
どんよりと曇った空の下、村の祭司が祈りを捧げている。
埋葬された村人達の前で、残された家族や友人達が泣いていた。
俺達も葬儀に参列し、彼らに黙祷を捧げた。
*
洞窟に逃げていた村人達が戻り、焼け落ちた家から亡くなった人達を探した。
集められた遺体は、村外れの合同墓地に埋葬することになり、俺達もそれを手伝った。
問題だったテッドの死体は、俺とクロネで村の外に運び出して火葬にした。
灰になるテッドをクロネと見つめながら、俺は己が業の深さに嫌悪感を覚えた。
二人に襲われる心配はない。
だが、カイル達が刻んだ傷跡は、これからもずっと村人達の心から消えることはないのだ。
許すことはできないが、二人はその命を失う事で報いを受けた。
これ以上は彼らを責めることはできない。
ならばここから先、俺が皆に出来ることはなんだろうか……。
「戻ろっか、クライン」
「ああ……」
*
心配していたタタ爺は、無事一命を取り留めた。
急激に引き上げられた能力に、老いた身体の方がついていけなかったようだ。
ポーションの副作用は、ポーションでは治せない。
回復を待つか、回復術士に魔法をかけてもらうしかない。
幸い、リターナのお蔭で、レグルスに使い魔を飛ばすことが出来た。
もう少しすれば、ピグマさんに手配してもらった回復術士が派遣されて来る。
しばらくは安静が必要になるだろうが、じき回復に向かうだろう。
俺達は別れの挨拶のため、タタ爺の元に訪れていた。
「クラインさん、何とお礼を言っていいのか……」
ベッドに横になったまま、タタ爺が言った。
「いえ、お礼だなんて……」
俺はぎゅっと拳を握り締めた。
「あ、あの時……、俺が彼奴らに情なんてかけなければ……こんなことにはならなかったんです」
「クライン……」
クロネが悲しそうな目を向けた。
「クラインさん、それは傲慢というものです。偶然、彼らがこの村に辿り着いてしまっただけのこと……。貴方に罪は無い」
「そ、それは……」
「私が強ければ、こんなことにはならなかった……。こう、私が言ったとしたらどうですか? これと同じ事を貴方は言っているのですよ? それに、例え獣相手でも、慈悲を忘れなかった貴方は胸を張っていい……因果の全てを背負う必要などないのです……」
タタ爺は天井を見つめたままで、ゆっくりと優しく、言い含めるように言った。
「タタさん……」
「さあ、お行きなさい。クロネちゃん、素敵なお土産をありがとうね」
ベッドの横に立てかけられた木刀を見て、にっこりと微笑むタタ爺。
「タタ爺……」
クロネの瞳が潤んでいた。
俺も思わず涙が溢れそうになったが、必死に堪えた。
「こ、今度はもっとびっくりするようなお土産を持って来るね!」
タタ爺は小さく頷いた後、ゆっくりと目を閉じた。
*
ヨルトの村を出た俺達は、森の屋敷に戻ってきた。
屋敷の前で飛脚竜達に赤黒い餌をやると、竜はメンブラーナ領に向かって走り出した。
「やっと帰って来たわね」
「ああ……」
玄関に向かうと、数人のメイドとギルモアさんが出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、我が主がお待ちです。食事も用意しておりますのでどうぞ」
「やったーーっ!」
クロネが満面の笑みで飛び上がった。
「ふふ、楽しみ」
リターナも弾むような足取りでギルモアさんの後に続く。
まだ、少し気が重いが、塞ぎ込んだからといって死者が生き返るわけでもない。
無理矢理にでも笑って生きねばと俺は自分に言い聞かせた。
部屋に入ると、大きなテーブルに豪華な料理が並んでいた。
「うわぁ!」
「こ、これは……⁉」
「とっても美味しそうね」
俺達が興奮気味に騒いでいると、リスロンさんが姿を見せた。
「やあ、帰ったか。さ、お腹も空いているだろうし、食事にしよう」
「あ、はい!」
「んふー! 最高!」
クロネは凄まじいスピードで料理を平らげていく。
「あらあら……料理は逃げないわよ」
リターナはくすくすと笑いながらも、クロネに負けないくらい食べている。
「よっぽどお腹が空いていたんだな……」
呆気に取られるリスロンさん。
「あはは……、道中色々ありまして」
「で、どうだ? 上手く行ったか?」
「はい、これを」
王印入りの書状をリスロンさんに渡した。
「ははは! よくやった! さすが私の見込んだ男よ!」
俺はリスロンさんに、道中で起きた一部始終を説明する。
「そうか……それは難儀であったな、私もできる限りの事は協力しよう」
「ありがとうございます」
リスロンさんは頷き、ワインを一口飲んだ。
「そうだ、食事が終わったら、紹介したい者達がいる」
*
食事が終わって、屋敷の敷地内にある離れに案内された。
屋敷の客室が足りなくなった時の為に建てたというが、この建物だけでも十分生活できそうな大きさだった。
「紹介しよう、我らに協力してくれるエルフ族の若者達だ」
十二人のエルフが横一列に並んでいた。
肌や髪の色は様々だが、皆、顔は恐ろしく整っている。
「どうも、クラインと言います」
「クロネよ」
「リターナです」
それぞれに挨拶をすると、エルフ達の中で、一番年長に見える青年が代表して挨拶を返す。
「初めまして、皆様のことはリスロン様から窺っております、我らに出来ることであれば何なりとお申し付けください」
やや緊張したような表情で俺を見ているが、その瞳の奥からは何か強い力を感じた。
「こちらこそ、エルフ族の方に協力して貰えるとは光栄です。えっと、僕は貴方たちの主人ではないですから、もっと気楽に接していただけると嬉しいです」
「そ、それは……」
青年がリスロンさんに目を向ける。
「そうだな、急な環境の変化に戸惑う事も多いだろう。ゆっくりと慣れていけば良い」
「は、はい」
「クライン、彼らには早速、この近くに村を作ってもらう。最初の拠点だ」
「では、早速商人に声をかけますか?」
「そうだな、資材は森で調達出来る。人夫の方も近隣の獣人達と彼らで間に合うだろう。商人達には建物の配置や必要となる施設など、そういった部分で知恵を借りたい」
「なるほど、わかりました、すぐに手配します」
「頼むぞ。では、詳しくは明日にでも打ち合わせをしよう。今日はもう休むといい」
「ありがとうございます、では……お言葉に甘えて」
リスロンさんとエルフの青年達に軽く会釈をし、俺達は離れを後にした。
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